※しばらく表に出してた「今かいつかの話」と同じものになります。


夜時間の放送が流れると同時に扉の方からガチャンという音がした

「…え?」
「あれ?今なんか音した?」

私と王馬くんは明日の探索で使えるような懐中電灯や回収用の袋など、何か役に立つものがないかを倉庫で探していたのだが、
夜ご飯を食べたあとに始め、思ったよりも熱中してしまったために気付けば夜時間を迎えていた

「なーんか嫌な予感がするなー」
「王馬くん入口に近いよね?ちょっと見てきてくれない?」
「しょうがないなー」

私がそう言うと王馬くんは入口の扉に近づいて行くようだった
普段嘘つきなのにこういう時は素直に聞いてくれるんだよなあ

「…あれ?」
「よいしょ、っと、どうだった?」

私が脚立から降りてくると王馬くんは扉の前で首を傾げていた
一体何があったのだろうか

「王馬くん?」
「…みょうじちゃん、」
「な、なんでしょう」
「…俺ら、閉じ込められてる」
「……え?そ、そんなまさか」

ありえない、そう思い扉に手を伸ばし開こうとしたのだが

「あ、開かない…」
「ほんとに決まってるじゃん!なんでこんな時に嘘つかないといけないのさー!」
「いや、普段の君を見てたらそう思うのも仕方ないでしょ」
「にしし、それもそうだね」

そうやって笑う王馬くんもちょっと焦っているみたいで、いつもよりも顔が険しいように思える
しかしなぜ閉じ込められたのか、倉庫には夜時間立ち入り禁止という校則も無いし、鍵がかかるなんてことも聴いたことがない

「ねえ王馬くん、この倉庫って鍵ついてた?」
「んー、ついてたとは思うけどずっと開いてたし気にしてなかったな…あ、これかな?」

そういって王馬くんが指さしたのはタッチパネル式の操作版、入口近くの壁についているからきっとそうだろう

「王馬くんパスワードとか知ってるの?」
「知る訳ないじゃーん、ていうかこれなんか適当に試そうと思ったけど無理だね」
「どうして?」
「ほらここ」

何やらタッチパネルの上に説明のようなものが書いてある
『間違えた数字を入力するとサイレンが鳴ってエグイサルが出動しちゃうよ!気をつけてね!』

「エグイサルって…」
「ここに閉じ込められたまま来られたらすぐに俺達死んじゃうね〜」
「どうしよう、このままじゃずっと出れないかも…」
「にしし、俺はちょっと嬉しいけどね」
「こんな時に何言ってるの…」
「ほんとだよ?だって、」

みょうじちゃんと2人っきりじゃん?
そう言って王馬くんはじりじりと近づいてきた

「ちょ、ちょっと王馬くん、」
「みょうじちゃんなんで逃げるの〜?」
「王馬くんが追いかけてくるからだよ!」
「え〜酷いな〜近づいちゃダメなの?」
「なんか危険な気がする!!」
「へー、危機察知能力はあるみたいだね、でも」

一気に距離を詰められてぐっと顔が近づく
少しは距離があったはずなのに一瞬で近づかれてしまった

「俺は超高校級の総統だよ?簡単に逃げられるなんてそんなわけないじゃん」

にしし、と笑う王馬くんを見て、何故か私はふと先日美兎ちゃんが発明したものを思い出した
一種の現実逃避だったのかもしれないが、今の現状を打破するのには最適のものをよくこのタイミングで思い出せたと思う

「そうだ、その手があったんだ…!」
「え?」
「これだよこれ、モノパッド!」
「…は?」

ぽかーん、としている王馬くんを横目に私はリュックの中からモノパッドを取り出した

「たしかここに…あ、あった!」
「みょうじちゃん…?何してんの?」
「これだよ王馬くん!通信機能!」
「通信機能?」

通信機能とはこの前美兎ちゃんが発明してくれた優れもので、モノパッドにストラップをつけると付けている人同士で連絡が取れる凄いものだ

「今起きてる人は…あ!最原くんが起きてる!」
「…はあ〜〜ちょっと、俺のこと置いて進めないでよ」
「あ、ごめん王馬くん…でもこれで多分外に出られるよ!」
「いやそういうことじゃなくてさ、」
「よし、早速これで連絡を」
「みょうじちゃん」

どさっ、という音と共に視界に天井らしきものとと王馬くんが映り込む
…あれ?…これって、押し倒された?

「お、おお王馬くん何を、」
「みょうじちゃんが鈍感すぎてもうどうしようもない人だってのはよーくわかった」
「…王馬くん?」

呆気に取られている私を余所に、王馬くんは話し出した

「だいたいいつもは鍵のかからない部屋に閉じ込められるって時点でおかしいし、俺がそんなに動揺してない時点で少しは察することが出来ない?それに俺は脱出しようともせずにみょうじちゃんと2人っきりの状況を楽しんでるんだよ?普通おかしいよね?なのに気づかずにスルーするし、顔近づけても無反応ってどういうこと?」
「へ…?」
「だからー、実はわざと2人で閉じ込められたってこと!モノクマに頼んで!」
「え、えええ!?」
「ほんと鈍すぎるよね、俺じゃなかったら飽きられるレベルだよ」

はーあ、とため息をつく王馬くん
で、でもなんで2人で閉じ込められようと…?

「2人っきりなら意識しちゃうかな、って思ったんだよ」
「い、意識って、その」
「だから、俺はみょうじちゃんが好きなの、わかる?」
「うえっ!?あ、はい!!!?」

顔が火照ってくるのがわかる
きっと今私の顔は真っ赤に染まっているだろう

「あれ、言った方がもしかして意識してくれるの?」
「いや、それはその、」
「じゃあもっと言っちゃおー、みょうじちゃん好きだよ?」
「えっ、え、あの、というか上から退いて…!」
「さっきもこんくらい近かったじゃん、随分と違う反応だね〜?」
「いやだからそれは…!」

王馬くんが私をす、すき、だなんて知らなかったし考えもしなかったから驚きでいっぱいで、なのに何故か嬉しくて、ドキドキが止まらない

「ね、少しは意識してくれた?」
「うう、…し、して、ます、からそろそろ離して…」
「やーだね!」
「えええ…」

その後も揶揄いは偶然通りかかった百田くんがドアを開けてくれるまで続き、倉庫から出られた後もさっきのことを思い出してまた顔が暑くなり、その日は結局眠れずに過ごすことになってしまった。
王馬くんの策略にハマってしまった気がして少し悔しかったけれど、それ以上に喜びがあって、私は王馬くんが好きなのか、と思ってしまうところまで彼の計算の内だったのだろうか

今かいつかの話

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