神様の決め事 | ナノ


「忍ぶ者、気配を消して行動するべし」
「忍ぶ者、姿を隠して行動するべし」
「忍ぶ者、足音を消して行動するべし」
「忍ぶ者、空を切って行動するべし」
「忍ぶ者、力量を読んで行動するべし」

「お前にはぜってえできねーよ」
「ちょい待て何してんの総悟」

 厠から茶の間に戻ってくると、明らかわたしのである実家から持ってきた忍の本を熱心に音読している総悟とそれをだるそうに眺めながらもチラチラと内容を窺っている副長の姿があった。顔を上げた総悟は手元にあったカップラーメンをその本通りに書かれているように「手裏剣を投げる動作」でわたしに向かって投げてきた。「うわっ!」身を屈めると大きく舌打ちをした総悟は一瞬で割りばしを投げてくる。「ひいっ!」両方の指で割りばしを目の前で押さえると、総悟から関心の声と拍手が聞こえ、副長はご機嫌斜めの声で「総悟」と一喝。

「なんでィ。そこのサボり女がどれだけの実力を持ってるか確かめただけじゃねえか。そうだよな名前」
「ふざけんじゃねーサボり常習犯に言われたかないわ」
「しかし本当に名字が気配を消して行動できると思えねえな…。夜、厠行く時ドスドス歩いてんだろ」
「なんでここで気配も姿も足音も消して厠行かなくちゃならないの?ストレスたまるわストレス。」
「そんな天才忍者名字名前に任務を与える。」
「都合いい男は嫌いなの」

 副長は半分になった煙草を一気に吸い、「山崎」と一声かけると忍者の格好をしたザキが天井から現れた。さすがにジミー山崎だ。忍者の格好でいると更に地味度が増してどこにいるかわからなくなってしまう。

「下見は済んでるよな?」
「はい副長。過激派の攘夷志士2名の居場所は特定済みです。かぶき町に甘味処を構えていて、近くにアパートがあったのでとってきました。」
「よーしよくやった山崎。テメーにはマヨネーズ一本くれてやる」
「いりません副長。これが地図です」
「え?で?わたしの仕事は?」
「近藤さん直々の命っつうか、とっつぁんの直々の命だ」

 いやまさか、そのようなことはいかがでしょう…。わたしの全否定も虚しく、副長がわたしに見せてきたのは山崎から受け取ったアパートまでの地図。


「今からお前と総悟で攘夷志士の討伐にあたってもらう」

「う、」
「そ、」


 「うそだーーっ!」という総悟と重なった声が屯所中に響き渡り、はらりとアパートまでの地図が足元に落ちた。まさか山崎でも原田でもなくて総悟とだなんて、一番隊隊長の総悟とだなんて、はっきりいって自信が、ない。

 総悟は腕は立つけどサボり魔だしサドだしサドだしサドだし、仲良くおてて繋いで任務に没頭できるとは思えない。しかも副長補佐という副長に近い地位にいるわたしに総悟が恨みを持っていることは知っている。この前藁人形にわたしの名前を唱えながら釘を打っていたことを知っているんだー!
「おい名前聞こえてんぞ」
「いいか?今回のターゲットを逃がしたらおかみが黙っちゃいねえぜ。NARUTOでいうと暁レベルの攘夷志士だ。バカな名字にわかりやすく忍者漫画で例えてやったんだからな」
「ご親切なお節介をありがとう!!」
「にしても、俺と名前じゃ仕事にならないと思いますぜ。お互い性格が合わないのは知ってるし、重度のサボり魔ときた。俺じゃなくて土方さんがいくのが今のベストでないんですかい」
「生憎そうしたいところなんだがな、俺も大事な用が入っちまってる。近藤さんも数日ここを離れるからその間は俺がここを仕切らなくちゃなんねえ。安心しろ、週一でマガジンは届ける」
「……仕方ねえ」
「まじでか総悟オオオオ」





オカザカマサキ、32歳、数人の幕府関係者を暗殺し、数々の破壊活動を行ってきた危険人物。現在双子のオカザカマサヨと共に甘味処を建て収入を得ている。ちなみに甘味処は意外に評判○。
 という山崎のメモとアパート二階から甘味処を交互に見ながら、オカザカマサキの双子のオカザカマサヨを目に入れる。お客に茶と三色団子を振舞っておぼんを抱いて店の中に入っていった。店の上が彼らの家になっているだろうと思われる。ここから二回はよく見えるが、やはり距離があるからかはっきりと家の中身を見る事は困難だ。真選組の制服からどこにでもいる貧相な町娘とその恋人、という設定でこのアパートを借りている(らしい)。山崎が一生懸命に少女漫画を読んで不自然がないように設定を作ったらしいのだが、わたしと総悟からしたら余計なお世話である。

「しばらくはここで向こうの様子を見張りながら行動パターンが読めてきたら行動に移そう、ねっ総悟」
「あーん?」
「ちょ、てめえええ鼻糞飛ばすんじゃねえよ!」
「んなことしなくたって、お前忍者なんだから色仕掛けをオカザカマサキのほうにふっかけてそのまま捕まえればいいんじゃねえのていの〜う」
「とても殺したいけど我慢します!いきなりそんなことして相手に気付かれたら逃げられるし、すべての女忍者が色仕掛けできるわけじゃないんですぅ〜
「はあん、さては名前てめえ、そういうのに慣れてないってわけですよねィ」
「バ、バカにしないでくんない?わたしはその、あれだよ、あれなんだよ!ふざけんなよ!!」

 立ち上がって総悟の目の前でドシン、と片足で畳みを叩くと、古びたドアを叩く音がわたしと総悟の耳にはいる。副長かと思ったが、「こんにちはあ」という人辺りがよさそうなおばさんの声に総悟の顔を見合し、立ち上がっていたわたしはドアをそろりと開ける。手には肉じゃががはいったラップにつつまれているお皿があり、おばさんはニコリと笑って
「こんにちはあ、沖田さん。肉じゃが作ってきたのよ。一緒に食べながらお話でもしない?」
「あ、いや、あの肉じゃが食べながらお話って初めてちょ、えっ、ま、待ってえ!」
 と、わたしの声など耳に入ってはいないようで、おばさんはドアを開けてずかずかと部屋に入り、総悟を見て「ワオ!」と走り出した。「おばさん走らないで!」

「……、おい誰だこの腐れババアは」
「総悟めっ!そんなお口のきき方はめっ!」
「ちょっとイケメンの旦那さんじゃなあい」


「……え?」
「…は?」

「知ってるわよぉ。双方親に恋愛を認めてくれないで駆け落ちしてここのアパートにしたんでしょ?ここ人通りもそんなにないし治安も悪くはないけどたまに事件起こるしねえ、こんなとこ親も気付かないわよねえ。それで、ちょっとあなた座りなさい!あなた子どもを授かりにくい体なんでしょう?それで旦那の親に反対され、旦那のほうは安定した就職につかないでいるから妻の方の親に反対されて……。でも大丈夫よ。いずれ親同士も認めてくれるんだから今はそれまでの辛抱よ。ちょっとあなた、この子を養うために…いいえ、この子とこれから生まれてくる子どもの為にきちんと養えるほどの職につかなくちゃね!!ヒューヒュー!!ラブラブゥ!!夜が楽しみだわあ!」


「…………あ、ポケットにもう一枚の紙が…」
「…………、…」
「……p.s.にメモ用紙表裏使ってんじゃねえ山崎ィィイイイ!!」