神様の決め事 | ナノ


 真選組の仕事は攘夷志士を取り締まるだけでなく、また役人の護衛なども行うのである。わたし達も幕府に仕える役人という立場なのだが、真選組は些か違うようにも解釈されるのだ。
 元忍びをしていたこともあり、わたしはとっつぁんに連れられてある役人のご自宅へ訪問中なのだが、とっつぁんの表情を見る限り、その役人の幕府での立場はとっつぁんよりも上ということが伺える。車を運転している副長と気持ちは一体だった。同じことを思っている、感じている、いや、それはとっつぁんも同じなのかもしれない。


「ふむ、いいぞ、楽にしても。私は菓子が食いたい」

 幕府の重鎮を担う役人の娘の名を則子様と言う。最近攘夷志士のテロ活動も活発になってきているし、一方ではあの高杉が動いているという噂もあったので、則子様の父親は仕事に明け暮れる日々であり、則子様の相手を十分にできずに悩んでいたらしく、それに幾度と変わる護衛に頭を悩ませており、そこでとっつぁんの配下であるわたし達を護衛につけようと考えたのであった。
 役人の娘、といってもやはり家は豪邸中の豪邸だし、則子様の身なりも姫様となんら変わりがないように感じる。
 筋をたてた副長は「か、かしこまりました」といって部屋を出ていく。部屋にはわたしと則子様しか残っておらず、しかも初対面だったのでこのどんよりというか緊迫しているというか、この雰囲気を打破する策もないし、まず話題に出せるテーマもなくて、誰かに話しかけようにも、わたしと則子様しかいないのだ。

「父上からお前は相当な剣の腕前と聞いた。期待しているぞ」
「…ええ、まあ、わたし達が護衛している限り則子様は安心かつ安全です。ちなみにわたしより菓子を取りにいった副長のほうが剣の腕はたちますよ」
「ほう…やはり腕の立つものは目つきが悪いのだな」
「どういう法則?」
「悪は目つきが悪い」
「副長は悪じゃねーよ!?」

 自信満々純粋無垢、鼻息を荒くした則子様はヒーローに憧れているだけのただの子どもとしかわたしの目には映っていない。
 本当はこの護衛、わたしは昼間ではなく夜間の護衛につくはずだったのだが、則子様の父親が則子様に「護衛が二名ほど入る」といってしまったらしく本来夜間での護衛であったわたしは夜だけでなく昼も護衛につくことになってしまったのであった。ゆるさない。
 一応忍びの道具は持っていてはいるが…。

「おい女、名前は何と言う?」

 自分の指が勝手にピクリ、と動いた。こう、表向きに「主」として認識し任務に就いたこともいくつかあったが、ブランクのせいかそれさえもわたしの怒りのメーターをあげる要因となる。

「名字名前と言います、則子様」

 なんとか平常心を保ちながら二コリと笑うと、則子様はその笑顔に笑った、わたしを馬鹿にするように。

「貧相な娘でも綺麗な笑顔を見せることは可能なのだな」



「則子様、一体、えー、俺の補佐に何をしたんですかね」
「特に何もしてはいないが?お前の部下は低能なのだな」
「否定はできません」

 (てめっ、まじ、殺すぞ…)屋根裏に登り、板を少しだけずらして則子様と副長の頭を見下ろした。本来このようにして護衛をするということだったのだからわたしの行動は間違ってはいないし、則子様に顔を見せたのだからもう夜間内の護衛だけで十分だろう。後で副長にはそう言えばいいだろうし。
 しかしまあ、則子様はああいうだけの顔の良さは持っている。歳は神楽ちゃんくらいと変わりないだろうが、生活の良さが滲み出ている顔、体、そして服装に口調、性格、態度。こりゃ護衛も嫌になるわな、と思う。副長がどこまでキレないで護衛を続けられるか、だなあ。

「おい土方副長」
「はあ」
「私はコンビニのスイーツが食べたい。金はやるから買ってこい」
「……、名字」
「!?なぜバレた!?」
「さっきからてめーの声ただ漏れだったんだよ。命令だ、コンビニのスイーツをなんか買ってこい」
「職権乱用!」

