そうです、ファンタジーなんです!2 | ナノ


「さーて火神クン、わたしと副支部長が汗と涙を流しながら考案した修行メニュー!デーース!さーて、腕立て100回を10セットいってみよーう!」
「アホか!?」
「あ゛……?」
「…で、すか!?いきなり100回を10セットって、なんかのいじめかなにかとしか思えねえよ!……です!」
「ほうらそんなこといって、記念すべき、教育一日目なんだよ?ほら支部長である赤司くんも見学されておられる。この後見限られないようにせいぜい頑張るしかないじゃない?そうデショ?よし、頑張ってみよう!武器召喚の道は険しいんだヨー!」
 さあどんどんいってみよー!拳を空にあげる名前とは対照的に、火神はフウやらハアやら溜息を吐きながら腕立て伏せを開始した。お、おお?名前は思ったよりもスピードのある腕立て伏せに目を輝かせた。
「君、スポーツやってたの?」「アメリカでバスケを少しやってたくらいだ。……です」「ほへー、思ったよりも、見込みあるネ、君」にっこり。名前の笑顔を見上げた火神はハッと笑って腕立て伏せに集中する。そういうことで、100回、1セットを終わらせた。
 上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、上半身裸になる頃には4セットが終わり、残り6セットとなった。そこで名前は10の文字をベリっと剥がす。火神はハ?と落ちていく10の紙が地面に落ちるのを確認して、メニューを見直した。
「本当は3セット、いや、いいネ火神クン、とってもいい。本当は軽くランニングから始めるんだけど、ちょっとイジワルしちゃった、ごめんネ?」
「ふざけんな!……ですよ!? まあこれくらいのメニューなら向こうでもやってきてたしどうってことはないけど、ランニングはやりたかったぜ。……です」
 メニューと睨み合いっこする火神と名前を、遠くの方で赤司はベンチに座って光景を眺めていた。なかなかに、いいコンビじゃないか。名前もああは言っているが、教育係としては腕はいいし、黄瀬の武器召喚も名前がいなければできなかった、それに、武器の活用術も名前が直々に仕込んでいる。他のメンバーではできなかったことだ。
「ちなみにこの魔法陣は武装陣が含まれてるから、この魔法陣を発動できれば身体能力もちょーっと上がるからジャンプとかぴゅーんっていくよ」
「ま、まじっすか!?」
「そ!楽しみになってたでしょ? じゃ、この調子で頑張っていきまショー!」
 名前の言葉に、火神もその気になって残りのメニューに勤しんだ。その光景はいつしかの黄瀬とのもので赤司はもう心配いらないだろうと腰を上げて基地へ戻る。赤司の姿に紫原は「どったの〜?もう大丈夫なわけ?」とスナック菓子を食べながらスクリーンに流れている主要メンバーが腹を撃たれて蹲るシーンの、刑事ドラマを見ていた。「コレ今日の名前ちんみたいじゃね?」悪趣味なんだよ、と青峰が久々に上着を着て、任務内容をチェックしていた。Aランクしか任務を受けない青峰はやっと自分がやりたいと思える任務を見つけたようである。
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」青峰が裏口から基地を出て、任務先へと向かった。まったく青峰くんったら、と桃井は青峰の机の周りに散らばっているゴミを片付け、パソコンの電源を消した。保護者そのものとしか思えない。
「あ、四時だ」
名前ちーん、時間外労働はしないんじゃなかったっけー?」
 外に顔を出した紫原の言葉に名前は飛んで反応し、急いで帰る支度を進めた。黄瀬はここぞとばかり、このあとお茶しないっスかぁ?と甘い声を出したが片腕で準備をするのは思ったよりも大変で、それに気が付いた、側にいた黒子は手伝ってやった。名前は準備を終えると黒子にお礼を言い、黄瀬と向き合って、首を振った。えっえっなんで!と飛跳ねる黄瀬の顔の前に手の平を見せる。魔法陣が組み込まれている方なので黄瀬は一歩下がって身構えた。
「黄瀬は黒子ように気の使える人間になりなさい。話はそこからだ」
 そして、次に火神の帰る支度までも名前がしていく光景を、誰も阻むことなく「なんでしてんの?」と言いたげな表情で見送りながら、黒子は手伝わないし黄瀬も手伝わないので名前一人で準備をしていく。汗だくで基地に入って来た火神は「は?この人なにしてんだよ?」とクエスチョンマークを浮かべながら近付いて、「何してんだよ。……ですか」と尋ねた。
「うん、わたしらは少々、交流を深めた方が良いと思ってネ」
