カルピス | ナノ

 土方が昨日のミスコン準優勝者とセックスしたという噂は土方を避けて広まっていった。わたしは沖田から聞いて、誰にも間違いはありやす。受け止めてやってくだせェ、と苦い顔をして肩に手を置かれた。いや、なにが?それを言う前に沖田はわたしの前から姿を消していた。
 授業中、隣の土方はいつも通りで、なにも変わったことはない。坂田とセックスとしたときは、強姦されて、処女膜破られての悲しさが渦巻いていたが、土方は違う。強姦をする側でもあれば、処女膜を破る側でもある。
「あ、ねえ土方。消しゴムかしてくれない?」
「!……ほらよ、」
「あ、ありがとう」
 いや、少し変わっている。


 放課後、土方は鞄持って一番に教室を出て行った。沖田は皮肉を言うように、「今度はあの女にぞっこんですかィ」と言って、神楽に関しては黙っていたものの、なんだかやりきれないような感じであった。多分、二人は土方の恋のことで悩んでいるんだろうと思った。わたしは事情も知らないし、深追いする気もない。
 ぐるぐる眼鏡の神楽に、駅前にできた新しいケーキバイキング行こうかと提案したところ、妙もその話に加わってきて、九兵衛も一緒にケーキバイキングに行くことになった。それじゃあ早速行こうかと四人が鞄を持って席を立つと、ドアの前に土方が立っていて、わたしをじっと見つめていた。
「苗字」
 返事もできぬまま、土方に腕を強く握られて、大股でどこかに連れられる。わたしは引っ張られながら追いつくのに必死だった。Z組で、神楽、沖田、それから妙の歓喜の声が上がっている。
「ちょっと、どこ行くの土方っ」わたしの声には耳もくれず、旧校舎の、使われなくなった教室のドアを引く。鍵がかかっているはずだ、こうして開くはずがない。わたしが教室へ入ると、内側からカギが閉められた。下の小さなドアも、窓も、すべてだ。
「なにしてるの?」
 教室の端に佇んでいると、無表情の土方は近付いてきて、ドアに背中を押しつけ、不器用なキスを受ける。暴れてもすぐに止められて、手足を動かそうにも動けない状態になった。両足の間に土方の片足が入り、いきなりパンツに手が侵入してくる。それを拒むが、力の差は歴然で、休む間もなく秘部に指は入っていった。土方の制服を握り、痛さと言葉にできないものに耐える。息が切れて肩を大きく揺らしながら空気を吸っていると、苦しいなかに土方の深いキスに空気が失われ、土方の舌がわたしの舌に無理矢理絡めてきた。息も儘ならず、口の端から唾液が流れ落ちる。
 立つ足の力がなくなって、膝を曲げながら床に尻をついた。秘部から指が出され、その指を土方が舐めた。
「な…舐めないで…!」
 腕にしがみつけば、土方はそのまま力強く抱き締めてきて、パンツとスカートを脱がしにかかった。案外すぐにスカートのチャックが外れて、パンツに手をかけられると思ったら、制服の中に手が入っていって胸を鷲掴みにされた。
 驚きか恐怖かと訊かれたら、どちらも選ぶことはできないが、助けを呼ぶ台詞が口に出せなかった。坂田とは違う、もっと強引な手つきだ。声に出さずとも、行動には移せる。パンツが下ろされ、そのまま股に顔を寄せる土方の頭を押して、やっと、やめて、という声が出た。
 そこでハッとした土方は顔を上げてわたしを見下ろす。眉が下がりきっていて、自分が何をしているかわかりきっていないようだった。パンツとスカートを即座に穿いて、鍵を開け教室を出た。早く帰らなきゃと視界がぼやけるなか、新校舎へ続く廊下を早足で進んでいたら、鈍い音をたててわたしは地面に尻をぶつけた。
「…苗字?」
 煙草を銜えて喋る声、坂田だ。
 なんでわたしは坂田と高杉をを拒まず土方を拒んだのだろう。嗚咽を出して鳴くと、坂田はしゃがみこんで、何があった、と抱き締めてきて、頭を優しく撫でた。
 もしかしたら、これなのかもしれない。優しさがなかったからなのかもしれない。
「坂田っ…!」
 今は坂田の胸を借りて、言葉にできないものを涙に変えて流そうと思った。坂田の服を掴むと、階段の陰に体を寄せてくれて、わたしが気の済むまで一緒に居てくれた。途中、誰かの足音が聞こえたけれど、涙の顔を見せるわけにも、苗字名前であることも知られるわけにはいかなかったので、そのまま坂田の胸に顔を埋めたまま泣いた。坂田が高杉だったとしても、同じように泣いていたと思う。