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いつもは裏方に徹している自分が何故こんなことに、と上司を恨みつつ艶やかなドレスに身を包み、出来るだけ違和感のないように振る舞う。手に持つワイングラスの中身は先程から少しも減らず、煌びやかなシャンデリアが反射して目が少し痛い。任務で潜入だなんてもう絶対に引き受けない、そう固く決心して目の前の男のよくわからない話に相槌を打つ。

「〜ということがあってね、全く困ったものだよ」
「まあそれは大変でしたね、ですがそのような処分で済ますなんて素晴らしい寛容さです」

適当な相槌と褒め言葉にも喜んでくれるのだから都合が良い。安堵と共にようやく白ワインを口に運んだ。ほんのりと甘い風味が鼻をくすぐる。この調子なら楽に情報が引き出せるかも、と油断していたのが運の尽き。気が付いた時にはあの派手すぎるシャンデリアは頭上に無く、薄暗い部屋のソファへと寝かされていたのだ。意識が急に浮上し、直ぐに状況判断をするために辺りを見渡すと入口の扉付近に立つスラッとした影。夜空のように深い藍色が窓から入る風に靡き、こちらへと歩み寄る。

「…ようやくお目覚めですか」
「誰!って骸さん…?何故ここに…」
「何故って、部下に新しい仕事を持って行ったら居ない。挙げ句の果てに沢田綱吉に聞いたら潜入捜査に駆り出しただなんて、一体どういうことですか」
「その、潜入予定だった方が先日の任務で怪我を負ったらしく…その話を書類提出に行った際、代わりに行けないかとボスに頼まれまして…」

頭上からの視線が痛い。軽々しく仕事を引き受けてくるなと先月も言われたからだろう。先月は丁度大変そうに働く右腕くんの姿を見て声を掛けてしまっただけなのに…。今回の任務、ボスがお詫びに今度私が欲しがっていた限定物のブランドバックをプレゼントしてくださると言うのが決め手であった事は絶対に口を割らないと目を泳がせながらそっと心の中で決めた。

「はぁ、全く貴女という人は…。そもそも、潜入先で出された酒を飲むだなんてどういうつもりですか」
「…お高そうなワインだったから少しくらい大丈夫かなと…お酒に弱くもないですし」
「グラスには睡眠薬が入っていました。…この場に僕では無く、あの男が来ていたらどうするつもりだったんです」
「そ、それは…」

何も言い返せなかった。その通りだ。このままこの部屋に居たら人質として捕らえられたり、情報を吐くように脅されたり、最悪殺されていたかもしれない。迷惑をかけてしまった不甲斐なさに頭を抱えた。

「すみません骸さん、その、捕まったとしても情報は吐きませんが、助けて下さりありがとうございます。ご迷惑をおかけしました…」
「…たまたまです。偶然この屋敷に用があり、遠目で貴女が運ばれるところを見かけたので。…ですが」

謝罪で下げていた頭を恐る恐る上げると、勢いよく手を強く引っ張られ、背後のソファへと縫い付けられた。綺麗な青と赤の瞳に驚く自分の顔が映る。息がかかるくらいの距離に、心臓が大きく音を立てた。

「貴女はもう少し危機感を持ってください。こんな風に迫られていたらどうするつもりです?貴女が優秀だとしても、体格差では男に勝てない」
「す、すみませ、ん」
「……次同じようなことがあれば、この続きをしてしまいますからね」

クフフ、といつもの不思議な笑い方と共に人差し指が唇をそっと撫で、手を解放された。一瞬だけれど、このまま奪われても良いだなんて思ってしまった。艶やかな表情が、愛おしさを感じるような熱を持った瞳が、離れてしまった今も脳裏に焼き付いていた。

ワンライお題「危機感持って」20200810
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負


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