無印のバレンタインキット

Happy Valentine 2019
2月13日、今日は明日のために1日中家にこもりっぱなしになるだろう。明日はバレンタイン、いつもお世話になったり、仲良くしてくれている友達にチョコレートやお菓子を送る日だ。毎年恒例の友チョコ作りに加えて、今年は本命も用意するつもり。
友チョコには定番の生チョコと甘さ控えめのチョコレートクッキーを。本命には、ホイップを添えたガトーショコラを渡すつもりだった。

バレンタイン当日、朝から皆に友チョコを配り歩く。最初に尋ねたのは沢田家。ここだと綱吉くんやリボーンくん、ランボくんにイーピンちゃん。ビアンキさんやフゥ太くんにも渡せる。人数分の入った紙袋からひとりひとりに手渡し、喜ぶ顔を見ると作った甲斐があったなあとつい笑顔がこぼれる。家に帰る手間を惜しんで全てのチョコレートを持ってきていたため、荷物が多くて大変だったけど、ここで多くのチョコを渡せたから少し軽くなりそうだな。綱吉くんにチョコを渡しながらそう思っていると、ランボくんの泣き声とイーピンちゃんの焦ったような声が聞こえてきた。

「どうしたんだよランボ…ってああ!!」
「どうしたの綱吉くん?」

綱吉くんが思わず、といった感じで叫んだ方向を見ると、そこには持ってきていた紙袋の一つの見事にぐちゃっと潰れてしまった姿が。

「何やってるんだよランボ!それ名前ちゃんのチョコだろ!?」
「ランボさん悪くないもんね!ちょっと中を見ようとしたら潰れちゃったんだもんね!」
「見ようとして潰れるわけないだろ!」
「ランボのやつ、つまみ食いしようと紙袋を空けようとしたところをイーピンに注意されて、ビビって踏んずけたみてーだぞ」
「リボーンも見てたなら止めろよ!」

あーもう!と嘆く綱吉くんを横目に、私は潰れた紙袋を見た。幸い派手なデコレーションとかはしてないから、多少は潰れても大丈夫かな、と思ってたけど…。これは、渡せないかな。

「ほんっとにごめんね!!」
「ううん、ちゃんと見てなかった私も悪いし、仕方ないよ」
「でもこれ、皆のと違うし…その、本命チョコ、だったりしたんじゃ…」
「すごい、よくわかったね」
「さすがに中身もパッケージも違ったら、ね」

申し訳ない、という表情をする綱吉くんにもう一度大丈夫だと言って、形は悪くなっちゃったけど味には自信があるから良かったら皆で食べて、と伝えて沢田家から外に出る。…大丈夫とは言ったけど、どうしようかな。
悩んだ末に、デパートに向かって歩き出す。元々自分の手作りを受け取ってもらえる保証もない。それなら作り直すよりも、元から美味しいものを買った方がいい。そう思い、某有名なチョコレート店で綺麗で美味しいチョコレートの小さな詰め合わせを購入して、渡したい相手、骸さんのいる黒曜へと足を運んだ。

相変わらず薄暗い室内。だけどいつも通る道は少し整頓されていて、微かに入る日光が廃れた室内を照らしている。奥へ進むと少し開けた場所にでる。いつものように、高そうな革張りのソファに優雅に腰掛けている骸さん。本に落としていた目線がばっちりと合う。

「おや、名前ですか。今日はどうしたんです?」
「こんにちは骸さん。今日はバレンタインなのでチョコレートを持ってきたんです」
「ほう、バレンタインですか。なるほど、だからクロームも朝から甘い匂いを漂わせているわけだ」

今思い出したかのように言う骸さん、実はバレンタインを楽しみにしていたのを私は知っている。自分用に美味しいチョコレートを買うんだって張り切っていたらしいのをクロームから聞いちゃったから。今コーヒーのお茶菓子として置いてあるものもチョコレートだということに気づいた。

「それで、君はどんなものを僕にくれるんですか?」
「…骸さんには、これを。ハッピーバレンタイン、です」
「…これは、あの店のチョコレート、ですか。今年の新作ですね」
「よくご存知ですね、さすがです」

骸さんが好きそうな味はなんだろう、とショーケースの前で迷ったけれど、結局決めれなくて無難な新作に決めた。どれも美味しそうだったからという理由も大きいけれどそれは内緒にしとこう。綺麗にラッピングされた箱を渡した瞬間、一瞬眉をひそめたように思ったけれど、見間違いだったのだろうか。

「名前、犬や千種、クロームには渡したのですか?」
「はい、未熟ですが手作りの生チョコとクッキーを先程あげました。」
「ほう、……僕にはこれ、ですか」

今度は見間違いじゃなく、眉をひそめた。表情でも不快感を醸し出している。不快感と言うよりも、…言い方はおかしいかもしれないけれど、拗ねたような、そんな表情。

「あの、骸さん、もしかして青いマークやリボンの有名店の方がお好きでした…?」
「いえ、チョコレートはどこの店のも好きですよ。でも、欲を言うなら…その、自分でも柄じゃないのは分かってるんです。分かってますけど、…君の手作りを少し、期待してました」

思わずえっ、という声が出た。骸さんが私の手作りを欲してくれていたなんて。どうしよう、驚きと嬉しさで頬が緩んでしまう。言ったからにはもうやけだといわんばかりに骸さんは言葉を続ける。

「だいたいなんで僕だけ手作りじゃないんですか。犬達や、きっと沢田綱吉らにも手作りなんでしょう?僕だけ、君の手作りが食べられないなんて、そんなのずるいです。」
「ごめんなさい、その作ったんですけど持ってくる途中で潰れちゃって…。それに骸さんは高くて美味しいチョコレートの方が喜ぶかと思って。手作りとはいえ市販のキットを使いましたし…」
「潰れても、市販のキットでも、名前が作ったものが欲しいんです。…だから、来年。僕だけのために作った手作りチョコをください」

今年は、これで許してあげます。先程渡した綺麗な箱を指差してそう言われた。拗ねたような、ではなく実際に拗ねてくれていたのだと分かり、思わず笑ってしまった。そんな私を見て、何笑ってるんですか、と少し頬を赤らめて怒る貴方に、来年はとびっきり美味しいチョコレートを作れるように練習しなければと思った。

20190214
バレンタインはチョコレート。チョコレートといえば骸さん。つまりバレンタインといえば骸さん(?)
沢山のチョコレートを貢ぎたいですね。
ハッピーバレンタイン!


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