「はい!?」
「だってすごく一匹狼デショ?君。今まで生きてきたなかで認められる人物なんてそうそういなかった、っていう顔してるヨ」な・の・で「君は案外強敵だとわかったから、今からご飯食べにいこ。ね?」にっこり。またこの笑みだ。しかも、今度は首傾げのオプション付き。「教育係の命令だから」可愛い顔して、声は低い。
「…………ハイ」
 なんでだあああああああと暴れ出す黄瀬を黒子と緑間が制止し、火神にバッグを渡して一緒に基地の出入り口に向かった。
「それではまた明日!さよーなら!」
「さ、さいなら……」

 どんな場所に行くのかと思ったら、学生にも主婦にもどんな人にもやさしいファミリーレストランにて、名前と火神は夕食をとっていた。ただ火神に関して夕食というか、餌を食す家畜のようで、名前が初めて火神に驚いた瞬間だった。料理を頼むベル、止まず。フォークにスプーン、ナイフ、止まらず。運び込まれてくる料理、止まらず。
「火神クン、君の胃袋ブラックホール?」
「このくらい普通だろ。……です」
 サラダをフォークで刺した名前はミニトマトに視線を集めながら、火神に「君のこと、もっとよく知りたいな」と試すような口調でサラダを口に入れて、飲みこんで、「君も、わたしの事知りたいデショ?」と言った。
 実際、火神はそういうことはどうでもよかった、知りたいと思わなかったのである。しかし断れば、先程のように重い蹴りが飛んでくるのではないか、と思うと頭をぶんぶんと縦に振るほか、術はなかった。
「素直でよろしい」名前のフォークからプチトマトは逃げていく。「あら、逃げるわコレ」
 名前がプチトマトを鋭い矛先で突き、火神に「何故この道に進もうと思ったの?」と尋ねる。黄瀬の時も同じような質問をした。黄瀬は「退屈だったから」と答えた。さて火神はどうだろう、名前は試すような口調と視線を火神に送る。止まなかった口の動きが止まり、ごくんと喉が鳴る。
「んなの、頼まれたからっすよ」火神は名前と同じサラダの皿を寄せて、ドレッシングをかけてプチトマトを捕まえた。
「ほお。随分と簡単に言うネ」
「そりゃ、どんな仕事だとか聞かされてなかったしな。俺にだってよくわかんねえし」プチトマトが喉を通り、フォークが皿の中に置かれた。シーザーサラダの上には粉チーズが掛かっている。それを広げた火神は、それ以上の言葉も見つからなかったので口を閉じた。名前を見ると、答えが意外だったようで、丸い目をして火神を見つめていた。な、なんすか。火神が恐る恐る名前に尋ねる。
「……そうか、そう。………、なら、きみは勇者タイプだ」
「は?」
「RPGの主人公、つまり勇者ってさ、王様に『魔王が復活した、倒してこい』の一言で終わるじゃない?そういうこと」
「そういうことって、どういうことだよ……ですか」
「目的だけ告げられる。敵の情報も戦い方も王様は教えてくれないでしょう?城にはたくさんの兵士がいるのに、主人公を抜粋する、しかも街の外に出れば敵がうじゃうじゃしているし、スライムレベルなら倒せても、他の敵が次々現れるとやくそうだけじゃ足りないこともある、君はつまり、レベル1の勇者なんだよ」
「全くわかんねえっすよ、ソレ」
 自分なりに解りやすくしてみたのだけど、そうもいかなかったらしい。あ、そうです?と肩を落とした名前は残りのサラダを食べて、ドリンクバーで持ってきたダージリンにミルクと砂糖を一つずつ入れた。
「前にアメリカいたとか」
「まあ」
「英語ペラペラなの?」
「それなりには」
「………めっちゃギャップ狙ってんなぁ……」
「は?」
「ま いいんだけど。それよりバスケしてたって言ってたよね、あれってどうなの?結構長くやってたんだ?」
「向こうにいた時は毎日のようにやってからな、体が染みついてんだろ。高校に入ってからは暇つぶし程度にやってただけだ」
「暇つぶし?」
「アメリカに比べれば日本はどうってことない」
「ああ、そういうこと。じゃあさ、」
「さっきから俺のことばっかりでアンタのことは……」
 火神が鋭い眼をした名前を驚いた表情で見つめ、視線を同じ方向へ向けた。「ふぅ、君、目を付けられたみたいネ」
「………え?」


「ごきげんよう名前さん。と、火神大我さん。ワタクシ、とある政治関係者の子女でございまして、それに攻撃部隊の支部長を任せられている身でございますの、オホホ。大我様は昨日、攻撃部隊の基地へ出社しているという情報を手に入れましたの、そしてあの方のお墨付きだということも解っておりまして、それに顔がまあなんと整っていること。ワタクシ一瞬にして気に入ってしまいましたわ、どうかわたしの基地へおいでなさいな。悪いようには致しませんよ。副支部長の位をあげてもよろしいのよ、オホホ」
