仲直り、もとい思いを伝え合うことが出来た私達は楽屋を飛び出してきたことを思い出し急いで劇場に戻った

「ご迷惑をおかけしました…」
「…ごめん」

真澄くんと二人で謝ると皆さんは笑って許してくれた
暖かくてとても優しい人たちだ
真澄くんが柔らかくなったのはこの人たちのお陰でもあるのだろう

「で、2人とも結局付き合えたの?」
「うぇっ!?な、なんでそれを…」
「…盗み聞きでもした?」
「ち、違うよ!」

皆さん曰く、以前より真澄くんが監督監督言わなくなったことで少し察していたらしい。そこに私という友達を連れてきたためある程度予想ができたとのことだ

「まあ上手くいってよかったよ」
「うるさい」
「珍しく真澄が照れてるヨ!」
「照れてない!」

ムキになっている真澄くんはたしかに少し照れているようだ
耳がほんのりと赤くなっている
それにしても団員の皆さんにもあからさまにバレていたのに何で気づけなかったんだろう私…

「とりあえず!夜も遅いし、明日は休みだからなまえちゃん泊まっていかない?」
「え?」
「泊まるって…どこの部屋にですか?」
「至さんだよ!従兄妹なんだよね?なら大丈夫でしょ」
「えー俺?まあいいけど…」
「ダメ、俺の部屋でいいでしょ」
「いや、真澄、俺も同じ部屋なんだけど?」
「アンタが至のとこに行けばいい」
「ワガママか!」

何だか泊まる流れになっているんだけど部外者が入ってもいいのだろうか…

「じゃあ至さんの部屋で!これは監督命令だからね!」
「…手出したら殺す」
「流石に従妹には出さないって」

物騒な会話をしてる彼らを横目に見ながら監督さん…いづみさんにお礼を言う

「急なのにありがとうございます」
「いいんだよ〜!今日は記念日にもなるしね!2人とも幸せにね」
「…っはい」
「それに私とも仲良くして欲しいな。年下の女の子ってなかなか知り合いにいなくて…」
「わ、私でよければぜひ…!」
「ほんと!?嬉しい!」

とても喜んでくれるいづみさんに私も嬉しくなった

話を切り上げて、そろそろ寮に帰ろう、と皆帰り支度を始める
先に外に出てるね、と言われ、気を使ってくれたのか最後に真澄くんと私だけが楽屋に残った

「はあー…何だか落ち着いたらお腹すいてきちゃったかも」
「…俺も」
「舞台の後で疲れてたのにごめんね?」
「別に、アンタのためなら平気」
「そ、っか」

両思い、だと分かっていてもまだ慣れないし、やっぱり照れてしまう
しばらくはこの状態なんだろうな…

「…なんかカレー食べたいな」
「…俺も、今そう思ってた」
「ふふ、すごい偶然だね…そうだ、真澄くん、一緒にカレー作らない?」
「…作る」
「よし、そうと決まれば早く行こう!皆さん待っててくれてるよ!」
「ん」

いづみさんはカレー大好きな人だ、腕をふるって作らないと
そう考えながら真澄くんと一緒に楽屋を出た

寮にお邪魔させていただいて2人で作ったカレーはとても美味しくできたと思う。いづみさんのお墨付きだ
皆さんも美味しい、と言ってくれたし満足だ

「よかったね、なまえ」
「うん、色々とありがとう至くん」
「お礼はこれでよろ」
「はいはい」

至くんの部屋は一人部屋らしく彼好みな空間になっていた
相談のお礼も兼ねて今日はオールナイト決定だろう

「はー、それにしてもなまえに彼氏か…もうそんな年齢になったんだな」
「失礼な、至くんこそ今彼女いないの?」
「んー、2ヶ月前に別れてからいない」
「至くんってモテるのに長続きしないよね」
「まあだって好きな子いるしね」
「…えっ?」

マジか、知らなかった。そんな意味を込めて彼を凝視する

「だ、誰!?どんな人!?知らなかったんだけど!」
「言ったことないしなー」
「教えてよ〜!ね、どんな人?」
「んー」
「至くん〜!」

ゲームに夢中になっている至くんに教えてもらおうとムキになり体を揺らす

「…そんなに知りたい?」
「知りたい!写真とかないの?」
「…じゃあ教えたげる。…なまえ、お前だよ」
「………え?」
「……なーんてね、嘘だよ」
「び、びっくりした。もう、タチの悪い嘘はやめてよ!」
「揶揄いがいがあるよね、なまえって」

ぐぬぬ、と悔しがる私を見て笑う至くんに少し苛立ってしまうのはしょうがないことだと思う

「マジレスすると会社の人、同期の」
「へ〜可愛い人?」
「…鈍感だけど可愛くて何故か放っておけなくて、優しくて人を優先しがちなやつ」
「なるほど〜そっか、至くんも頑張ってね!」
「リア充になったからってちょーしのんな」
「あいたっ」

またデコピンをされた。彼の中でデコピンは流行っているのだろうか…

「ま、せいぜい頑張んな。別れないようにね」
「言われなくても別れないし」

そんな言い合いをしつつゲームをしていたのだが、流石に疲れていたのか私も至くんも気づけばソファで眠ってしまっていた

朝になって入ってきた真澄くんに起こされた時に気づいたのだが、私と至くんは寄り添うように寝てしまっていたらしい

「…手、出さないって言った」
「いや、出してないって」
「…一緒に寝てた」
「出されてないよ真澄くん!」

いつの間に着替えたのか、至くんは後はよろしく〜と言って隙間をくぐり抜けて出ていってしまった。なんで置いていくの…!

「ま、真澄くん…」
「…」
「ごめん、怒ってる…よね」
「…す」
「え?」
「キス、してくれたら許す」
「えっ!?」

怒ってる、と言うよりも拗ねているように見える真澄くんにそう言われ、寝起きの頭をフル回転させて意味を考えるけれども、逆に頭がパンクしそうになる。だってき、キスって…!

「するの、しないの」
「うぇっ!?えっと、その…」
「どっち」
「わっ、ちょっと真澄くん、ち、近い」
「…しても、いい?」
「…っ、は、はい」

強請るようにそう言われ思わず頷いてしまった

「ありがと」
「ん、んうっ」

初めてしたキスは少女漫画でよくあるレモンの味じゃなくてほんのり甘い、カフェオレの味がした
さっき飲んだのかな、真澄くんがカフェオレを飲んでいるところを想像するとなんだか可愛く思えた
けどやっぱり恥ずかしくて思わずぎゅっと目を瞑ってしまう

「なまえ可愛い…」
「は、恥ずかしい…」
「…今度はやっぱり俺の部屋に泊まって」
「え、でも皆木さんが」
「その時は出てもらう」
「本気なんだ!?」

それでも今度はそうしたいな、と思ってしまうので、私は結局真澄くんに甘いんだろう。今までも、そしてこれからも

君と私とカレーライスと

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