自己紹介をしましょう
「今日からここが貴方の家ですよ」
「くろにいちゃんとふたりですむの?」
「そうですが、なにか?」
「えっと、えっと、なんだっけ、ふたりですむの……あ、あー、あいのすだってばよ!」
「どこでそんなふざけた台詞覚えやがりやがったんですかナルトくん」
ひくっ、とシカマルの口元が引き攣った。




二人が三代目から貰った家はかつてミナトが『僕はもう疲れた〜』と火影になる前、暗部総隊長時代に作った隠れ家だ。
三代目もここの存在は作られてミナトが火影になるまで知らず、何度もストを起こして逃げ回ったミナトを追った末見つけた場所である。
純和風と洋風がごちゃまぜになったような家は縁側に和風庭園、そのど真ん中に噴水と何を考えて作ったのか理解に苦しむ風体の物だったが、中は案外普通で広い和室が縁側の真横にあり他は洋室。
フローリング仕立ての床の上に日用品が申し訳程度に置いてある。
長年使用されていなかったとの事だが埃の類は蓄積されていない。黒月がちらっと視線を入口の柱に向けると細かい術式が一区間にぴっちりと書き込まれていたのでそういう術がかかっているのだと理解できた。
掃除の手間が省けて良かったと内心安堵の息を漏らす。
正直、掃除とかめんどくさくて嫌だったから。
「さて、と。それではナルトの部屋を決めましょうか。どこが良いですか?」
頭の上にたんこぶを付けたナルト……先程の発言に対し行った教育的指導……にシカマルはにっこり笑いながら問う。
うにゅぅーと頭を抱えながらシカマルを見上げるナルト。
「可愛いですねぇ」
思わずシカマルから本音が漏れても仕方ない。
シカマルの台詞に目をくりくりとさせながら、可愛いと言う言葉を褒め言葉と受け取ったらしい、一瞬輝いたような顔になるがすぐにナルトは眉を寄せた。
「おへや、ナルとじこめられるってば?」
不安げにシカマルのズボンを握り絞めるナルト。
「しませんよそんな事。なんで閉じ込めないといけないんですか」
「みんな、そういってた」
むぅっ、と唸って下を向くナルトにシカマルは眉根を寄せてまだ幼いナルトが今までどんな扱いを受け続けて居たかを改めて認識し頭が痛くなってきた。
今年で四歳なのに片言の言葉、その癖発言は反比例して子供が発するには不適切だったり(一部変な知識込みで)多分頭は良い方なんだろう、それを活用出来てなかったり。
教えることは多そうだ。
「良いですかナルト。ここでは理不尽な事でナルトに痛いこと、苦しいことは絶対に起こりません。ですからナルトは自分の思う通りに行動してかまいません。私の言ってることが分かりますか?」
「うん」
首を縦に振るナルトにシカマルは笑みを濃くして優しく頭を叩く。
柔らかい振動が気持ち良いのか擦り寄るナルトにやっぱり子猫のようだとシカマルは思った。
それからナルトは顔を上げて可愛いらしく笑うとシカマルに向かって話しかける。
「どのおへやでもいいの?」
「えぇ」
「ならナル、くろにいちゃんのおへやのとなりがいいっ!」
「……私の?」
きょとっ、とシカマルがするとナルトは頭をぶんぶんと激しく上下させた。
「それでね、ドアでね、つながったおへやがいいってばよ」
つまり続き間が良いと言っているらしい、ナルトの台詞の真意を悟ったシカマルはクスクスと小さく笑って了解した、と言いずらっと無駄に多い個室のうちの一つの部屋に入りぺたぺたと壁に手を置きポーチから取り出した札を貼付けた。
「ここで良いですか?」
「うん!」
「では…」
筆でさらさらと術式を書き込みそれを終えればシカマルは両手を組んでグッと札の上に押し付ける。
すると今まで真っ白の壁だった場所がぐにゃりと曲がり初めシカマルは手の平でそれを撹拌して形を作った。
