二面性3 「俺が暗部総隊長の空だ」 そう言って差し出された手を見た銀と黒の青年は固まったまま。 緊張しているのだろうか?と首を傾げた空、もとい猿飛アスマに今まで何のアクションも起こさなかった二人が揃って口を開いた。 「ある日〜」 「森の中〜」 「熊さんにぃ〜」 「出会った〜」 「花咲くもっりっのっ道〜」 「熊さんに出会った〜」 一通り言い終わったらしい、面をしているので本当かどうかは分からないが声の平淡さから言って明らかに無表情でそれらを歌い上げた二人の青年の雰囲気は心なしか満足そうだ。 今この場に集まった暗部たちを除いて。 しぃん、と静まり返る室内。 そんな静寂は、歌った本人たちの目の前、歌を捧げられたのであろう大柄な男が口元を引き攣らせながら破った。 「…とりあえず、お前ら嫌いだ」 『ありがとう』 無表情のまま青年たちは頭を下げ、それを傍観していたカカシ、イルカ、三代目は両手で顔を覆いさめざめと涙を流す。 暗部始まって以来、最低最悪の入隊式の様子は瞬く間に暗部しいては上忍たちの間に広がったのだった。 「いやぁなんて言うかほら、あれだよ。手違い。ねぇ黒月くん」 「そう、手違いだったんですよね白陽さん」 「と言うわけで俺達は帰りマス」 「今までアリガトウゴザイマシタ」 それだけ言って逃げようとする二人を三代目は両手に固く握り締めた拳を作り頭を下げる二人の上に振り下ろした。 三代目からの、チャクラまで練り込んだゲンコツを受けた二人の青年、ナルトとシカマルは両手で頭上を押さえて唸り声を上げる。 「だってしょうがねぇだろ!気がついたら歌ってたんだ!!」 「気がついたらでデュエット出来るのかおぬしらはッッ!」 「任せろ俺と黒月は運命共同体だから」 「何故か頭の中で流れたんですよねぇ。ね、白陽」 「そーそー」 けたけたと笑い声、その場にいた三人には悪魔の笑い声、を響かせる二人いわくインスピレーションがどわぁっと沸き上がった結果らしい。 ある意味神聖なる入隊式をそんな理由でぶち壊した二人にもはやかける言葉が見つからない。 流石四歳児。 どれだけ老成していようが頭がよかろうが、面白いことに対する欲求への行動力は素晴らしい。 しかしながらそれらは時に凶器。 現に今暗部内ではこの新人二人に対してそりゃあもう物凄いクレームが殺到(解析戦術戦略除く)している。 完全孤立状態を作り上げた二人はしかし、楽しそうだった。 「おぬしらを受け入れてくれるチームが無い」 「カカ兄ちゃんたちン所は?」 「あのネ、ナ…じゃなくて白陽クン。俺達の階級知ってて言ってるデショ?それと今は銀(シロガネ)だから」 「はいはい。で銀は総隊長率いる部隊の捨て駒だろ〜」 「捨て駒…ま、まぁ良いけど。どうせ訂正したって無駄だし…で、そこまで分かってるなら言わなくても良いよね」 「そりゃ喧嘩売り付けた相手をわざわざ自分の隊に入れるなんて集団リンチ目的以外に無いもん。大人って怖いネー」 やれやれと息を吐くナルト。 三代目とイルカは目尻を押さえて上を向いた。 どこで育て方を間違えたんだろうと思わずにはいられない。 そんな二人を静観していたシカマルはふと、声を漏らす。 「でしたら俺達はチーム組まずツーマンセルか単独でやれば良いじゃないですか。絶対そっちの方が正体ばれずに済みますし安全ですよ」 「おおっ、黒月ナイス!」 その台詞に便乗するのは勿論ナルト。 台詞と共にがばりと飛び付き背中をシカマル胸に預け、ついでに両腕を取り自分にいそいそと巻き付けさせる。 シカマルは対して抵抗もせずナルトのなすがまま。最終的にナルトに恋人抱きする形になるがやはり気付いていないようだ。 「おぬしら何やっとる」 「えー、スキンシップ?」 「ナルトが俺に寄り掛かってるだけですよ?」 片や確信犯。片や超自然に言ってのける。 「てか俺黒月以外と組むのヤだし?黒月が他の奴と組むのも論外。って事で俺らはツーマンセルで決定な!」 「白陽!おぬしまさか全て計算の上でッッ」 にやっ、と笑った顔はシカマルからは見えない。 そう言えば最近ナルトは寝る前なんかに森の熊さんを鼻歌で歌っていた。 つまり普段あまり失礼なことをしないシカマルさえも術中に入れたのだ。森の熊さんをリピートしそれを無意識に脳に刻み付けあたかも自然にそれが何かのきっかけで出てくるように。 「ふふっ…これで吊橋効果でも出ればシカは俺のモノ」 楽しげに呟くナルト。何故かそれはシカマルの耳には入らない素敵な魔法がかけられている。が、周囲にはばっちり聞こえているのでタチが悪い。 「白陽だけは、敵に回したくないな」 「激しく同感です」 イルカの疲れたような呟きにカカシが賛同し、三代目は突っ伏して机を叩いた。 「皆、どうしたんです?」 「黒月は気にしなくて良いんだよ」 「そうですか?」 「そうなの」 満面の笑みを浮かべるナルトにそうなのか、と納得したシカマルは頷いた。 こうして後に暗部最強と言われる火影直属の部隊、暗部零班が誕生したわけである。 END [戻る]
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