今も憶えてる光景がある。

燃え盛る世界。創造される世界。白と黒。二つに別たれた一つの神。二つに別たれた一つの、命。

「――――、――」

僕の片割れの唇が小さく動く。声は聞こえない。真実を追い求めたもう一人の英雄。ゼクロムが吠える。拡げた翼の風圧で、冠は何処かに飛んでいった。
焔が揺れる。稲妻が走る。世界は白と黒に別たれる。

「………さよなら」

そして意識は闇へと落ちた。







「N、おい大丈夫か?」

目を開ければ、映るのは満天の星空と心配そうなブラックの顔。Nは暫し呆然とした後、安心した様に息を吐いた。

「夢、か………」

「夢?」

Nは横になっていた体を起こす。秋に向かう夜の空気は肌寒く、掌をそっと擦り合わせる。じっとりと汗をかいたその掌に、Nは何故か恐怖を覚えた。

「…ただの、下らない夢だよ」

ブラックはNの答えに釈然としない様子であったが、そうか、と呟いて隣に横になる。
多少強引な質であるブラックだが、最近はNとの年齢差を気にしているのか、大人しく引き下がることも多い。我が儘ばかりの子供のようだと、大人になろうと自分を戒めているらしかった。自身の考えを伝わるように話すのが苦手なNは、そんな変化を嬉しく思う反面、少し寂しくも感じていた。
ふと視線を横にずらせば、そこには横たわる漆黒の巨体がある。闇に煌めく紅石がじっとこちらを見詰めている。ぐるる、とゼクロムは低く喉鳴らした。


(ゆめじゃない)


崩れた城。君臨する王。戴冠された黄金。彼の黒い目に映っていたのは、諦めを隠した青い瞳。
あの時、その青の持ち主の隣にいたのは確かに漆黒の伝説であった。ゼクロムは崩壊した王の間に静かに佇みながら、敵対者に対峙していた。そして漆黒の彼は、独り言の様にぽつりと呟いた。


(ああなぜ、わかれてしまったのだろう)


眼前に対する純白の伝説は答えるように一声鳴いた。その言葉は、正しく自分自身に対する問い掛けであった。





(ああ何故、別れてしまったのだろう)

Nは夜空から視線を反らし、ブラックを見下ろしながら考える。母の胎内の中では、確かに一つの筈だった。そのまま産まれおちていれば。そう思うが、それでは彼に会うこともできなかったのだ。この現状が歯がゆくも嬉しい、何とも複雑な感情が走る。
Nはゆっくりと目を閉じる。ならばせめて今生でも、彼の片割れとして産まれられれば良かった。今度は道を違わぬ様に、二人沿って生きられれば良かった。
もう一度目を開ける。ブラックはもう寝てしまったらしい。隣からは穏やかな寝息が聞こえてくる。

今の彼は、あの時の彼ではない。歳も違えば片割れでもない。あの時のことを憶えてすらない。

Nは自らの目の縁をなぞった。紅い瞳だ。ゼクロムと同じ、闇に光る紅石の色。あの青い瞳は何処へ行ってしまったのだろうか。ぎちり、と肌をなぞる指先に力が入った。

もしも、とNは思う。もしもこの場所に、あの時と同じ青が嵌まっていたのなら。彼は、気付いてくれただろうか。また、一つに戻れただろうか。


Nは再び瞼を下ろす。ゼクロムが細い泣き声が、暗い夜空に響いていった。



(ああなぜ、―――――)







青い宝石
(何処へ行ってしまったの)
(僕の幸せの青)




2010/9/26
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