高校生って本当に、わたしの中で大変で楽しくて苦しい大変な職業であると思う。その高校生という職業に就きながら部活もプラスされると、本当に大変。でもわたしはそのプラスされたオプションを苦しいだとかは思った事ないけど、まあたまに面倒だと思う時もある。 そして目の前にいる彼氏の扱いにも面倒だと思い始めて早2年が経つ。 そりゃあよくできた彼氏さんだけど、よくできてるからこそ、なんだかめんどくさいとか思っちゃうのかもしれない。 休日の体育館の外、わたしはお弁当屋さんで買った唐揚げ弁当を無言で食している。隣の孝支の黄昏を横目で見ながら。 「食べないの?お弁当」 「あー、うん、食う」 「食べないなら卵焼きちょうだい」 「だから食うって」 「野菜炒めもちょうだい」 「あのさぁ、お前俺より動いてないんだから食ってばっかりだと増えるぞ たいウッ」 孝支の脇腹に重いパンチを一発食らわせてやった。大袈裟に反応を見せる孝支のお弁当から二つある卵焼きの一つを奪って「あ ちょっと!」という制止の声を遮断し大きな口を開け一口でパクリといく。 「アーーー!!」 「うるさい!もう!おいしい!」 「おまっ ホントッ 返せよっ」 「ぎゃー!ちょっとまだ口の中入ってるんだけど!」 「出せ!出せ今すぐに!返せっ!」 孝支はわたしの両頬を片手で掴める楽に掴めるが、わたしは成長してしまった孝支の両頬を……「え」掴めたが、まあ、いいんだそういうことは。とにかく、孝支は成長してしまった。 1年前はもう少し可愛げのある顔だったのに今じゃもうこんなにたくましく育ってしまって……。と、同時に、少しだけ考え事も増えているように思う。 「ゲプッ」 「!?お、おまっ ほんとに女かよ!」 眼を涙の膜で覆う孝支に「ヘッ」と笑ってやる。そんな理想的な女どこにもいないぞ、孝支さんよぉ。目の前の女なんて特にな。そんな女の彼氏やってんだぞぉ、お前はよぉ。 慌てる孝支の手を振り払って唐揚げ弁当を食べ進める。確かに選手と違ってわたしは動いていないけど、腹が減っては戦は出来ぬのですよ、わかりますか孝支くん。 中学校の頃からバレーボールという運動に携わってきたので、選手のデータから試合のデータ、他校の選手、他校のプレー、それらをまとめるのが得意で大好きである。中学校の時も気付いたらプレーよりもデータを集めることのほうに精を出していたような気がする。 眼も悪くなってコンタクトになった。 髪も長くなった。 口数も減った。 「体重増えたぁ」 「うん この前腹の肉摘めたもんな」 「最近ガルボにめっちゃハマっててえ」 「うん この前鞄に吃驚するほど入ったもんな」 「最近大地の事カッコいいなあって思うんだぁ どう思う」 「うん それすごい問題発言だよ」 「キヨちゃんかわいいよねぇ」 「まあ、うん 清水は可愛いよな」 「スガ殺す!殺してやるっ」 一向に減らない唐揚げ弁当に割り箸を置いて孝支が持ってきたボールを奪い思い切り投げる。半分驚いて、半分呆れる孝支はしっかりと片手で受け止め、おいおいと立ち上がって綺麗にトスをした。 ボールが宙を舞う。 わー。すごいわぁ。 わたしも中学の時セッターだったなあ。 センター試験受けたくないなぁ。 もう一回、バレーやりたくなったなぁ。 「おーい、落ちるぞー」 「あっ うん」 わたしもボールを孝支に向かって宙を泳ぐようにして放った。ゆっくり、ゆっくりと宙を泳ぐ。 髪の毛が邪魔だと感じる。わたし結構トス上手だったんだ。 「おー 久しぶりに見た」 ボールをキャッチした孝支は座り込んで全然減っていなかったお弁当をガツガツと食べ始めた。わたしは立ち尽くして孝支の姿をじっと見つめた。 孝氏はわたしに気付いて元いた 隣のコンクリートをポンポンと叩き「座れよ」とでも言っているかのよう。 「唐揚げうまそう」 「あげませんっ」 「俺の卵焼き食べたくせに」 「一口ならいいよ」 「それじゃあ割に合わないだろ!丸々1個よこせよっ」 「それこそ割に合わないよ!せめて半分だよ!」 「じゃあ半分っ」 「いやっ」 「なんでっ」 ああ、もう何もかもいやだ!もうこいつ本当めんどくさい!男なら卵焼き一つ我慢しろよっ! ああ、うん バレーやりたいなぁ。 いっぱい動いて汗流して、チームメイトと一緒に青春の汗流したかったなぁ。 「本当にめんどくさい女代表だね」 「……ほう…?」 「まあ、いいんだけど 好きだし」 少しご機嫌斜めに孝支は言って、残りのお弁当を完食させて、わたしの方にお尻ひとつ分近付いてわたしの唐揚げを指差した。 「ちょうだい」 「あげません」 まあこれも十分、青春か。 遠くの方で日向くんがわたし達を指差して何か言っているのが見えた。隣の影山くんは首を傾げ、田中くんは慌てて2人の背を押して物陰に隠れる。見えてる、見えてるぞ3人共。 「見せつけてやろっか」 「やだ」 「なんで?」 「恥ずかしいし 恥ずかしいから」 「なにそれ恥ずかしさ二乗?」 「うん」 期待したって、いいことないぞ3人共。 同じ部活の人にこの光景がみられていると思うと、どこからか恥ずかしさが込み上げてきて、恥ずかしさ十乗くらいになってしまった。 食べかけの唐揚げ弁当を見つめ、何も考えずに見つめた後唐揚げを口に放り込む。 「ちょっとこっち向いてみ」 孝支が肩を叩いて言うので、唐揚げを食べながら振り向くと、孝支はただ触れるだけのキスを慣れたようにして、唐揚げを平らげるように唇を舐めた。 わたしは驚いて言葉を失い孝支を見つめる。 ニカリと笑う孝支。 真っ赤になるわたし。 「青春なう」 |