みるみる内に壁に扉が出来上がって行くのをナルトは目を輝かせながら見つめる。
「意外に壁が厚くて手間取りましたが…こんなもんですかね。ナルト、ドアのぶは届きますか?」
「とどくってばよ。くろにいちゃんすごいね!」
「ナルトも強くなれば出来ますよ」
「ほんと?ナルもこれできるようになるってば?」
「勿論、だってナルトはミナト様のご子息、きっとミナト様と…いえ、それ以上に強くなれます」
シカマルの言葉にナルトはふるふると震えた。それは恐怖などの震えではなく、興奮したそれ。
大きな青い目を輝かせシカマルを見つめるナルトの言いたいことは簡単に分かった。
目は口ほどにものを言うとは良く言ったものである。
「私が、修業してあげますよ」
「ほんと、ほんとに?」
「本当です。私はナルトに嘘はつきません。絶対に」
微笑むシカマルにナルトは飛び付いてぎゅぅぅうっと抱き着いた。
ちょっと、いやかなり可愛いさ炸裂な行動にシカマルもぎゅっと抱きしめ返す。
「かーわいいー」
すりすり女の子がぬいぐるみなどを抱きしめて顔を擦りつけるようなそれを満面の笑みで行うシカマル。
クールな総隊長形無しだった。
しかしきっと今のシカマルを副隊長辺りが見れば涙を流して喜ぶかもしれない。副隊長はシカマルの事を知っているので子供らしい反応に喜んでいるだけだが他は卒倒間違いなしである。
「あ、そう言えばナルトにはまだ私の本来の姿を見せてませんでしたね」
そこでふと思い出したようにシカマルが呟いた。
ナルトを降ろせば、降ろされたナルトは少し不満そうだった。
「くろにいちゃん、変化してるんだっけ」
「そうですよ。本名覚えてます?」
「シカ!」
「……まぁ良いですけどね」
自信満々に言い切るナルトに突っ込みを入れるのもアレなので軽くスルーしてシカマルは印を組んむ。
「解」
ぽふん、と独特の音を立て霧散する煙。
ナルトが驚いて目を閉じ、そして再度開いた時上にいた黒月としてのシカマルは消え失せ…そろそろと視線を下げると四歳のシカマルが立っていた。
「久しぶりに変化を解くと、視界が変わって変な感じがしますね」
「ふわぁ…」
ぱちくり、と目をしばたたかせるナルトはぱっくり開いた口で言葉にならないような音を出す。
それに気付いたシカマルはナルト同様、小さな紅葉のような手でふにっとナルトの頬を突いた。
「ナルト?」
「くろにいちゃん…ほんとにナルとおなじなんだってばね…」
「そうですよ。一応黒月の姿は私を二十歳位に成長させた姿です」
シカマルはまた印を組み黒月の姿に変化する。
「小さい身体だといろいろと不便なんです」
「…ナルも変化おぼえるってばよ」
「どうしたんです、急に」
「むぅ」
シカマルは知らない。
ナルトが本来のシカマルと成長したシカマルを見て思ったことを。
『絶対ほって置けば自分以外の人間にシカマルを取られてしまう!』と危惧したナルトの本心を。
唸るだけで答えを出さないナルトにシカマルは実演したから興味が湧いたのか?と思いこれ以上は追求しなかった。
もし追求したならナルトの何とも言えない可愛い可愛い独占欲にシカマルが再度抱きしめてほお擦りするのは目に見えている。
最初のお姫様発言の時の苛立ちからくる冷たい態度はどこへやら、すっかりナルトにほだされたのはシカマルも同じだったらしい。
「さ、話しはここまで。荷物を部屋に運んで、終わったら食事にしましょう」
「ごはん?ナルつくれないよ」
「……本みたらなんとかなるでしょう。私が作りますから、ナルトも手伝って下さいね」
「はい!」
しゅぴっと敬礼のようなポーズを取るナルトにシカマルは満足げに頷いた。


END
シカがナルにめろめろ。
でもまだパパの領域。シカマルは親バカ!