テーブルの上に広げられた三冊のアルバム。写っているのは、今よりも遥かに幼い三人の姿。

「かっ、かわいい…!」





良いものがあるから、とベルに強引に連れてこられたチェレンの家の中。Nはアルバムを見つめ身悶えていた。

「ね、良いものでしょー?」

ベルはそう言いながらページを捲る。新に現れた写真――ブラックとチェレンが玩具を取り合っている――を見たNは、かわいいー!と再び身を捩っていた。チェレンとベル、そしてブラックの写真が収められた三冊のアルバム。青、橙、黒と色分けされたそれは、写真が趣味だというチェレンの父親が昔から小まめに撮り貯めてきたものだ。公言するだけあって中々に上手いその写真達は、愛らしい彼らの姿を克明に写していた。

「っていうか、来るなら連絡してよ」

ただ一人、急な来客に対応することになったチェレンだけが、不機嫌そうな顔をしている。その表情は写真――結局玩具はブラックが手にしたらしい――の表情と全く変わらなくて、ベルとNは二人揃って吹き出した。

「いいじゃない。わざわざ連絡がいるような仲じゃないでしょお」

くすくすと笑いを引きずりながら、ベルはチェレンに答える。確かにアルバムのなかには恥ずかしい写真――何故か女物の服を着たチェレンなど――が数多く収められている。女装するに至った経緯を聞きたかったのだが、あまりにもチェレンが嫌そうな顔をしたので写真の詳細については結局聞けず仕舞いだった。チェレンはわざとらしく大きくため息を溢し、深く椅子の背に凭れかかる。

「ま、注意して治ってたら僕もこんなに苦労してないけど」

「なによう、その言い方ぁ。ほんとチェレンって理屈っぽいんだから」

ねえNくん?ベルはそう言ってNに同意を求めたのだが、如何せんN自身がチェレン以上の理屈屋である自覚があったので、曖昧に笑うだけでごまかした。理系は理屈屋が多いのだ。

「そ、それより、本当にたくさん写真があるんだね」

話題を変えようと、Nは棚に並べられたアルバムを指差した。青橙黒、そしてまた青と、美しく並べられたそれは二十冊はあるだろう。三人分あるにしても、二十年弱の人生の写真にしてはかなり多い部類のはずだ。なんせ約二年に一冊のペースである。しかも三人が旅をしていた期間を引けば、そのペースは更に上がることになるはずだ。

「まあ、父さんの写真好きは異常なぐらいだから」

チェレンは遠い目をしながら呟いた。過ぎた趣味は周りから嫌煙されるが、息子ともなればその被害は尋常じゃないだろう。チェレンの被害はアルバムの写真――寝顔から御飯、お風呂まで全ての日常が記録されている――が物語っていた。素敵なお父さんだよねえーと、ベルはずれた発言をする。その程度のボケにはもはや反応もしないチェレンの態度に、Nは幼少からの彼の苦労を垣間見た気がした。

「でも今年からは少しは楽になるだろうけど」

「ああー、そうだねぇ」

「、どうして?」

チェレンとベルは顔を見合わせて頷いたが、Nには何の話か分からない。首を傾げるNに、しかしチェレンは当然だというように返した。

「だって今年からは被写体が四人になるんだから」





「よにん…?」

「父さん、新しいもの好きだらか追いかけ回されるよ」

「それこそ、寝顔からお風呂までねぇ」

ベルの発言に微妙な顔になるチェレンに気付きもせず、Nはぽかんとしたまま固まっていた。四人。チェレンは今そう言っただろうか。今までならばチェレンとベルとブラックで三人。はて、では四人ならば?チェレンと、ベルと、ブラックと、

「…僕?」

「嫌なら逃げてくれ」

「あ、アルバムの色決めなきゃねえ」

やっぱり緑?でも白もいいかも?とベルはのんびりと笑いかける。ねえNくんは何色が好き?Nはもはや、まともにその問いに答えられる自信がなかった。

「、何色でも」




君達の仲間に入れるならば、何色でも、構わない。




目頭が熱い。Nは涙が溢れないように、アルバムから視線を上げた。脳裏には幸せそうな一枚の写真――旅の前に撮ったのだろう、ポケモンを抱えて笑う三人の姿――がちらついて離れない。涙を堪えても溢れる気持ちはどうしようもなく、Nは微かに本心を溢した。

「……一枚目は、みんなで、撮りたい」

チェレン君と、ベルちゃんと、ブラック君と、ポケモン達で。頭から離れないあの写真のように、今度は僕も一緒に。


そんなNの言葉に二人は笑う。当たり前だよお、とからから笑うベルの笑顔。何を当然のことを、と呆れて笑うチェレンの笑顔。それは、あの写真の顔と変わらなくて。



嗚呼、なんて優しい景色。


Nは今この瞬間を焼き付けるように、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。






ハッピーフォトグラフィー

(青橙黒、そして緑)
(貴方の笑顔を残したい)



2010/10/17 エム

ほのぼ…の…?
と、とりあえず幼馴染み達とこれでもかというほど(当社比)絡ませてみました。黒N要素が薄くなってしまって申し訳ないです。

匿名さん、かるさん、よろしかったらお受け取り下さい!
リクエストありがとうございました!!

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