カルピス | ナノ

 高杉がリハビリを始めたそうで、万斉を筆頭に、不良グループは祝福を上げようとしていた。というか万斉というより、来島が先頭を走っていた。高杉は、ある程度リハビリが済んだら、この長い闘病生活を元に歌を作るつもりでいるらしい。わたしが持っていったそろばんを見たら、俺は次の検定試験までそろばんしかしないと言っていた。
 あれから土方とは微妙な雰囲気が一ヶ月続いたが、わたしが栄養ドリンクとコーヒーゼリーが食べたいなあ、誰か買ってきてくれないかなあ、という一言に、次の日予想通り土方が買ってきて、その日から少しぎこちなかったが今まで通りの関係に戻りつつあった。
 クラスの様子も変わりない。沖田と神楽の殴り合いのケンカは毎日のようにあるし、妙のストーカー被害は絶えないが、それと比例してゴリラが血を流す光景も絶えない。坂田の言葉のセクハラも絶えない。
 あと、わたしは恋をしている。高杉の女だ〜とかなんとか言って絡んできた不良から助けてくれたとてもかっこいい人に。一見女に興味がありそうで、実はそでもなかったりする。でも多分両想いだ。学生の恋模様なんて一時的なもので、何ヶ月か続けばいいほうなのだと、あまり期待しないで今後も好きでいようと思っている。
「あり?約束の時間間違えちゃった?」
「何分に来たの?すごいお皿の数なんだけど。みんな引いてるんだけど。」
「う〜ん三十分前くらいかな。名前も食べるかい?」
「いや…あんたの食いっぷりみてるだけでお腹一杯…」
「よかったじゃない、俺の食いっぷり見てるだけでダイエットできて」
「うん、まあ、そうだね…」
 次々に空になっていくお皿と、お皿まみれになるテーブル。ウエイトレスさんもお客も皆、神威を見ていて、食いっぷりにスプーンやフォークを置く人もいれば、食いっぷりにつられてたくさん食べている人もいる。かっこいいと釘付けになっている女子もいる。
「この後どこいこっか。名前の行きたいところでいいよ」
「どうせお腹空いたからなんとか言ってファミレス行くことになるんだからここでいい」
「名前は俺のことよくわかってるよね」
「まあね」
「高杉にやるのはもったいない女だよ」
「そりゃどうも。一応友達だから悪い噂がたつようなことは言わないけどね」
「優しいね。高杉限定かな?」
「それはどうかな〜優しくしてくれる人には優しくしてあげるから」
「じゃあ俺にも優しいね!いつも優しくしてあげてるから」
 いつも間違えたことを装って先に居てくれることとか、普段他人にはあげない自分の食をくれたりだとか、特別に見られてると感じたことは多々ある。
「数学の課題出されてるんだけど、ここでやってもいいかな」
「俺の相手しながらだったらならいいよ」
 鞄から数学の教科書とノートと筆箱を取り出した。前ではもちゃもちゃと肉を食べる神威の姿。それに釘付けになっている老若男女。
「受験生リタイアしたいよ〜」
「俺就職だから最近頑張ってるんだ。遅刻早退欠席ゼロ」
「えっ!偉いじゃん!」
「……まあね」
 わかりにくいが、頬を薄く赤く染めた神威は最後の一口を口の中に放り込み、横を向いた。「すいませーん。ステーキ五人前お願いしまーす」
「あー…名前、何か飲む?」
「パフェ食べたい」