序章
暗闇の中を闇より濃い黒が走る。
黒は月の光を浴びて鈍い光を放つ刃物を投擲しながら走る。背後から蛙を踏み潰したような断末魔が残るが気にしない。
黒はひたすらに走った。
びゅんびゅんと景色が変わるのを見ながら、風のように翔ける。
がさりと音が鳴ったので今度はそちらに向かって丸いものを投げ付けた。するとその丸いものは周囲を象っていた薄紙をぴりりと破き丸から灰色の煙に変わる。黒は立ち止まり木の上でゆらりと方向を変えた。
そして今度はすぃっ、と人差し指を宙に踊らせれば灰色の煙が指に従うようにふわふわ軌道を変え円をかく。
ある程度煙が纏まったのを見ると黒はかちり、と歯を鳴らした。
同時に、黒は闇を動かした。
「影煙幕」
ぽつ、と黒が呟けば黒を追っていた別の黒が煙幕と螺旋状の闇に囲まれ小さく収縮していく。
悲鳴が森の静寂を切り裂くが黒はそれを最後まで聞き届けずまた走り出す。
暫く走れば後ろで爆発が起こった。しかし振り返ることなく黒はひらりひらりと木を蹴って目的地に走る。
「やばいですねぇ」
ちらり後ろを見ればあるのは闇。しかしその闇に乗じて沢山の黒がうごめいているのが分かった。
緊張感の無い台詞を吐きながらそれでも足は止めない。
「さてどうしたものか」
黒は長い髪をひるがえし蝶のように舞う。そして目的地に到着した黒は小さく溜め息をはいた。
チリチリと肌を突き刺す殺気がどんどんと近付いてくるのが分かり、額に手を当てる。
途端、黒の前に他の黒が囲うように現れた。
「見つけたぞ、アゲハ姫」
「我らにその命、捧げていただこう。木の葉の闇姫」
「私としては見つけて欲しく無かったんですけどねぇ。あとその名前嫌いなんで呼ばないで下さい」
はぁーぁ、とこれみよがしに溜め息をはく黒にピキリと周囲の空気が固まる。しかし黒は動じない。
黒の目指したこの場所は、障害物の無い広い草原。天気の良い昼間に見るならきっと今すぐにでも昼寝がしたくなるくらいのどかな場所だろうそこは今戦場になろうとしていた。
「ええと、一応聞いておきますけど、私を素直に帰す気はありますか?」
黒の台詞についに我慢できなくなったらしい、集団からクナイが放たれ空からクナイの雨が降る。
空いっぱいに降り注ぐそれを黒は呑気に見上げながら小さく、集団に向かって聞こえるか聞こえないかの呟きを放った。
「このクナイリサイクルできるかな…」
黒は、闇に溶けた。


END