ゆっくりと視界が陰る。近付いてくる彼の顔が輪郭を失っていく。少しでも音を立てたらこの均衡が崩れてしまうような気がして、恐る恐る瞼を下す。直前に感じたのは、何処までも澄んだ瞳。


直後に感じたのは、愛しさだった。






はぁ、と小さく息を吐く。微かな水音をたてながら柔らかな唇が離れていく。閉じた瞼が重い。目を開ければ、この夢が醒めてしまう様な気がした。しかし何時までもそうしている訳にもいかず、慎重に目を開く。この夢が醒めないように、そっと、そっと。
飛び込んできたのは、瞳を閉じる前に見た澄んだ瞳。ぱちりと音をたてて視線が絡む。そして、どちらともなく恥ずかしげな笑みが溢れた。


今、初めてキスをした。


切っ掛けは何だったのかは分からない。ただこの部屋で二人寄り添って、他愛のない話をして、気が付いたら見詰め合っていた。途切れた会話にも気付かずに、僅かな沈黙が流れた後はただその目を閉じただけ。まるでそうすることが当たり前かの様に、二人の唇は触れ合った。予定調和。予想された未来。結局愛というやつは、言葉では伝えきれないものなのだろう。


「ねえ、」


そっとブラックは言葉を紡ぐ。優しい空気を壊さないように、それは微かな響きだった。


「なあに?」


Nは未だクスクスと笑いながら返す。白い頬がほんのりと赤く染まっている。ブラックは思わずその頬に手を伸ばした。さらりとした柔らかな頬。Nは擽ったそうに肩を竦めた。嗚呼、そうなのだ。この思いを伝える言葉を、俺は持っていないのだ。だから。



「もう一回、キスしてもいい?」







その頬を更に濃く染めながら、しかし微かに頷いた彼も。

きっと言葉なんて持っていないのだ。








キス、伝わる想いを
(だからその唇を)
(この唇で)




2010/11/26 エム
短い…。でも想いはいっぱい込めときましたから!届けラブ!

ほむらさん、よろしければお受け取りください。リクエストありがとうございました!
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