「すごい、満席だ…」

今日は千秋楽
真澄くんの舞台を見に来たのだ
会場はそこまで大きい訳では無いが、それでも満員は充分すごい
それが最近復活したばかり、という劇団なら尚更だろう
きっと監督さんは凄い人だ

…また考えてしまった
この間至くんから指摘されてから散々考えて、結局分からなくて考えることを放棄したのだ
そうでないと真澄くんとまともに話せるとは思わなかったから
実際昨日までの真澄くんに対しての態度はおかしくなかった…と思いたい

「まもなく開演いたします」

アナウンスと共に証明が落ち、幕が開く
この瞬間から私はこの劇の世界に魅了されていたのだと気づいたのは公演が終わった時だった

「すごかった…」

初めて見た舞台はとても素敵なシナリオで、役者さんたちが生き生きとして見える素晴らしいものだった
すごい、おもしろい、わくわくする、そんな語彙力のない感想しか思いつかない自分の脳みそが憎たらしく思えるほど充実した時間だった
そういえば途中で気づいたのだが、舞台にはなんと至くんも出ていたのだ
入った劇団ってここだったんだ…
そう思いながらそろそろ帰ろうかと準備をしていると携帯に着信が入った

「もしもし?」
「もしもし、なまえ?」
「真澄くん?舞台お疲れ様!すっごく良かったよ!」
「…ん、今楽屋なんだけど来る?」
「えっ!?いやでもお邪魔なんじゃないかな…」
「…友達って言ったら連れてこいって言われた」
「な、なるほど」

きっと劇団の人たちもあの真澄くんの友達だと聞いたら気になったのだろう
私みたいなのでなんだか申し訳ないな…

「じゃあ行かせてもらうね、どこの部屋かな?」
「楽屋前に出て待ってる」
「ありがとう、今から行く!」

そう言って電話を切ると私は立ち上がり劇場の扉から出た
入口の近くに奥に続いてそうな道があったからきっとそこだろう

「あ、いた」
「…!やっときた」

思った通りそこは楽屋に通じる道だったようで、真澄くんをすぐに見つけることが出来た
既に衣装は着替えてしまったようで私服を着ていた
あの衣装とっても似合ってたから少し残念な気もする

「おまたせ真澄くん、改めて舞台お疲れ様!」
「どうだった?」
「すっっごく面白かった!あんなに素敵な舞台を見れてほんとに嬉しいよ、誘ってくれてありがとう真澄くん」
「アンタが楽しんでくれたならそれでいい」

真澄くんはそう言うとくるっと背を向け楽屋のドアを開いた
い、いきなり開けないで欲しかったな!心の準備とかあるんだけれど!

「連れてきた」
「ちょっと真澄くん…!」
「女の子だ!真澄くんが女の子連れてきてますよ!」
「友達って女の子だったんだ…てっきり男の子とばかり」
「とってもキュートな子ダネ!」
「…え?」

楽屋の中には先程まで舞台の上で演じていた役者さんたちが、もちろんその中には至くんもいて目を丸くしていたのに少し笑ってしまった

「はじめまして、みょうじなまえです。えっと真澄くんの友達、でいいのかな?」
「そう、友達」
「だそうです、そして至くんの従妹です」
「…!?」

これは真澄君も知らなかったようで目を見開いていた
そういえば彼の驚いた顔を見たのは初めてかもしれない
ほかの団員さんも驚いたようで至くんは質問攻めにあっている
そんなガヤガヤとしている楽屋にまた誰かが来たようでドアの開く音がした

「皆お疲れ様〜!」
「監督さん!お疲れ様です!」
「あれ、その子ってもしかして…」
「俺の友達」
「やっぱり…!はじめまして、監督をしている立花いづみです、よろしくね!」
「は、はじめまして、みょうじなまえです」

入ってきたのは噂の監督さん、みたいだ
女の私からしても可愛らしくて優しい美人な人。真澄くんが好きな人ってこの人なんだ、と納得することが出来た
真澄くんも監督さんが来て嬉しいようで他の人と混じってわいわいと話している
いつもよりも柔らかい表情の真澄くんと監督さんを視界に入れるとやっぱり胸が痛くなって、気にしないように俯いた

「…なまえ?どうしたの」
「至くん…ううん、何でもないよ」
「…えい」
「いたっ!」

至くんに声をかけられ、それでも下を向いていると何故かデコピンをされた…なんで?

「な、何するの至くん…」
「なまえ、この前みたいな顔してるよ」
「この前…?」
「この間相談乗った時みたいな顔…あ、もしかしてこの前のって」
「…!ち、違うの、そうじゃないの!」

至くんは何かを察したような顔をしてニヤニヤしはじめた
だから違うんだって、あれは恋じゃなくて、ただ友達が離れるのが寂しいような感じで…

「だったら何で監督ちゃんと一緒にいるのを見て傷つくの?他の人とだとならないんでしょ?」
「そ、それは…その、」
「ほら、説明できないでしょ」

そうは言われてもやっぱりわかんなくて、友達の好きと恋の好きの違いはわかってたつもりなのに頭が混乱してきて何故だか泣きそうになってくる

「…なまえ?」
「…っ」

真澄くんがこちらを見た瞬間に頭が真っ白になって、私は咄嗟に楽屋から飛び出してしまった
一人になって落ち着きたかったのもあるかもしれない
ただあの空間にはいたくなくて、後ろから私の名前を呼んでいる真澄くんには気付かないまま、ひたすら走った

千秋楽観劇と自分の思い

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