二面性4
「じゃじゃーん!平伏せちみっこ諸君。マツタニ屋の一番人気苺の生チョコケーキだぞ!」
きらっ、と背後に星を飛ばしながら入って来たシカクにナルトとシカマルは読んでいた禁術書(見た目絵本)から視線を上げて首を傾げた。
二人は現在火影の執務室内で火影に保護されている子供と言う姿でいる。
だって今はお日様も天高い真昼間だ。暗部が居てはおかしいだろう。
「シカクのおっちゃん、任務はどーしたの」
「ん?そりゃあもう可愛いナル坊とシカマルの為に瞬殺だ」
でれでれぇ、と格好を崩す普段はクールで渋い頼りになると中忍勢から兄貴の異名を欲しいままにしている奈良上忍、シカクは手に持ったケーキボックス二つをナルトに突き出した。
残ったもう一つは書類整理をしていた三代目に。
「これ奥方に」
「おぉ、スマンのシカク」
「いやいや、それでこれを期にナルトとシカマルをうちに連れて帰りゴブァッ!」
賄賂…とナルトの頭にその二文字が浮かんだ瞬間、入口からクナイもかくやな破壊力でシカクの頭に下駄が投擲される。
見事な手応えを与えたそれはシカクと共に地面へ。
残った三人が下駄の飛んで来た方を見れば長い黒髪をさらりと翻しながら室内に入ってくる女性、奈良ヨシノ。
「あら、居たの」
それは明らかに殺意を持って下駄を投げた人間の言う台詞では無いだろう、と思ったが会えて口出ししなかった。
否、口出し出来なかった。
本能は彼女に逆らってはいけないと言っている。
倒れたシカクを蹴り上げ部屋の隅に転がした後下駄をはいたヨシノはくるりと向きを変えナルトとシカマルに笑顔で近づいた。
「こんにちはナルちゃん、シカマル」
「ヨシノママ、こんにちは」
「身体、もう大丈夫なんですか?」
「ふふっ、えぇ、大丈夫よ。馬鹿亭主をノせるくらいには回復したわ」
そう言って更に笑みを濃くするヨシノ。
生まれたばかりのシカマルを親族に奪い取られたのが原因で気を病み、止めとばかりに病にまでかかった彼女が退院したのはつい最近の事。
それ以前からもナルトとシカマルは良くお見舞いに行っていた。
「今日はね、二人にお礼がしたくて来たのよ。二人には沢山励まされたしね」
「シカマルのお母さんなんだから当然だよ。将来的には俺のお母さんだし」
「ナルちゃん……可愛いッ。良い、絶対シカマルを落としてお嫁さんになるのよ!私も応援するわ!」
「ヨシノママ!」
ひしっ、と抱き合う二人。
横目でそれを見ていた三代目はキリキリと痛む腹を押さえて唸り声を上げる。
ちなみにシカマルはケーキボックスが気になるのか二人の話はカケラも聞いてなかった。
「母さん、これなんですか?」
ちょいちょいと指先で白い変な形の箱を突くシカマルは抱き合っている二人を見ながら言う。
二人のこれは今更なので特に突っ込みは入れない。
「ケーキよケーキ。それより敬語はやめなさいって言ったでしょ」
「うっ…うん。ごめん」
「よろしい。そのケーキ木の葉で一番有名で人気のケーキなの。二人に食べて貰いたくて買ってきたのよ、あいつが」
ついっ、とヨシノが指差すともう復活したのか偉そうに踏ん反り返るシカクの姿。やっぱり威厳はどこにも無かった。
「ふっふー、俺ケーキとか久しぶりに食べる!ありがとうヨシノママ」
「……」
「シカマル?どうした?」
「…いや、ケーキってそう言えば初めて食べるなぁと思って」
『はい?』
その言葉にシカクとヨシノが声を上げた。
子供がケーキを食べた事が無い?と。ちろりと視線を向ける二人に、向けられた三代目はあぁと呟く。
「おやつは煎餅しかやっとらんかったのぉ」
のほほんと発せられる台詞に確かに若い人間がいなければ馴染みの無い甘味類は与えられないな、と納得した。
それと同時にもっと早く持って来れば良かったと思う。
喜々として箱を開けるナルトとそれを横から興味津々と言った様子で見つめるシカマル。
そしてそれぞれ付属していた紙皿とプラスチックのフォークを握り、ナルトは笑顔で、シカマルは不思議そうにそれを口に入れた。
「う、ううぅぉおいしいぃー!!」
きゃーっ!とはしゃぎつつ花が咲くような笑顔で笑うナルト。その余りの愛らしさに三代目とシカクが思わずカメラのシャッターを切った。何故カメラを常備しているかはご愛嬌。世の中突っ込んではいけない事は多いのです。
「な、ななっ、シカマルも美味しいよ………な…」
そんな訳で年相応にはしゃぎまくるナルトがくるんっと横に向いたシカマルを見た瞬間固まった。
見ていたヨシノも固まった。
何故かナルトの顔は真っ赤になっている。
どうしたんだ?と椅子から立ち上がった三代目とシカクが一緒になってシカマルを覗き込んだらやっぱり固まった。
なんで皆一斉に固まったか……それはシカマルがほにゃりと物凄く幸せそうに笑っていたから。
余り表情を表に出さないシカマル。ナルトこそ優しい笑顔だとかを見慣れているが、それとは違う。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ可愛いかったのだ。
「あまい…おいしい」
ふにゃふにゃ笑いながらぱくぱくとケーキを食べていくシカマル。始終笑顔のまま食べ進めたシカマルを見たナルトは思わず自分の分をシカマルに差し出した。
「これも食べて良いよ」
「良いんですか?」
「良い」
ずいっ。
差し出されたケーキとナルトを見てシカマルはまた笑った。
「ありがとぉ」
「ー―――――ッッッ!」
ぼひゅっとナルトの顔から火が噴き上がらんばかりに紅潮する。それくらい破壊力があったのだ、それは。
すっかりカチコチになってしまったナルトを余所にシカマルはケーキを食べる。
見ていた大人三人は思った。
シカマルにもっとお菓子を食べさせようと。


END
うちのシカさん激甘党。