愛の女神と平和の女神と名付けられた二人の少女は、Nの為に孤児院から引き取られた姉妹だった。



「N様、側仕えの者を連れて参りました」

紫色の髪をしたアフロディテと黄色の髪をしたアテナは、引き取られたその日にNの部屋へと案内された。互いに堅く手を繋ぎ合い、姉のアフロディテが案内人の後に続き部屋に足を踏み入れる。

この城に向かうまでにプラズマ団の思想や、Nの環境、能力は説明されていたが、二人はさして興味も嫌悪も示さなかった。そんなところが普通の子供とは違うらしいことはお互い自覚している。だから親に捨てられたことも知っていた。

「失礼します」

14歳そこらの子供とは思えないほど落ち着いた声音が響く。続いてアテナも繰り返した。


現れたのはパステルカラーの可愛らしい子供部屋。至るところに新作らしい玩具が散らばっている。アフロディテは少し怪訝に思う。これではまるで十にも満たない幼子の部屋ではないか。Nという少年は妹と同じ歳だと聞いていたのだが。ちらりと横を向くと、アテナも不思議そうな顔をしている。


「…だれ?」


バスケットゴールの影から、むくりと少年が起き上がる。薄緑色の長い髪で表情はよく見えない。

「ああN様、この二人が今後N様のお世話を致します、」

「アフロディテと申します」
「アテナです」

手を繋いだまま頭を下げる。するとゆっくりとNが首を動かす。


実際にはそれは数秒にも満たない時間であっただろう。しかし、二人にはその瞬間が永遠にも思えた。






病的なまでに白い肌。色味の薄い唇。そして瞳に収まる青い宝石。
鳥肌がたった。
プラズマ団は、Nは伝説のポケモンを探していると言っていた。アフロディテは彼らの目は節穴なのかと疑った。純白の御身に青い瞳。ああ、伝説は此処に存在しているではないか!
アフロディテとアテナは、Nにレシラムの姿を見たのだった。



この方が、ゼクロムの隣に立つ姿はどれだけ美しいのだろうか。


それは、人形と罵られた二人が始めて抱いた欲望であった。



じっと此方を伺う青い瞳に操られるかの様に、アフロディテはパステルの床に膝を着く。アテナも姉の姿に倣う。いつの間にか、二人の手は離されていた。

「N様、我々は貴方に忠誠を誓いましょう」
「N様、必ずや貴方を英雄に致しましょう」

二人の急な宣言に案内をした団員は驚いたが、Nは当たり前の様にその態度を受け入れた。

「そうか、ならば僕も君達を護ろう」

そう言ってNは微笑んだ。
それは何の穢れもない、この部屋に似合う幼い笑みだった。



この美しい人の理想が叶いますように


二人の女神は祈り、静かに目を閉じた。









それはきっと恋だった。
(貴方に幸多からんことを)





女神sの初恋
2010/9/23

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