カルピス | ナノ

 だからめんどくさいアル。女は。あーだこーだ化粧だのなんだの、男がなんだの恋人だのリア充だの、チョッパーかわいい〜!だの、本当懲り懲りだヨ。今の時代駄菓子系女子が流行るっていうのによ〜時代は遅れてるぜ〜。ちなみにワンピースフェアはオタク狙いすぎてて逆に引くつうかマジでぇ〜銀ちゃんも言ってたけど今のけいおん!ヨ。
 神楽ぁ、あんまり坂田には近付かない方が良いよ。…ほらよくみてみなよ、ライターにあずにゃんがいる。黒い油性で描いてるから、坂田が自分で描いたマッキーあずにゃんだよ。きもい。近付くのやめよう。


「愛だの恋だのどうでもよかったりするんだよね〜事実めんどくさいじゃん。やっぱり自分の生活に干渉しない奴か、自分みたいな人探すわ。」
「そしたら毎日がぐーたらアル。名前はぐーたらしすぎてトドになってまうわー!」
「誰の真似?」
 ビクリと肩を揺らしたのは隣の席の土方くん。瞬きをしながら瞼をパチパチとさせ四方八方に視線を飛ばしている。誰から見てもおかしく思うこの行動は初めてみるものではなかった。わたしや神楽、妙が恋バナをしている時、いつもこうさせる。恋バナっていう恋バナはさっちゃんしかしたことないけど。
 隣のクラスの来島また子に愛の告白を受けている高杉はすべてを右から左へ受け流したあと、そろばん教室あるから今日は帰ると朝の時点で言った。また子はバカな奴だから、わかったっス晋助様ぁ!それじゃあまた明日!と手を振りながら教室を出て行った。いや、まだ朝だから。ほんと、だからパンツにシミ付くんだよ。神楽情報。
 神楽に頼んで買ってきてもらったよっちゃんイカの封を開け、はずれかあたりかを見たが見事に撃沈した。今まで生きてきた中で当たったことなんて一度もない。十円ガムはあるけど、よっちゃんイカはない。もしかしてあたりなんてないんじゃないの?
「Z組の苗字さん。Z組の苗字さん。至急職員室の坂田先生のところまで来てください。飴上げます。」
 全校に鳴り響く鐘の音と、わたしの名前。何度かこんな事があったから驚きはしなかった。「じゃ、ちょっくら行ってくる。先生に言っておいてねー」次の授業は確か……生物だったかな。あとでヅラにノート取らせてもらうことにする。解りやすい高杉の解説を流しながら。

