舞姫と歌姫1 「嫌だ」 ゲシッ、とソファーを蹴り上げ吹っ飛ばすナルトに三代目はため息を吐きながらソファーがぶつかるであろう壁に薄い結界を張った。そうでもしなければソファーによって火影執務室を壊されそうだったからだ。 案の定もの凄い勢いで結界にぶつかったソファーはぐしゃり、とプレス機にでもかけたように、チャクラをたっぷり練り込んだ蹴りだったらしく形が変わっていた。 「そうは言ってものぉ…」 「嫌なもんはいーやーだッ!」 しかしここで食い下がる訳にはいかないと三代目も必死になってナルトの説得を試みる。 ナルトから発せられる特大の殺気に普段なら簡単に白旗をあげるのになんだって今回に限りそんなに必死になっているかと言えば、現在三代目の目の前、机の上に置かれた白に金の刺繍の施された、所謂巫女の衣装にあった。 木の葉の里は山に囲まれた隠れ里。その山々には九尾を筆頭とした妖や神の住む神聖な場所が幾つかある。その山々に感謝の念を表すために毎年里の巫女が奉納演舞を行うのだが、先日とうとう巫女たる女性の片方が老衰で亡くなったのだ。 老衰、と言うからその巫女はかなりの高齢だった。何故後継者が居ないのか?と言えば簡単。 巫女は死ぬまでが巫女であり代替えは巫女の死、もしくは舞えなくなったりした場合にのみ交代が行われる。 今回巫女の突然の死により奉納演舞の存続が危ぶまれた。演舞事態は木の葉が出来る前から行われていた行事で今更無くす訳にもいかない。 しかしいきなり巫女の踊りをやれと言われて出来る者は居ないし、そもそも巫女の資格を持たない者がやっても意味が無いのだ。 その辺りを軽くクリアしているのがナルトである。 そもそも九尾は土地神。神格のもほぼ最上位に君臨し、それを腹に宿しているナルトもその気になれば妖を従えることができる。 神が舞えばそれは妖にとって力になるのだから、これ以上の人材は居ないだろう。 が、ナルトは嫌がった。 「なんで俺が、女装して踊らないといけねぇんだよ!」 理由はこれである。 別に巫女の性別は男だろうが関係無いのだが、舞いとなるとそれ相応の格好が必要になるのだ。 「しかしのぉ…おぬしとてこの奉納演舞の重大さが分かっとるじゃろ」 「分かってる、分かってるし拒否出来ないのも分かってるから我が儘言って困らせてんだよ!」 「分かっとるなら素直に受け取らんかい!」 「男の沽券に関わる」 フンッ、と言い切るナルトに三代目は近頃お友達のようなお付き合いをすることになった胃の痛みに腹を押さえた。 どうやらやる気はあるらしい。しかし文句を言ってこちらを困らせる気もあるようだ。 三代目がぎりぎりと悲鳴を上げる胃に涙目になっていると、執務室の扉が開いた。 「おじい様、書類上がったので持って来ました。確認の上承認を」 扉から現れたのは両手いっぱいに書類を抱えた鹿面の暗部、シカマルだ。 暗号解析部やらの長を行うシカマルはデスクワークが多く今日も暗部の任務もそこそこにそちらに行っていた。 「おぉ、黒月か。うむ、ご苦労じゃ」 「いえ…それよりどうしたんです?随分と白陽の機嫌が悪そうですが」 面を横にずらしきょとん、とした顔で腕組をしているナルトを見るシカマル。 書類を机に置いて近寄ろうとすれば、シカマルの両手が開くのをまって居たのだろう、ぽすっとナルトがシカマル目掛けて突進して抱き着いた。 「白陽…?」 「結界張った。名前で呼んで」 「ナルト。どうしたんですか?」 「うー」 ぐりぐりと頭をシカマルの胸に擦りつけるナルト。 シカマルはそっとナルトの頭を優しく撫でながら問い掛ければ、ナルトはピッ、と机の上にある巫女の衣装を指差した。 「今度の奉納演舞、じっちゃんが俺に巫女やれって」 ぶーぶー文句を言うナルトにシカマルはへぇ、とだけ呟いて巫女の衣装を見るとこう、言い放つ。 それは今まで文句を言っていたナルトを黙らせやる気を出させるに十分過ぎる効果を持った台詞だった。 「ナルトが着たら、綺麗でしょうね。舞いも見てみたいです」 瞬間、ナルトが巫女の衣装を机から取り上げくるりくるりと周り始める。 「シカマルがそう言うなら頑張ってみよっかな!な、似合う?」 「はい。綺麗ですよ、ナルト」 にこっと優しい笑みを浮かべるシカマルにナルトは乙女のようにきゃっと小さく呟いてまたシカマルに抱き着き、茫然とする三代目に視線を合わせて言い放った。 「巫女さんやってやるよ!ふっふっふ〜シカマルの為に頑張るからな!」 「頑張ってくださいね。それではおじい様、本日の任務は終了しましたので帰りますね」 「じっちゃんばいばーい」 ひらり。 そう言い残して二人はその場から消え去った。 残された三代目は今まで詰めていた息を吐き、ぐたぁと机に突っ伏す。 「シカマルの言うことは聞くのか、ナルト…」 うっうっう、と自分に対する今までの拒絶が鶴の一声ならぬシカマルの一声によってあっさり180度意見を変えてみせたナルトに涙と胃痛が止まらない三代目だった。 END シカマルに綺麗と言われるなら女装も厭わない男前。勿論シカマルに他意と下心は無し。 [戻る]
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