カルピス | ナノ

 友達って正直すごいめんどくさいと思う。一緒に行動してないと陰で何を言われているかわからないし、行動してたって自分が見ていないところでも何思われてるかわからない。わたしが目を離している隙にわたし以外の人がアイコンタクトをとって「こいつ(笑)」って思われてるかもしれない。あと、依存しすぎて何か繋ぎ止めておかないと自分から離れて行くんじゃないかと勘違いするやつ。すっごいめんどくさい。やっぱり、めんどくさい。ギガントメンドクサス。
 って思っていたのが中学生。高校生になったわたしはそんなことは思わない。大人になったからなのか、それとも、歪んだ性格が更に歪んだのか。でも、わたしはこのままの考え方でいいと思っている。大好きなZ組の皆はこんなわたしを暖かく包み込んでくれるし、友達関係で悩むことのないバカが揃っているからだ。
 前の席で酢昆布を食べている神楽が振り向き、宿題見せておくれヨ。と食べかけのヨダレベトベトの酢昆布を差し出してきた。
「いらん」
 きっぱりと一言告げると、ぐるぐる眼鏡の神楽はショックを受けたようで、重い石を頭に乗せ「ガーン」と効果音を口で言った。
「なんでヨ!酢昆布だヨ!皆大好き酢昆布だヨ!」
「朝からすっぱいにおい漂わせんなチクショー。早く食べ終わって。そしたら宿題見せてあげるから。」
「わーい!」
 箱に入っていた酢昆布を一気にたいらげ、ひまわりの種を頬にたくさん集めたハムスターのような大きい頬になった。
「おい、俺にも見せろよ。」
 乱暴に椅子を引いたのは隣の席の土方十四郎。「バカが!私が先にお願いしたんだから私が最初アル!マヨラー厨には渡さんぞワッハッハッハッ!」「マヨラー厨ってなんだコラァァいいから宿題見せやがれ!」神楽と土方のノートの取り合いが始まる。そんな風景を見るのはやはりいつものクラスメイト。いつも飽きないなーといった溜め息や、うっさいといった溜め息、その他いろいろな溜め息が聞こえてきた。
「土方はHR中に見せてあげるから。」
 ピタリと止まる土方の手と、思い切り引っ張ったせいか体が机を巻きこんで倒れた神楽。短く濃い戦闘は終わった。
「いっつもいっつも飽きねーな。自分でしやがれってんだ。」
 バカでもわかる!あなたのためのそろばん入門 の本を読んでいる高杉が呟いた。呟きに対して、土方はうっせー、と口を尖らせながら、同じ声の大きさで呟いた。




「せっかく宿題やってきてんのにアイツがやり終わらなかったからってサボるこたねーだろ。」
「うっさいなあ。宿題さえやってきてない高杉に言われたくない。」
「お前の味方してやってんのに随分な物言いだな」
「いらん」
「素直に受け取れよ。」
 体育座りをしながら、屋上に吹く風を全身で受け止める。高杉が吸っていた煙草を取り上げて、上履きで火を消した。「テメー何しやがる。最後の一本だったのに。」悔しそうにする高杉も、わたしと同じように体育座りをして風を受け止める。理系、文系に分かれない学校だから、授業は皆均等にあるのだ。今回の宿題は数学だった。P17の練習問題を解いてきなさい。先生に言われた通りに家でやってきたわたしは真面目ちゃんだ。サボってるけど。
「ったく、いつまでもそう俺とつるんでるからZ組になっちまうんだよ」
 ゴロンと寝転がった高杉は、この前の喧嘩で目をやったらしい。白い眼帯の位置を整えながら目を瞑る。風に乗せながら、高杉が組んでいるバンドの曲を口ずさむと、ゆっくりと目を開けた高杉は
「ちげーよ、もっと、こう」
 と、音痴で下手で厨二の歌詞を歌った。今更下手だよ、とか、音痴だよ、とか、きもい、とか、誰も感動しないよ、とかは言わないでおく。ただそんな曲は流行らないよ、とは毎回言う。その度に高杉は「これから流行るんだからいいんだよ。常に最先端を走っている俺に文句つけんじゃねー」と一曲七分の曲を最初から最後まで、前奏から間奏まで口ずさむのだ。



 数学も終わるだろうと、夢を見て寝言を言う高杉をそのままにして自分だけ教室に戻った。やっぱり授業は終わっていて、次の授業の準備に取り掛かるヅラを横切って席に座る。隣の席の奴がビクリと肩を揺らした。
「悪かったな…、高杉とサボってたんだろ」
 眉を下げた土方は、お詫びにとガムを机の上に置く。
「気にしなくていいよー眠たかったし。」
 ガムを口に入れ、机の中に山ずみになっている教科書の中から現代文の教科書とノートを取って机の上に置く。高杉はどこにいるんだと土方が筆箱を漁りながら訊いてきたので、わたしはコンサートしてると、寝言でヘビメタを歌う高杉のありのままの状態を話す。土方は、お、おおそうか。となんだかよくわからないで頷いていた。多分ヘビメタの意味をわかってない。
「明日プリンでも買ってきてやる。」
「コーヒーゼリーがいいなー」
 こうしていつも土方はわたしに借りができる度に何か買ってくるんだと約束をする。わたしは別に約束をした覚えはないけれど、土方はいつも忘れずに、わたしがいったものを買ってくるのだ。別に要らないのに、前にいった事がある。しかし土方は俺が勝手に言って勝手にしてることだから気にすんな、と次の日も、そのまた次の日も、間を挟んだ三日後も、きちんと買ってきてくれる。
「よーし席につけー。苗字ーまたサボりやがってぇ〜放課後みっちり銀さんと方程式を駆使し、何秒後に腰を振れば気持ちよくなるか小テストするぞ〜覚悟しとけよ〜」
「せんせえ〜保健室いってきま〜す」