ゲーチスは世界を得るための構想を練り始め、着々と同士が集まりだした。
それは当にゲーチスを教祖とした宗教だった。そして僕は伝説の英雄として崇めたてられる存在と成るべく教育された。

僕の周りには傷付いたポケモンばかりが集められた。人間に母を奪われたゾロア、罠に掛かり後ろ足を引きずるチョロネコ、飽きたという理由だけで捨てられたヒヒダルマ。そして例のヨーテリー。
かなしい、いたい、だいっきらい、にんげんなんて、ちかよらないで、しんじない。
聴こえる声はそんな類いのものばかりで、辛くて悲しくて。僕はゲーチスの思惑通り、いつの間にかトレーナーを憎むようになっていた。

月日が経つ毎にプラズマ団の数は増え、僕の家を訪ねる人間も増えた。なにぶん小さな村だ。保守的な人間の中で唯でさえ浮いていたゲーチスが、更に人間を集めているとなれば直ぐにばれる。そして案の定、プラズマ団の考えは受け入れられなかった。当たり前だ。ポケモンの声が聴こえると言ってもただの子供、信用性なんて何もない。いずれは英雄になると言われても誰が信じるというのか。真っ向から対立した村人とプラズマ団だったが、先に村人達が強行手段にでた。


「火が!森が燃えています!」



僕の村では家と家が遠い。そして嫌われものの僕たちの家は離れた森の中だった。危険因子は根から取り除きたかったのだろう。不確定要素を無くすことは確かに大切な作業だ。彼等はそれを実行したに過ぎなかった。
燃える火から逃げるように、僕はゲーチスに腕を引かれ奥へと向かった。近頃の人数の増加に伴って、本格的なアジトを造っていたのだ。その入り口の一つが森の奥にはあった。こちらの意図を理解しているのか、ポケモン達も奥へと走っていく。上手く走れないチョロネコを抱えあげた時、一匹足りないことに気付いた。


あの小さな姿が見えない。

一番最初に出会ったのに、一番なついてくれなかったヨーテリー。最近ようやく甘えてくれるようになったのに。何処に行ってしまったのだろう。

「ねえ、」

しかし、発した声は他の言葉に掻き消されてしまった。


「見つけたぞ!」


人間は、驚くと冷静な判断が出来なくなる。例に漏れず、その声に驚いた僕は走る足を止めてしまった。振り返ると、一人の村人。手には松明と大きな石を持っていて、その腕が上がっていくのをただ呆然と見ていた。ゆっくりと腕が下がる。掌から放たれた石は、運動エネルギーと重力に従って綺麗な放物線を描く。そして、僕につられて止まっていたゲーチスの顔に、その力はぶつかった。

ガッ、と鈍い音がしたのと、ヒヒダルマが村人に飛び掛かったのは同時だった。

ゲーチスはぐう、と低く唸る、ポケモンの鳴き声の様な声を出していた。僕を掴んだ手とは逆の手で、右目を押さえる。

「…、ねえ」

無言でゲーチスは走り出した。腕を引かれ、つられて僕も走り出す。後ろから誰かのくぐもった悲鳴が聞こえた気がした。


「ねえ、ヨーテリーは?」


ゲーチスは振り返る。右目を押さえた手の間から溢れる赤い血が、あの日のヨーテリーを思い出させた。







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