いよいよ今週から真澄くんの所属する劇団の公演が始まる
見に行く日、千秋楽が待ち遠しい

「あ、おはよう真澄くん…なんか疲れてるね」
「…ん、」

学校に来たと同時に彼は机に突っ伏してしまった
よほど公演の疲れがたまっているのだろう
いくら体力お化けな真澄くんも学校終わってその後に舞台という生活はとてもハードなのだろう

その後も真澄くんは机に突っ伏したまますやすやと眠って授業を過ごした
一番後ろの席であるのが幸いし、先生にもバレずに終わったのだ
…授業のノート、今度見せてあげよう

「……?」
「あ、起きた。おはよう真澄くん」
「おはよ…今何時」
「もう1時だよ、お昼休みなって少したったくらい」

のそのそと起き上がってきたのはお昼過ぎ
まだ寝ぼけているみたいで欠伸が出ている

「…昼ご飯」
「うん、ちゃんと作ってきたよ」

今日は週2のカレーの日、そして今週は真澄くんじゃなく私が作ってくるようになっていた
真澄くんのレシピ通りに作ったカレー。味見した時は美味しく感じたけど、私は真澄くんが作った方が美味しいと思った
やっぱりレシピを作った本人が作るのが一番なのだろう

「…いただきます」
「どうぞ、って言っても真澄くんレシピのカレーだけどね」
「ん、うまい」
「ほんと?でも、やっぱり真澄くんが作った方が美味しいと思う」
「そんなことない。なまえが作った方が美味い、…アンタが作ってくれたってのが嬉しい」
「…ありがとう」

真澄くんは前から思っていたけどすごく褒め上手だ。
私の喜ぶ言葉を沢山言ってくれる
クールな彼は、実はとっても優しいのだ

「このカレー、ちょっと監督のに似てる気がする。…アレンジした?」
「ううん、そのまま作ったよ。火加減とか目分量にした分はちょっと違うかもだけど」
「そう、ならいい」

そう言って少し機嫌良さそうにカレーを頬張る真澄くん
きっと監督さんのことを思い出しているんだろう
そう思うとこの前買い物に行った時と同じような痛みを感じた
今日はまだカレーを食べていないのに、また胸焼けだなんておかしい
そう首を傾げつつ、お茶を飲んで落ち着いてからカレーを食べ始める
なんだか胸が苦しくてあまり食べる気になれない。
お茶で残りのご飯を流し込み、余ったカレーは全て真澄くんに食べてもらった。

その後の授業もあまり身が入らず、気づけば放課後になっていた
真澄くんは今日も素早く帰っており、LIMEに一言『行ってくる』とだけ入っていた
ぼーっとしている私を見かねて入れてくれたのだろう
たった一言、これだけで何だか嬉しくなり少しモヤモヤが取れた気がする

「…よし、帰ろう」

そう思い立ち上がったと同時に携帯が通知音を鳴らした
またLIMEが入ったようだ
友達からかな?と思い見てみると、それは演劇を最近始めたという知り合い、私の従兄からだった

優しい君と心のモヤモヤ

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