特に目立ったことがなく終わった1日。今日も平和に過ごせたな〜と呑気に考えながら帰宅していた私はいつもよりもぼけーっとしていたのだろう。駅の改札を抜けて少し歩いてから、明日は土曜日のため友達と遊びに行くことを思い出した。朝早いし、定期にお金をチャージしておこうかな。そう思い駅まで引き返したのだが。

「あれ…?」

バックの外側につけていたお気に入りのキャラクターのパスケース、それが見当たらないのだ。改札を出れたのだからそこまではあったはずなのに…!
焦った私は入っているはずのないバックの中を必死に探したが、当たり前だが見つからない。

「どうしよう…」

ここは駅員さんに落し物がないか聞いてみるか、それとも取り敢えず周辺に落ちてないか探してみるか…、頭の中でぐるぐると考えているとふいに肩を叩かれた気がした

「ねえねえ」
「は、はい?」

続けて声をかけられ、知り合いかな?と思いつつ振り返ってみると、全く見覚えのないお兄さんが立っていた。な、なんの用だろうか…

「えーっと、何でしょうか」
「んーとね、これ、さっき拾ったんだけどー、もしかして君の?」

そう言って彼が差し出したのは紛れもなく私のパスケース…!ケースもそうだが名前も確認するときちんと私の名前が記入されていた

「そ、そうです!私のです!よ、よかったあ…!」
「おー、やっぱりあってたー」
「見つけてくれてありがとうございます!」
「いいよー、偶然拾っただけだしねー」
「でもどうして私のだと…?」
「んーバックの中を必死に探してたし、それも切符売り場の前でってことは財布とか定期とかそういうのかなーと思って」
「す、すごいですね…!でも助かりました、本当にありがとうございます!」
「いえいえ〜」

そう言ったお兄さんはにこにこしながら私に定期を渡してくれた。

「あの、なにかお礼がしたいんですけど…」
「お礼ー?別にいいよー?」
「いや、でも何かしたいです…!その、金欠なのであまり良いものは買えないんですけど…」
「んー」

とても助かったのでお礼がしたい、と言うと彼は一度断ったけど、どうしても…!と私が目で訴えていたので考えてくれた

「…あ!」
「な、何か思いつきましたか!」
「うん!あのね〜俺とさんかく友達になってほしいな〜」
「さんかく…ともだち?」

さんかくともだち…さんかくってあの図形の三角のこと?どういう事なんだろう…

「えっとねー、おれ斑鳩三角、さんかくって書いてみすみ」
「は、はあ」
「君の名前もさんかくでしょ?三角なまえちゃん〜」
「な、なぜそれを…?」
「それ見たから〜」

一瞬怪しい人なんじゃないかと疑ってしまったことを恥ずかしく思った。だってこの人は定期を拾ってくれたから名前を見られていてもおかしくないのに。

「す、すみません、そうでしたね…でもさんかくともだち…とは?」
「俺は名前がみすみ〜なまえちゃんは苗字がみすみ〜同じ三角!だから友達になりたいなって」
「な、なるほど!だから三角友達なんですね!」
「そう〜!それに俺、さんかくが好きなんだ〜!偶然にも三角って名前の人に会えたんだし、仲良くなりたいな〜って」

斑鳩さん、はほんとにさんかくが好きらしい
そういえば彼の服にも三角が入っているしズボンのポケットからはみ出している携帯にも三角のストラップがついている

「えっと、私でよければぜひ、その『さんかくともだち』になってください」
「ほんと〜!?」

嬉しい〜!とキラキラとした目で見つめながら手を取ってぶんぶんと上下に振ってくる斑鳩さん。そ、そうとう嬉しいみたいだ…そこまで喜んでくれるとなんだか私も嬉しい…けど、う、腕が…!

「い、斑鳩さんそ、そろそろ腕を…っ」
「あっごめんね〜つい嬉しくて」

ちょっとしゅんとしてしまった彼はなんだか可愛い。きっと年上なんだろうけどもすごく頭を撫でたい感じの可愛らしさを感じる…

「じゃあ改めて、三角なまえと言います。宜しくお願いしますね、斑鳩さん」
「うん!よろしくね〜なまえちゃん〜!」

斑鳩さんとのこの不思議な出会いによって私の日常はガラリと変わることになるのだが、それはもう少し先の話だ

さんかくともだち

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