 内巻き、金髪、可愛らしいドレス、バッグはピンクでリボンがついている、ネックレスや指輪はキラキラ光る宝石付き、そしてお嬢様の隣には黒いスーツを着た体格の良い男性が二名。
 お嬢様の名は「申し遅れました、ワタクシは五十鈴と申します。どうぞよろしく」と言った。
「RPGで言うと途中で勇者の事欲しい欲しいウルサイモブ姫の役だネ」
「何を言ってらっしゃるのかしら? さあ大我さん、あなたを迎い入れる準備は整いましてよ?」
 五十鈴と名前は火神を見た。火神は震えだして「ふ、ふざけんじゃねえ!」と名前の横にまで後ずさり、いきなりそんな事言われて納得がいくか!と首を横に振った。
「バッカ、火神クン、よく考えてみろ、あのお嬢様玉の輿、お金ガッポガッポだよ!?大判小判がざっくざっくだよ!?断るバカがいる!?しかも副支部長、月給が平隊士よりも!0が一つ違う!あの様子だったら仕事もほとんど平に任せる気がするから、行けよ!!」
「お前アホか!?なんであんなまつ毛ばっさばっさした女のところで働かなきゃなんねーんだよ!しかも出勤してまだ二日目だぞ!?」
「なら心配なさらなくて結構よ。二日目でしょう?わたしの基地では先輩が優しく指導してくれるわ」
「関係ねーよンなこと! お、おい名前!……さん、あいつのところで働くのはゴメンだ!」
「………ほへー、意外かも。そんなにわたし達の基地気に入ったんだ?」
「気に入ったっつーか、なんつーか」
「……うし、わかった。そういうことならわたしも考えよう。 あー、えっと、お嬢様。丁重にお断りさせていただきましてここらで失敬」
「お待ちなさい」
 火神の腕を引き、くるりと体を反転させると、そこには黒いスーツの男性が二人。ああしまったなーと頬を掻いた名前は火神を見上げ、指で自分が骨折していることを示した。火神はまさか、と思い青筋を立てたが、
「普段通りの戦いはできない」と告げた名前に、ホッとして、そしてゾッとした。
「おまっ、なにを……!?」
 服についていた粉チーズを叩いた名前に火神が制止の声を上げたけれども、名前にはそんなもの聞こえていない。
 名前は、自らの支部の中でも一、二を争う実力を持っていて、それでいて戦闘狂である。幸いに利き手と、利き手の魔法陣が使えるので戦えるのだが、もし使えなかったらきっと素手で戦っていただろう。利き手が使えずとも魔法陣を発動することができればその力によって身体能力も筋力も上がる。戦闘狂の名前と、モブのスーツ男とのハンデはそれくらいで十分だったのだろう。しかし武器が使えるのである。
「わたしに勝ったら火神クンをあなたにあげるヨ」
「あら、片腕で何ができるのかしら? その子達は決して弱くないの、ワタクシの基地の中でナンバー1、2を誇る実力の持ち主よ」
「生憎、わたしもこっちの基地ではそれくらいの実力の持ち主ヨ」
 名前が腕を引き、宙に舞った槍を掴む。スーツの男(以下モブA,モブB)は一斉にコンクリートの地を蹴り、モブAは転がり態勢を整えたところでライフルを召喚し構える。もう一人はナイフを召喚し名前に突き出した。
「折角だから戦いながら説明するヨ」
「そっ、そんな余裕あんのかよ!」
 まあまあ聞いていなさい。名前がモブBの腹を蹴り、モブBは人の動きだと思えないほど軽く、遠くへ飛んでいった。吐血して地面に転がって蹲る。
「この魔法陣には二つに分けて『武装』、『魔装』が存在している。それは個々の適性、能力に異なる。『武装』は身体能力が上がり、『魔装』は特殊能力を授かる。特殊能力ってのは防壁を作ることができたり、所謂身を護る術ネ」
 モブAの弾は名前が死なない程度の位置で引き金を引いているようだが名前には関係ない様子だった。弾を避けたり、槍で弾いたり、裂いたりする。一方でモブBの蹴りを受け流し、人差し指で額を小突くと苦しそうにその場に転がった。頭が割れる、と言い出した。
「今わたしが発動しているのは『武装』。身体能力が上がるってことは、力も強くなるってことじゃない? この『武装』、『魔装』は一個体に一つしか能力を授かることができない。でも、わたしはちょっと違うんだ」
 モブAの弾が名前の胸目掛けて眼にもとまらぬ速さで進んでいく。が、その弾が胸を貫通することはなかった。名前の周りには白く握ったのサークル状の防壁が作られていたからである。
「『武装』、『魔装』、どちらも持ってるんデス」
