お互いの話をしよう。

ブラックがそう切り出したのは突然だった。



「いいけれど…、何故だい?」

「恋人のことを知りたいと思うのは、当たり前のことだろ」

その言葉にNは目を瞬かせる。張り付いたような笑顔しか見せなかった数年前とは偉い違いだ。

「恋人なら、当たり前なのかい?」

「そうだ。当たり前だ」

「へえ、なら構わないよ」

(かかった)

幼い頃から城のなかで隔離されていたNは、一般常識というものに疎い。本人もそれを自覚しているのか、この様にブラックに「それが当たり前だ、普通だ」と言われてしまうと、直ぐに真に受けてしまう。
恋人という地位に着けたのだって、ブラックが一方的に「その感情を普通は恋と言うんだ」と押しきってしまった形に近い。さいてい!と怒鳴る幼馴染みの声が聞こえた気がしたが、ブラックは無視をする。
恋と戦争においては、あらゆる手段が許されるのだと誰かが言っていた気がする。



「じゃあ僕から言うかい?」

「いや、お前の話は前聞いたし、俺が言うよ。何か質問して」


恋人、なのだ。二人はもう。
しかしそう呼ぶには、お互いのことをあまりにも知らなかった。ブラックはそんな状況にいい加減やきもきしていた。だからこんなことを唐突に言い出した。知りたかったし、知ってほしかったのだ。恋人のことを。


何でも答える。そう言うとNは少し困った様だったが、じゃあまずは、と質問を始めていく。


「えーと、好きな食べ物は?」
「ハンバーグ」
「へえ、意外。可愛いね」
「煩い。お前にも今度食べさせてやるよ、ベルのおばさんのハンバーグ」
「うん、うれしいな」
「………おう」
「じゃあ嫌いな食べ物は?」
「………………」
「ん?」
「………ピーマン」


Nは小さな答えに耐えきれずに吹き出した。あはははは!本当にブラック君は可愛いね!煩い!黙れ!さっさと質問しろ!云々。あの頃英雄同士として戦ったとは思えない和やかな時間が流れていく。好きな色は?好きな教科は?子供の頃はどうだったの?幼馴染みとは?家族とは?君のトモダチ達は元気にしてる?下らない質問に下らない答え。大したことのないやり取り。


ああ、なんて幸せなんだろう。


ブラックは何だか急に泣きそうになる。視線の先では愛しい人が笑っている。あの頃とは全く違う満面の笑みで、自分に笑いかけている。心が痛い。視界が霞む。幸せ過ぎて、きっとこのままでは死んでしまう。





「ブ、ブラック君!?」

ふと意識が現実に戻ると、何やらNが慌てている。何事かと不思議に思っているうちに、白い手がブラックの頬を撫でた。濡れた感触。涙が、とNが小さく呟く。ブラックはそこで漸く自分が泣いていることに気が付いた。

「ごめん、小さいブラック君が女装なんて、凄く可愛いだろうなって、思ったら、笑えちゃって、嫌だったよね、ごめんね」

下らないことをNは必死に謝っている。こんなに真面目に謝るNを見たのは始めてで、ブラックは再び幸せだなぁと考えてしまう。

「し、しあわせ?なにが?」

「あ、声出てた?」


頷きながらNは怪訝な目付きでブラックを見る。完全に怪しい人扱いである。失礼な。しかし、お前にだけはされたくないと思うブラックも大概失礼なやつであった。ブラックはじっとNの顔を睨んだが、それも長く続かない。結局、恋は惚れた方が敗けなのだ。ブラックは少し気まずそうに涙を拭い頬を掻いた。

「いや、お前とこうしていられて幸せだなって思ったら、泣けてきた」

「………………何言ってるんだい?君は」

たっぷり沈黙が流れた後、Nは呆れた様に言葉を溢した。心配して損したなどと呟いきながら、照れ隠しなのだろうか、眉間に皺を寄せブラックを睨んでくる。ブラックはそんなNの態度に多少むかっとした。仕返しだ。よく考えればNに泣かされた様なものなのだ。ブラックは、にやりとその幼い顔立ちには似合わない笑みを浮かべた。その表情にNは良くない空気を読み取ったのか、ひくりと口の端を動かした。

「何の話かだって?」


質問には全て答えようではないか。
大丈夫、心配ない。恋と戦争においては、あらゆる手段が許される。



「俺の一番好きな人の話さ!」





その後、照れ隠しにNがブラックを叩いたことは言うまでもないことだろう。





I want to know you,my love!
(Pleas know my love)






2010/9/24
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