 職員室へ行くと、ついてこいよと坂田が国語準備室へ腕を引っ張った。一枚の紙をピラピラと泳がせていたから、この紙になにか書くんだろうと思いながら席に着く。向かいの椅子に座ればいいのに、坂田はわざわざ隣の椅子に腰を下ろした。
「これやれ」
 やる気のない目が向けられ、わたしも自然とやる気のない目になった。高杉のクソ下手な歌を口ずさみながら、ボールペンで問題を解いていく。ボールペンで書く奴がいるかバカヤローといいつつシャーペンを用意しない坂田は火の付いてない煙草を口で遊ばせながら言った。
「放課後やればよかったのに。」
「あと反省文もあんだから文句言わずにやったほうがいいよ名前ちゃん」
「なんの反省文!?聞いてないんだけど!」
「言ってないんだけど。昨日のサボりの件だよ。一学期で何回サボってんだてめーはよぉ…もう銀さん泣いちゃうよ。」
 問題は大して難しくもない簡単な漢字問題。反省文の紙なんてないじゃないかと辺りを見渡すと、坂田の服の内ポケットに袋ごと丸められて存在していた。
「何枚書くの?」
「四枚半」
「……なんで高杉は書かないの?」
「いーやアイツは今日書いてきたから。」
「いつの間に……サイテーだ。なんも書くことないのに…」
 二十問の漢字問題は終わった。所々空欄のある問題用紙を見つめる坂田は、あーこの漢字難しいよなーと煙草を唇で銜えて遊ばせていた。
「なあ名前ちゃんよぉ、お前はちょっとくらい警戒心持ったほうがいいと思うよ。無防備すぎる。先生襲っちゃうぞ〜」
「嘘つけ。本当はできないでしょ。世間の目が怖くて。セクハラで学校やめさせられました〜なんて自殺もんだよ。」
「そうそう、お前のそういうとこだよ、俺が言いたいのは。」
 内ポケットから作文用紙を取り出して机に置いたと思ったら、急にかけられる体重に耐えきれなくて机に伏せた。
「あーあ。捕まっちゃったね」
 遂に初めて坂田と二人きりになってしまった。先生のマッキーあずにゃんライターはどうなったかと訊いたら、そんなの関係ねえだろ、と首元に顔を寄せた。抵抗しようと体を捻るが、坂田にはわたしの抵抗なんて関係ないかのように首筋に舌を這わせる。気色悪くて抵抗の声を発するが、坂田は関係無しに鎖骨に手を置いて、そのまま服の中に手を入れた。
「帰る」
「帰らせると思ってんの?」
「叫ぶ」
「叫ばせねえよ。つか恥ずかしくねーの、お前は。教師にこんなことされちまって、教師たちの目もそうだが、生徒達のお前を見る目、どうなるかなって思わねーのかよ。」
 確かに、そうだ、図星をつかれた。この学校は大きいし、大きな被害受けるのはわたしだ。坂田じゃない。一瞬で噂は流れるだろう。3年Z組の苗字が坂田とセックスしたらしい、と。強姦だと流れてくれればいいのだが、そんな都合の良い学校社会ではない。
 胸の突起を摘む坂田の腕を噛むと、静かに笑った坂田は、初めてかよ、と耳元で囁いた。
 こわい
 次第に力が抜けていく。
「そうそう、初めから大人しくしてりゃいいんだよ。痛くしねーから、きっちりリードしてやっからよ、あんまり緊張すんなって」
「緊張もなにも、恐怖でいっぱいいっぱい。なんでセックスする流れになってるの?」
「いいじゃん、いいじゃんスゲーじゃん」
「スゴくねーよ。まじで、やめてよ坂田。」
「あ、もえる、抵抗されるともえる」
 燃える?萌える?どっちでもいいけど。
「本当に、やめてよ、ねえ。」
 腕を掴まれたまま、坂田にされるがままにソファーに押し倒された。手を振り払おうとするが阻止されてしまう。「や、やっ、坂田、やめて、」スカートを捲られ、太ももの内側をゆっくりと指を移動させてパンツの上から撫でられる。
 長年の夢叶っちまったよ、もう願い事できねーや、神様、ありがとう。名前と二人きりにさせてくれてありがとう。ぶつぶつとそんなことを言いながら坂田は上着も一気に捲った。
「黒かよ…お前はどんだけ銀さんの事わかってんの!怖いんだけど!」
「怖いのはお前だ!」
「てめっ……かわいいんだよ!自重しなさい!」
「別にあんたに見せっ…!」
 いつも見ているものなのに、こうして人に見られると恥ずかしい。ブラジャーの上から突起の部分を押した。
「いやっ、やだっ、やだってば!」
「うっせーよ」
 吸われるようなキスが降ってきた。キスの仕方を知らないわたしは息を止め、たまに離される唇の間に息をする。
 わたしの力なんてこんなもんだったんだと思い知った。坂田の膝に敷かれている右手はとても痛い。振り払うこともできない。左手は坂田の右手によってソファーの縁に張り付けられる状態になっていた。背中に回ってきた手はホックを外し、ブラジャーを脱がされ、地面に落とされた。
「ちゃんと感じてるぜ。置かれてる状況が状況だから、すぐにその気になるよな。」




 教室に戻ってきたのは三限目が終わる頃だった。今まで何してたアルカ!銀ちゃんの下であんあん喘いでたアルカ!かわいい海の動物はイルカ!とぐるぐる眼鏡をかけた神楽は酢昆布を食べながら質問してきた。曖昧に返事をして、昨日のサボりの反省文書かされてたこととお仕置きの漢字プリントやらされてた。と言えば周りの皆も頷いてくれた。
 一息を吐いて四限目の用意をしていると、土方が、どうしたと、顔を覗きながらいつもより優しい声のトーンで言う。
「あ、ほらよ、コーヒーゼリー」
「……あっ、そうだった、ありがとう。」
 昼休み、折角作ったお弁当も食欲がなくてそのままにした。土方が買ってきてくれたコーヒーゼリーも封を開けずに袋に入れたまま机の横にぶら下がっている。そんなわたしに神楽も妙も、保健室に行ったほうがいいんじゃないかと心配してくれたのに首を横に振って否定した。
「大丈夫かよ」
 普段人の心配なんてしない高杉でさえ声をかけてくれた。わたしはひどく落ち込んでいる様子らしい。