 これが、名前が赤司が率いる基地に抜擢された理由だった。赤司の次に配属されたのは名前、古株の一人で、キセキ基地の繁栄に力を注いだ一人。赤司が支部長として抜擢されたあと、赤司が名前が基地に配属されるように手配した。それには理由があるのだが、それはまた後ほど。
「んでね、もっと得意なのが、足技なのヨ〜」
 名前が槍を投げ、ライフルを弾き、一瞬の隙をついて片足でモブAを持ち上げて宙へ飛ばす。そのまま踵落としをしてモブAは意識を飛ばした。次にハッとして身構えたモブBはなんとか立ち上がりのっそのっそと近付く名前の両肩に手を伸ばし、痛みに顔を歪ませたところで一気に押し倒した。火神は名前の名を呼ぶが、慌てている様子は全くなかった。後頭部に地面がぶつかる、まずい、と腕を伸ばしたがそれは生き場のないものに変わった。名前は片腕を地面につけ、両方の足の裏をモブBの胸に当てて、そのまま強く押した。宙で態勢を整え、そのまま落下するモブBの上に乗ったまま着地。
 ふう、とにっこりと笑い、五十鈴のほうへ振り返る。
「もっと強いのよこしな」


「すげーな、あんた」
 家路をのんびりと行く二人は、先程の戦闘で対峙した二人の魔法陣に自分の魔法陣をかざした。それをすることで、対戦という項目で勝利者にポイントが付与されるのだ。ポイントとは給料アップに繋がる、隊士には嬉しいものだった。これは支部長、副支部長には当てはまらない隊士だけのお楽しみの一つである。
 先程の名前の戦い方、スタイル、どれをとっても無駄の無い動きで「綺麗だ」と言わざるを得ない、いや、自然の口に出てしまうものだった。派手さはあるがそれも手本を見ているかのような綺麗なフォーム。そしてなにより、強さ。
「ああ、まぁね、相手が弱かったっていうのもあるケド。 基本的にわたし戦うことが好きだしそれなりにはネ」
「じゃあなんで俺の教育係になったんだよ」
「そりゃあ赤司くんが教育係になれーって言ったんだからなるでしょうが。支部長の命令って絶対だよ?」
「……あ、ここでいいぜ。………です」
 火神の立ち止まった場所は高級マンション。名前は予想外の住宅にえっ、と声を出した。「金持ちなの!?」「元々親父と二人で住む予定だったんだよ。んで、金は親父が払ってる」。
「そういや、あんたの事少し知れてよかったぜ」
「え?」
「とにかく、俺の教育係にぴったり、ってことは理解できたからな」
 火神の言葉に名前は長い溜息を吐いて、体を反転させて背を向けて歩いて三歩進んだところで体の向きを戻した。オレンジの夕日が逆行して、黒とオレンジが混ざり合う。頬と鼻を掻き名前は少々困ったように笑んで、ふふふと声を漏らした。
「そうかもネ。君みたいな野獣相手にするにはそれが丁度いいかもしれないし」
「野獣ってなんだよ………もっと他に言い方あんだろ!……ですよ!」
 困った顔は、正常の顔に戻っていく。
「いや、君は野獣だよ。正真正銘の、君は、稀の力を持つ野獣。特別な力を持っている。わたしの戦闘を見ている間の君の眼、燃えていたもの」
 きみが、この基地に配属された理由がわかった。



 何故名前が一人で帰っているかというと、火神が「俺居なくても一人で帰れるだろ」と言ったからである。頭を叩いてやった名前は「まあそうだけど」と付けたし、こうして一人でトボトボと烏の声を聞きながら家路を歩いている。
「『ゾーン』を持ってるのを寄こすなんて、あの人も嫌なことするよネ」ふん。鼻息を荒々しく吐いた。
 自分がなぜ教育係になったのかも、これで納得がいった。別に教育係だなんて桃井でも黒子でも誰でもよかったのだ。黄瀬の場合は特別だった。ただなぜ一般の火神を?と思ったが、今日でやっとわかる。支部長、副部長の二人は初めから知っていたのだ。
「バケモノはバケモノ同士、仲良くやれってことか」
 うふふ、口元を押さえて笑う名前の表情は、どこか嬉しそうで、またどこかでは安心したものだった。


「ヴァージン・ロード」
自分が見た夢をパロにしてみました。いろいろと熱が入り設定なんかも加えたりして一体何が何だかワケワカメ状態になってしまいましたが書いてる私はとても楽しかったです。ちなみにタイトルも夢でみたまんまなので、ほんとに楽しくこうして執筆できる夢を見ることが出来てよかった〜と思います。ウフフ。
キセキの世代とはあまり絡みを入れることができませんで、なるべく皆と絡むことができるようにしてみたんですが、このちょっとの絡みってこの後想像しやすかったりするのかな?出来るのであればお好きなようにご想像ください。