教室に部室、屋上、保健室。職員室にもいないとなれば、だんだんブラックの頭も痛くなってくる。静かな校舎にはグラウンドからの運動部の掛け声が響く。もう随分と太陽は西に傾いていた。


まったく、一緒に帰ろうと言ったのは向こうではないか。


ブラックのため息が廊下に落ちる。今日は美術部の活動が休みらしい。これで20分は一緒に居れるよと笑った顔が頭に浮かんだ。どんなにブラックがゆっくり歩いたって15分もかからない道程なのに、どれだけのんびり歩くんだと呆れてしまったけれど。彼も一緒に居たいのだと思うと、心の内側が擽ったかった。

なのに何なのだこの現状は。ホームルームが終わるチャイムを聞くや否や飛び出してNの教室に向かってみれば、5限目の後から彼の姿を見ないという。勘だけを頼りに広い校舎を走り回っても、愛しい姿は見つからない。まるで自分ばかりが好きでいるようだ。ブラックは虚しくなって足を止める。差し込む西日が忌々しいほど眩しくて、思わず顔を背けた。

すると。




視界の端、扉の隙間から見えたのはオレンジに染まる淡いグリーン。






「っ先輩!?」

ブラックは思い切り扉を引いた。現れたのは、理科室の大きな机に突っ伏し微動だにしないNの姿。何かあったのかと急いで駆け寄り、肩に手をおこうとした瞬間。

「……………、え?」





聞こえたのは、安らかな寝息。







「マジかよ………」

あまりの衝撃に力が抜ける。ブラックは床にへたりこんだ。こんなところで眠られたら、そりゃあ見つからない訳である。乾いた笑いが溢れた。ブラックはこんなにも探し回っていたというのに、Nはここで眠っていたのか。ようだ、どころの話ではない。好きでいるのは自分ばかりじゃないか。自らの哀れさ加減に泣きそうになりながら、ブラックはNの顔を見上げた。

いつもは病的な色をした頬は西日に染まり、健康的な色味をしている。薄い唇は軽く開かれ、ゆっくりとした吐息が聞こえる。青い瞳が閉じられているのが残念に思えるほど、それは幸せそうな寝顔だった。



その寝顔に、ブラックは愛しさを覚える。
好きなのだ。この人を幸せにしなければいけないと、魂が叫んでいるのだ。穏やかな寝顔。幸せそうな吐息。自分ばかりが好きでいる?当たり前じゃないか。俺は、こんなにも先輩を愛している。



結局は惚れた方が負けということなのだろう。ブラックは立ち上がり、Nの隣の椅子に座る。黒い机に肘を付いて、眠るNを優しく見つめる。黒板の上の時計を見れば、下校時間まであと30分はある。ならば起きるまでこのままでいればいい。見ているだけというのは少し切ないけれど、一緒に居られる時間が50分に延びたのだ。このまま西日が煌めく理科室で、時を過ごすのもきっと悪くない。

「好きですよ、先輩」


かちり、時計はそんな二人の幸せの時を刻んでいった。







第二理科室
(反射するフラスコ)
(眩しい幸せ)



2010/10/2
Nが寝ちゃったのは、遠足の前日に寝れなくて結局遅刻しちゃった的なあれです。



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