「碓氷くん、カレー好きなの?」

その日に声をかけたのは昼ごはんにお弁当としてカレーを持ってきていた彼が珍しかったから、ただそれだけ


碓氷真澄くん
彼は私の通う花咲学園高校では有名人だ。それもイケメンという理由で
そんな彼のことは噂で聞いていた程度だったため、同じクラスになり隣の席になっても最初は噂の彼だと気づかなかったほどだ

碓氷くんの性格はとてもクール
だがそこがいい、と友達が語っていたが私は少し苦手だ

最初は静かな子だな、という印象しかなかった彼を苦手になったのには理由がある

発端は進級して丁度1週間たった日のHRだ
私のクラスは担任の先生の方針で1年間席替えをしない
そこで担任は隣の人と自己紹介をして仲良くなろう、と交流時間を設けた
確かに1年ずっと隣なら交流すべきだろう
そう思い私は碓氷くんに声をかけた

「えっと知ってるかもしれないけどみょうじなまえです。〇〇中出身だよ」
「…碓氷真澄、△△中」
「…あー、碓氷くんは」
「あのさ」

突然遮られて私はびっくりした
彼から話しかけられたことなんてこの1週間一度もなかったから

「な、なに?」
「俺、アンタと別に仲良くする気ないから」
「…え?」

そう言うと彼はそのまま机に伏せて寝てしまったのだ
仲良くする気がない、そう言われて好感を持てる人がいるだろうか?
少なくとも私は持てない
周りが楽しそうに話している中、私は黙って席に向かうしかなかった

こうしてこの日から碓氷くんに対し苦手意識を抱くようになったのだ

そんな私が彼につい声をかけてしまったのは5月の半ばに差し掛かった頃
昼休みのチャイムが鳴り机の上の教材を片付けているとスパイスのいい香りがしてきた
食堂からかな?と思いふと横を見てみると、碓氷くんがカレーを食べていた
確かにカレーは美味しい。しかし昼にお弁当として持ってくるまではないと思う
中身がこぼれたら大変だし、制服について汚したくもない
だから何ともないようにカレーを食べる彼を見て私は無意識のうちに声を出してしまったのだ

「…最近好きになった」
「!そ、そうなんだ」

言葉を返してくれたことに驚き思わずどもってしまった
最近好きになった、とはどういうことなのだろうか
とても美味しいカレーを最近食べたとか…?
そう悶々と考えていると碓氷くんがこちらをじっ、と見ていた

「な、なにかな?」
「…アンタ、カレー好き?」
「カレー…?う、うん好き」
「そう」

…今のはなんだったのだろう
しかし彼から話を展開してくるとは思わなかった
仲良くする気はなくても話すのはいいということなのだろうか

第一印象は大事にしよう

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