幸福がホットケーキである理由

とろりとした蜂蜜に少し塩気のあるバター。ほんのりとした甘みの餡子に、軽やかなホイップクリーム。ひんやりとしたバニラアイスや濃く艶めくチョコレートソース。雲雀さんオススメの少しほろ苦い抹茶を使ったソースに、小さめに切った新鮮なフルーツ。
甘いものだけだと飽きてしまうからしょっぱめのザクザクとした食感のポテチを砕いたものに、温めればとろっと溶ける濃厚なチーズ、外はカリッと噛むとじゅわっと肉汁溢れる厚めのベーコン。生クリームを入れて弱火でコトコトと煮詰めながら作ったスクランブルエッグやホクホクのジャガイモを潰して粗挽き胡椒とざっくり和えたマッシュポテト。
そして中央にはできたてほやほやのふっくらとした厚みのあるホットケーキ。実はこのホットケーキ、ふわふわにするために実はマヨネーズを混ぜてみた。ネットで書いてあったんだけどうまくいって嬉しい。
テーブル一杯に広がる食材を見て、ちょっとやりすぎたかな、なんて思う。でも今日だけは特別、ちょっとしたパーティーみたいに贅沢しちゃおう。きっとこの光景を見たら驚くだろうな、ディーノさん。材料の調達をしてくれたロマーリオさんにもたくさんの感謝を。

約束はちょうど午後3時、そうおやつの時間だ。なぜこんなパーティーみたいなことをしているかというと、原因は一昨日の夜に遡る。最近仕事が立て込んで目に見えて疲れているディーノさんのことを癒してあげて欲しい、とロマーリオさんから連絡が。突然で驚いたけど日頃の感謝も込めて、わたしで良ければお手伝いさせてくださいと即返事をして、なにを用意しようか考えた。癒しといえば美味しいものを食べること。そう思いついたわたしは得意なお菓子作り、そして目にも楽しく美味しいものをと考えた結果、好みをあまり知らないということもありバラエティに富んだアレンジができるホットケーキを用意したのだ。

午後2時57分、家の近くに車の止まる音がした。窓から見るとそこにはいつもの黒い車。いつもあの車とっても綺麗だな、窓はもちろん全体的に汚れひとつなくて輝いている。もしかしたら専属の車磨きの人でもいるのかな、お金持ちってすごい。

「よっ名前、久しぶりだなぁ。今日は招いてくれてありがとな」
「お久しぶりですディーノさん、もう準備できてますよ」
「ほんとか!名前の料理はすごく美味しいから楽しみだ」

インターホンの音を聞いてスリッパの音をパタパタと立てながら玄関へと向かう。ドアを開けたらいつもの素敵な笑顔が見え、久しぶりに見るかっこよさに少し頬が赤くなった気がする。やっぱりディーノさんはかっこいいな。少し髪が伸びたか?なんて言いながらいつも通り頭をわしゃっと撫でられる。

「こちらですよ〜」
「おお!すごい数だな、想像以上だ…!」
「こちらに座ってくださいね、飲み物は何にしますか?」
「じゃあコーヒーを貰えるか?」
「はい、喜んで」

マグカップにコーヒーを注ぎテーブルへ。席に座りテーブルを眺めるディーノさんの目はきらきらと輝いていて、とても喜んでくれているのだと分かった。準備した甲斐があったなあ、良かった。そう思い口が緩むのを感じながらわたしも席へ着く。

「それでは沢山食べてくださいね、ホットケーキのお代わりもありますから」
「ああ、ありがとな、とっても嬉しい。何より、俺のためにこうやって準備してくれたことが何よりも嬉しいよ。ありがとう名前」
「ふふ、ディーノさんが喜んでくれたなら何よりです。お仕事お疲れ様です、今だけはいったん忘れて、美味しいものをゆっくり食べて過ごしましょう」

そう言うとディーノさんはいつものカッコいい笑顔ではなく、なんだか気の抜けたような、けれど家族に見せるようなふにゃっとした柔らかい笑みを浮かべた。…幼いような、可愛らしいとも言える笑顔を見てなんだかどきどきした。イケメンの笑顔はやっぱりずるいなあ。わたしの顔火照ってないかな、ちょっと心配だ。
ディーノさんにとって素敵な休日を過ごせるといい、そう思いながら一緒にいただきますと手を合わせた。


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