 板を外して副長の隣に下りて札束を受け取った。どれだけ買わせるつもりなのこの人は…。

「…そんじゃ、ちょっくら行ってきますから」

 人から使わされていることは慣れている、といってもそれは幾らか前の話で、今は人を使う立場の人間に近付きつつある。それはいいとして、この札束を渡され「コンビニのスイーツを買ってこい」など、則子様は一体コンビニを何だと思っているのだろうか?高級ホテルじゃねーんだけど。
 昼人間になってからは夜は眠い眠い…それに最近書類に追われ(ほとんどサボっていた分なのでわたしが悪いのだが)寝不足である。ひとつ大きな欠伸をしてコンビニの自動ドアが開いた。

「…………。」

 なんだこの黒ずくめ集団は。今時コナンでもこんなヘマしねーよ。とりあえずカゴを持ち、ありとあらゆるコンビニスイーツをポイポイと中に放り込んでいった。その間に黒ずくめ共に聞き耳を立てる。
「オイ聞いたか?」
「ああ、あれだろ?」
「消費税が8%になるって」
 黒ずくめ家庭的すぎるだろうがァァアア!!新一を子どもに変えてしまった黒ずくめはどこいったんだよ!あの「俺達犯罪に関与してますから〜」のオーラはどうしたんだよ!たちまち黒ずくめが良い人に見えてきて困ってしまう。
「あの魚屋、今日はマグロ安かったなぁ」
「あの肉や、ひき肉がいつもより100円安かったなぁ」
 主婦かよ!!
「(くそ……漫画の読みすぎか……事件が起きるわけでもない)」
「キャアアアアア!!人が死んでるわぁあああ!」
 早速ぅぅうぅううう!?

「御用改めである!真選組だ!神妙にしろ!」
「しっ真選組だと!?」

【名前】
俺は名字名前!全国的に有名な警察探偵さ!見た目が女だからってナメられても困らない!忍術良し剣術良し体術良し!天人もドキドキ!事件をすっきり解決さ!

俺はとある依頼人の頼みで札束を腰のポーチに入れ、コンビニに来ていた。頼みを確実に遂行するのがこの俺、名探偵名前の役目だ。かぼちゃプリン、タニタ食堂100kcalのプリン、杏仁豆腐、ブルガリアヨーグルト……ロールケーキ……人の死体……。

俺は黒ずくめの男たちに事情聴取を開始した。

【名前】
わたしは真選組副長補佐名字名前です。
あなたは何分前に、このコンビニに入りましたか?

【黒ずくめの男A】
俺はさっきコンビニに入り、入口付近の栄養ドリンクを選んでいたんです!ですがお目当てのエスカップがなかったので諦め、エロ本を読んでいました。

【黒ずくめの男B】
俺は酒を見ていました。ビールを二本手に持っているのが証拠です。何分かは忘れてしまいましたが、元々このビールを買おうと思っていたのでそんなに時間は経っていないと思いますよ。

【名前】
さて……どうしたものか。これでは埒が明かない。こういう時はこの俺の腕時計型麻酔銃で誰かを眠らせ、適当にアリバイを作って捕まえるしか……。いやいや!それはだめだ…わたしは泣く子も黙る真選組副長補佐なのだから……。

そんなこんやでわたしは一人の男を眠らせた。

【黒ずくめの男A(中身は名前)】
えー、みなさん、お待たせしました。只今事情聴取が終わり、現在開発中の秘密兵器、●ネクタイ型変声器のテスト中です。
それでは。今ここに転がっている死体の身元を調べたところ、この男性はある組織に一員であることがわかりました。その名はGX5。またの名を「ギャラクシー5」。この組織は天人の資金で活動を続けている組織なんです。そしてこの男の手に持っているエロ本をよく見てください……ギャルのおパンツが付録としてついていますね。そして付録が取られている……これは完璧なる犯罪です。
そう、この男を殺した犯人こそ……男が万引きをしている事をしった……コンビニ店員C、あなただ!

