(一枚目)

私は今、城の一室でこの手記を書いている。上階からはポケモンが戦う大きな音が響いている。恐らくはN様、いやゲーチス様があの少年と戦っているのだ。彼は強い。私自身も少年とは戦ったことがある。きっと彼が勝つだろう。そして、プラズマ団は終わる。

プラズマ団。それは結局何だったのだろう。ポケモンが解放された世界。それは確かに素晴らしい世界のように思えた。だから私はプラズマ団に入った。しかし実態は、ポケモンの解放を訴えつつ私達自身がポケモンを酷使している。目的の為だと自らを欺きながら、ポケモンを戦わせる日々。私は徐々に分からなくなっていった。
そして何より月日を重ねるにつれ、N様が笑わなくなっていった。否、確かに笑ってはいた。しかしそれは城に来た頃の、女神様方に会った頃のそれではなかった。切羽詰まった末に何かを諦めたかの様な、しかし開き直ったかの様なそれ。それは何とも言いがたい暗い笑みだった。澄んだ水色の瞳は今は遠く、あの暖かい笑顔の面影もない。彼は静かに確実に、この城の中で狂っていった。そのことに気付いた時、私は一層プラズマ団が、そしてゲーチス様が分からなくなった。

しかしそう気付いた時には既に遅く、この得体の知れぬプラズマ団を脱退する勇気もない私はただ待つしかなかった。この閉じられた世界を壊す人物を。N様に再び笑顔を取り戻してくれる、英雄を。
そしてその日は訪れた。


(二枚目)


カラクサから帰られたN様の様子がおかしかった。話を聞けば、妙なトレーナーとバトルをしたという。ポケモンを信頼し、ポケモンに愛されたトレーナー。私は確信した。間違いない。彼だ。そのトレーナーが英雄となるのだ。N様のそのときの表情は、側に仕えてだしてから初めてみるものだった。初めて感じる想いに不安気な、だが期待したような表情。当時の私は不確定要素に緊張しているのだと思った。しかし今思えばそれは、初恋に戸惑うただの子供のそれであったのだ。

何度となく彼に出会ううちに、N様の表情は和らいでいった。凍っていた湖が溶けるように、その瞳には光が戻る。しかし少年に心を寄せれば、今度はゲーチス様の考えに疑問を持つようになる。伝説の英雄として振る舞いながらも、最近のN様はポケモン解放に、ゲーチス様の考えにもはや同意出来かねる様子であった。少年のようなトレーナーが存在することを知ってしまったのだ、仕方がないことだろう。しかしN様はそんな心の内を押し隠し、来るべき日を待っていた。世界を変える、英雄として。そしてそれが、今日だ。


N様は負けるだろう。ポケモンを最も愛す御方だが、それ故にバトルには向かない優しすぎる方だ。ゲーチス様もきっと負ける。どれだけ強いポケモンがいても、ポケモンをただの道具としか思わぬあの方では、到底少年には敵わない。N様の狭い世界はこれで終わる。あの笑顔が、ようやく取り戻されるだろう。それさえ分かれば、私はこの後どうなっても構わない。構わないのだ。


(数行の空白)


名も知らぬ少年よ。私は君に感謝する。ここに記したとしても意味のないことだと理解している。これは私の自己満足だ。しかし私は礼をいう。N様の前に現れてくれてありがとう。N様を笑顔にしてくれてありがとう。そして何より、N様を愛してくれて、ありがとう。先ほどあんな瞳をしながら廊下を走り抜けていったのだ。今更N様を愛していないとは言わせないぞ。
N様は、真面目な御方だ。もしかしたら、自らを許せず姿を消してしまうかもしれない。しかしどうか待っていてほしい。N様は、確かに君のことを愛している。それだけを信じて、どうか待っていてくれ。N様の世界は、もう君のものなのだから。

今一際大きな音が上から響いた。勝負かついたらしい。もうすぐここは警察に包囲され、私も捕まることだろう。この手記が何処に行くのかは分からないが、出来るなら少年の手に渡ることを願う。

そしてどうか、愛し合う二人が笑顔でいられる、そんな世界になることを。私はここに願う。


(日付と署名はインクが滲んで読み取れない)





とあるプラズマ団の手記
(所々破れた二枚の紙に綴られた、ある一人の男の願い)



2010/10/21 エム


期待されていたのはこんな話じゃない気がします…orzでもこういう話書いてみたかったんです…。

椎名さん、よろしければお受け取り下さい!「気に入らんわ!」というときはご遠慮なく御連絡下さい…。
リクエストありがとうございました!
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