N様は美しいお方だ。
真白の肌に薄水色の瞳。まるで幼い頃より祖母に言い聞かされていた、一匹の伝説のポケモンの様な御姿。その神話から出てきたままの姿で、私達に御言葉を下さる。微笑みを下さる。神々しいまでに美しい、私達の英雄。
しかし、その様な神性故か、N様に不埒な思いを寄せる輩は決して少なくはない。それはプラズマ団のなかであっても言える話なのであった。


あれは何時のことであっただろうか。夜間の見廻りをしている時であった。かしゃん、とN様の部屋から音がした。まるで玩具の山を崩したかのようなその音に、私は首を傾げる。あの玩具はゲーチス様と女神様方が買い与えているものだ。N様は最近はそれで遊ぶことも少なくなったが、1つも捨てることなく――それは多少独創的なセンスではあるものの――部屋に飾ってあるはずだ。そんなN様が玩具をばらまく様な状況など、私には1つしか思い付かなかった。私はN様の部屋へと急いだ。




想像以上の光景に、私は硬直した。N様の細い体を床に縫い付ける男。そして、もがくN様の腕を片手で抑え、逆の手で口を被う別の男。膜の張った青い瞳が私を見た瞬間、怒りで目の前が真っ赤になった。




英雄として、ゲーチス様と女神様方に潔癖なまでに育てられたN様は、性的な感情に非常に疎い。御自身がそういう目で見られているという自覚も持っていないようであった。だが本能的な恐怖を感じとるのか、性的な目的を持って近付く人間は激しく拒否しておられた。加えて見廻りと側仕えの御二人の尽力あってか、今までは大した事態にはなっていなかった。
しかし襲う側も馬鹿ではない。見廻りの道筋や時間など、団員ならば簡単に知れる。女神様方も、どんなに人間離れしていようとも実際はか弱い少女達だ。押さえ込む術など幾らでもある。
そして何より、どれだけ拒めども非力なN様がポケモンを力として使わぬ以上、大人の男二人の腕力には敵うはずがなかった。



「それで、その二人は」

「は、捕らえて地下牢に入れてあります。しかし取り押さえる際、レパルダスをN様の前で戦わせてしまいました。申し訳ありません」

「状況を判断すれば仕方なかろう、その件は不問にする」

「有り難き幸せ」

「…女神達とNはどうしている」


ゲーチス様は少し間をおいてゆっくりと話された。見つめる方向には空白の玉座。近い未来、N様が王として座される場所。その為に、美しく育てられてきた。


「御二人は薬を嗅がされた上、縛られておりましたので医務室に。N様は…人を寄せ付けませんので、御一人で部屋に」

「………」



そう言うとゲーチス様は廊下へと足を進められた。どちらに、と伺うとN様の部屋へ向かわれると仰られた。



その後、N様の部屋で何があったのかは一団員である私の預かり知る所ではない。しかし翌日のN様は何時も以上に機嫌が良かったことは記憶している。昨日は侵入者を捕まえてくれてありがとう、と御声掛けを頂いたことから予想するとに、ゲーチス様はあの二人はプラズマ団に侵入した悪いトレーナーだとでも説明したのだろう。上機嫌に笑うN様は更に美しく、青の瞳はきらりと輝いていた。その青の視線の先を辿れば、片付けられた玩具の山。頂点には昨日までには無かった小さなオルゴールがひとつ。
ふふ、と笑みを溢されるN様を見ながら、私もくすりと笑ってしまった。









「おい警察官」

「お前は私に、ゲーチス様とN様が本当に実の親子かと聞いたな」


薄暗い取調室のなか、元プラズマ団員はにやりと笑ってこう言った。




「あの御二人ほど幸せそうな親子、他にいるなら連れてこい!」






とある元プラズマ団の証言
(美しく育てられてきた)
(それこそが父の愛だった)




2010/9/25
こんなゲーNがあったっていい。


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