「いきなりすぎやしねぇか!?」

【コンビニ店員C】
ち、ちがいます!!私は人殺し何かしてません!!(画面震え)

【黒ずくめの男A(中身は名前)】
そうでしょうか?ならば今後ろで組んでいる手をわたしに見せてごらんなさい……

【コンビニ店員C】
こ、これは、ドアを素手で壊したのよ!?

「おい本当にドアが壊されてるぞ!」

【黒ずくめの男A(中身は名前)】
こうして事件は謎に包まれたまま………長い年月が経った。

【終】
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「勝手に終わらせてんじゃねえぞ!この税金泥棒!」
「文字数稼ぎにノベルゲーム参照してんじゃねえ!画像がないとゲーム画面だって想像しにくいだろうがっ!!」
「てめーら全員捕まえるぞコラァアア!!そこの男は映画泥棒の現行犯で逮捕!!」
「劇場内での 映画のさつ……ってアホか!?」

「名前……お前何してるんでィ」
「そっ 総悟ォォオォォオオ!!良い所に!!ねえ人が死んじゃったみたいなんだけどどうしよう」
「ケーキで墓作ってポッキーを線香代わりにしてポクポクチーンすりゃいい」
「おお!そりゃいい考えっ!そうしよう」
「いい考えじゃねーよ!?オイオイマジでこんなんが警察なんて世も末だなァ!?」

 とりあえず頭から血を流している男の両脇に腕を通り起きあがらせようと持ち上げた。おいギャルのおパンティー付きエロ本抱えてるぞこいつ……。「おお、こりゃ大量出血で死んだのかな」よく見れば見知った顔のような気もする……。

「………かっ、翔!?」
「翔だァ? てめー男がいたのかオイ名前死ね」
「なんで!?ちょっと翔、目覚ましなさいよ!翔!あんた死ぬつもり!?だったら鶴林家の財産をわたしに頂戴!?」
「て、てめ……ざけん……な…名前………」
「意識がある!目を覚まして翔!!」

 胸倉を掴み往復ビンタをかますが翔はそのまま白目を剥いたまま意識を取り戻すことはなかった。「どうしよう総悟!?」胸倉を掴んだまま総悟の方に振り返る。いつの間にか投げ出していたカゴはしっかりと総悟が掴んでいた。まるで厄介者をみるような表情をする。

「しらねーよ」
「無慈悲!総悟いい子だから」
「てめェナメてんのか」

 こういう時は選択肢を出そう!
▼助ける
 助けない

「『助ける』!」
「厄病神」


* *



 総悟にひたすら頭を下げて頼み、ジュース15回分で翔をおぶって則子宅へ戻って来た。わたしは黒ずくめの男共などもはや眼中になく、依頼主である則子が待ちに待ったスウィーツが入ったコンビニ袋を持って門へ足を踏み入れる。
「受け入れてくれるかどうか」
「ダメだったらそこらにでも放り投げときゃいいだろィ」
「よかねーよ!こんな血出てるんだよ!」
 そう、こんなに致命的な失血量でなければこうして手を差し伸べるわけでもなかったのに。担ぎ直した総悟は大きな溜息を吐きながら同じように門へ足を踏み入れた。
 うん、いいよどーぞ。と簡単に翔に一室を貸してくれるとは到底思えない。なので、期間限定のじゃがりこを買って来てやった。これで交渉をするぞ。

「……オイ…てめェ名前……こんな時間まで何してやがった……? ………は?お、おいこいつは……」
「の、ののの、則子様ァァアア!どうかこの者に慈悲をぉおお!」
「!?な、何事だ女!」
「則子様今はっ……!」
「け、けが人かっ!?おいじいや!じいや!!医者を呼べ!」


「あ?」
「あれ?」
 わたしと総悟は顔を見合わせ、意識不明の重体である翔を見た。息も虫の息だ。
「……すみません、この人マジで死んじゃうかも」
「ハアアアア!?」