★前世ネタ引きずってます




「あの真っ直ぐな瞳が僕を見つめて、そして勝負が始まったんだ…」

はて、この話は何回目だっただろうか。ゼクロムは主に気付かれないように小さく溜め息を吐いた。



真剣な雰囲気のまま城から飛び立ち早一週間。ゼクロムとNはイッシュから随分と離れた地域まで来ていた。初めのうち、Nはしばらく口を開かなかった。ゼクロムはそんな主を心配していた。彼はその沈黙を、一方的に別れを告げた罪悪感やイッシュを離れた寂寥感、そして自らの思想を打ち砕かれた虚無感に戸惑っているのだと解釈していた。そして、ゼクロムは黙ったままの主を非常に心配していた。たとえ彼が記憶していなくとも、Nはたった一人のゼクロムの主である。生まれたときから彼を愛して生きてきたのだ。そんなゼクロムがNを心配しない訳がなかった。しかし。

「今でも目を瞑れば思い出せるんだ…。ああ、ブラック元気かなあ」

嗚呼あの心配は何だったというのか。ゼクロムは己の背を撫でるNを見下ろした。地面に座り込み休憩していたはずなのに、いつの間にこんな空気になっていたのだろう。Nはぼんやりとした甘い目付きで空を見ている。完全に思考が飛んでいるようだ。ゼクロムはがっくりと肩を落とした。そう、Nは罪悪感を感じていたわけでも、寂寥感を感じていたわけでも、虚無感を感じていたわけでもなかった。ただ単に思考が飛んでいただけだったのだ。否、正確にはあの場に思考を置き去りにしてきたとでもいおうか。Nの心は全て、あのブラックという少年の瞳の中に忘れてきてしまったのだ。そして、心配するゼクロムの言葉も聞こえずに発した第一声は、

「かっこよかったあ…」

なのである。はあ!?とゼクロムが柄に合わぬ発言をしてしまったのも、仕方がないことだっただろう。嗚呼しかし、ゼクロムは考える。そういえばこんなことが、昔もあったではなかったか。








そうそれは我々がまだ一つだった頃の記憶。








「本当、あの光の戻った青い目が俺を見たときの感動ったら…」

はあ、と恍惚の息を漏らすブラックを後目にレシラムは考える。何千年も昔のことだが、彼は昨日のことのように鮮明に憶えていた。一人が来て、去っていったと思えばまた一人。各々の執務が手間取り休憩時間が被らなかった日は、何故か兄弟は彼の元へ訪れた。そうして話し相手になるのは悪い気はしなかったが、しかし如何せん内容がいただけなかった。何故なら話す内容が、

「N、かわいかったなー…」

こんなことばかりだったのだから。まるで打ち合わせでもしたかのように、二人はお互いの素晴らしさを彼に語っていった。それはもう、今のブラックのように蕩けきった表情で。鋼でさえレシラムの熱で溶かしたとしても、こんなに融けきらないだろうというゆるゆるの笑顔だ。レシラムの背中に肘を付きながら、ブラックはぼんやりと遠くを見ている。その目にはどうせNが映っているのだろう。レシラムは呆れて深く溜め息を吐いた。


(嗚呼、何年経っても変わらぬ奴よ!)


結局のところ。そう思いつつ、言わせるままにしておく彼等も相変わらずだという話なのだけれど。




「ねえ聞いてる?ゼクロム」

「聞いてるのか、レシラム」


((ああずっと聞いているとも!))




それを知っているのは彼等だけしかいないので、何の問題もないのであった。








彼等の憂鬱な永遠
(それは所謂幸せな悩み!)




2010/10/31 エム
俺得ですがポケモン視点楽しかったです´`あと勝手に前世ネタ混ぜてしまいましたが…大丈夫でしたかね><

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