「暇なら手伝え」

そしてブラックは有無も言わさず引きずられていった。
とは目撃者たるベルの談であった。二年の教室の前でため息をついたNだったが、それじゃあ一緒にご飯食べましょーと笑うベルには反論できず、苦笑しながらも買ってきたパンの袋を開いた。


(あー先輩不健康ですよお)

(そうかい?)

(そうですぅー。罰として私のオムレツも食べて下さいねぇ)

(………ほんと、敵わないなあ)










「と、二人が楽しくランチタイムをしているだろうに、何故!俺は!生徒会の仕事をしているのか!!」

ばーん、とブラックは手にした書類を机に打ち付けた。4枚纏めてはホッチキスという作業を延々繰り返していたが、気が長いブラックといえども流石に限界がある。主にその限界はN関連で訪れるのだけれど。

「いいじゃないか、一日ぐらい。毎日一緒に食べてるだろう」

「でも今日は金曜日だぞ!」

二日も会えないじゃないか!と真顔で叫ぶ幼馴染みの姿に、チェレンは少し引いた。しかし手はしっかりとホッチキスを打つ。パチン。パチン。プリントの山はだいぶ減った。あと僅かだ。


「悪かったとは思ってるよ。でも仕方ないだろ、役員はみんな休みなんだから」



そう、それこそがブラックを苛つかせている原因だった。季節の変わり目たる今、学内では風邪が流行っている。数日前、生徒会役員の一人もそんな風邪に捕まってしまった。責任感の強い彼女はそれでも会議に出席したのだが、この狭い生徒会室だ。一人また一人と餌食になり、気付けばチェレンしか残っていない。健康管理は完璧なのだ。そして不幸は重なり、全校会議で使うプリントの期限が迫っていた。一人ではどうしようもない量に、チェレンは助けを求めたのだった。



「じゃあせめて先輩も呼んでくれよ」

「呼んだらお前仕事しないだろ」

「当たり前だ」

真顔で答える幼馴染みにまたもやチェレンは少し引く。Nが関わるとブラックは性格が変わる。残念ながらキモい方向に。本人が幸せならばまあそれでいいのだが。パチン。ホッチキスが相槌を打つ。

ブラックはやる気が失せたのか、机に頬を付けてうだうだしている。会いたいだの好きだ等と宣っているが、全く使えそうにない。プリントの山を確かめる。減ったとはいえ全校分だ。まだまだ量はある。
仕方ない。チェレンは溜め息を吐く。これだけは使いたくなかったのだが、背に腹は変えられないというやつだ。とにかく今はブラックに仕事をしてもらわなければ困る。そのためならば。




「プリントを片付ければ、思う存分お前のノロケを聞いてやる」




「言ったな!!」

がばりとブラックは上体を起こす。目がマジだ。チェレンはそんな幼馴染みの姿にかなり引いた。
ブラックはチェレンにノロケ禁止令を出されている。ノロケとは得てしてウザいものであるが、ブラックのノロケ話は本気でウザい。しかも下手に文系な分、語彙力を駆使して凝ったノロケ方をしてくる。そのため聞く方としてはかなり疲れる。そして限度を知らないブラックに、チェレンがぶちギレた。それからというもの、他に言えるような相手がいないブラックは、ノロケ話をしていない。つまり話したいことがこれでもかとばかりに溢れている。

「二言はないな」

もはやその響きは脅迫だった。



その後。



パチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチンパチン。
ブラックの右手が恐ろしいスピードでホッチキスをならす。凄まじい勢いでプリントが減る。チェレンは既に後悔していた。無理をしてでも一人で片付けたほうが、精神衛生上マシだったかもしれない。パチン。一つホッチキスを打つ。その間にも山は減っていく。

チェレンは溜め息と共にもう一度右手を動かすが、ホッチキスは黙ってしまった。芯が切れてしまったのだ。もはやチェレンに出来ることはないが、もうすぐプリントの片は付くだろう。チェレンはホッチキスを投げ捨てて、諦めて椅子に体を沈めるのだった。




ああ、きっと今日は帰るまでここから出られない。








生徒会室を占拠して
(僕は一体何をしているんだろう…)
(おいチェレン、聞いてるのか!?)





2010/10/3
(くしゅん!)
(やだ、先輩も風邪ですかあ?)
(うーん、そうなのかも?)
(もしかして誰かが噂してるのかもしれないですけどねぇー)



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