愛しきキャラメリゼ



 2月14日。この日付を聞いてまず想像することは何か。一般的にはバレンタインデーとなるが私は違う。この日はバレンタインデーも大事なのだが私の中で最も優先順位の高い物事はただ1つ…そう、大谷羽鳥の誕生日だ!



「と、いうわけで誕生日おめでとう羽鳥くん〜〜!!」

 パンッッというクラッカーの破裂音とともに彼女が僕の部屋にいきなり入ってきたのは夜の23時を過ぎた頃だった。

「…名前、近所迷惑って言葉知ってる?」
「?もちろん」
「……じゃあなんでこの時間帯にそのクラッカーを鳴らしたの」
「え、だって羽鳥くんのことだし防音加工くらいしてるかなって」

 その通りなのがまた悔しい。昔から苗字名前という女の子は人を驚かせることが好きで、特に誕生日のお祝いとなるといつもよりも数倍驚くことを年密に計画して披露してくる。歴代でも印象に残っているのは動物関連、死体ドッキリ、ホラー案件など…思い出しただけで頭が痛くなってきた

「はいはい、とりあえず毎年お祝いありがとう。まあ今年は控えめで良かったよ」
「私も毎年祝うからには羽鳥くんの要望にたまには答えないとね!」
「要望…ああ、静かに祝ってよってやつね」
「そう!だから今年はクラッカーで我慢したんだよ」

 えへん、と胸をはっていう名前は同じ年代の女の子よりも少しお茶目…いや、子供っぽいところがある。そこも可愛い、とは本人には絶対に言わないけどね、調子乗るから

「あ、そうそう!今年のプレゼントはね、こんなものにしてみました」

 じゃーん!と言って名前が取り出したのはラッピングされた少し小さめの箱と小さめの封筒が入った紙袋。

「へえ、開けてもいい?」
「どうぞどうぞ!」

 まずは小さめの箱から開けてみる。中に入っていたのは、まあ紙袋の時点で少し予想はできていたけど某有名ブランドの腕時計。カスタマイズ…いやオーダーメイドかな。俺の髪色やよく着る服の色をモチーフに作ってある

「相変わらずこういうセンスはいいよね、ありがとう」
「一言多いよ羽鳥くん!でも喜んでもらえて良かった〜」

 へへ、と照れくさそうにしてソファに座る足をパタパタと動かしている名前を横目に、まだ紙袋の中に入っていた封筒も取り出して開けてみる。

「あ、は、羽鳥くんストップ!待って!」
「なに?どうかした?」
「私ちょ、っとお手洗い!借りてくる!」

 目を泳がせながら急に立ち上がると、そう言って部屋からダッシュで出ていった名前。なにやってんのあの子。まあいいやと気を取り直し、中に入っていた便箋を読むことにした。折りたたまれた便箋を開くと真ん中に大きく『羽鳥くんへ、誕生日おめでとう!いつもふざけちゃうけど、本当に好きです。大好きです。生まれてきてくれてありがとう。』と丸っこい字で書いてあった。

 …あー、もう、これだから、君から目が離せないんだ。いつもはおちゃらけてる癖に。でも、そんな素直じゃないあの子のそういう所も含めて、僕は名前が好きなんだ。
きっと名前は面と向かって言うのは恥ずかしいし、いつもみたいに誤魔化してしまうから手紙に気持ちを綴ったのだろう。だけどいざとなったら恥ずかしくて逃げ出してしまったのか。
 そう思うとまた愛しさが込み上げてきた。なかなか戻ってこない名前を追いかけて抱きしめて、そして僕からの愛を囁いてあげよう。そう思いながら顔がだらしなく緩んでることに気付きつつも、可愛いあの子を追いかけに部屋を飛び出した。

20190214 羽鳥くん誕生日記念


- ナノ -