神様の決め事 | ナノ


[お手柄!?真選組またやった!!]店頭半壊!これで23件目

「へェ〜寺門通レコード大賞で新人授賞式か〜スゲーな」
「違う違うその上の記事」
「へェ〜連続婦女誘拐、またも犠牲者。恐えーな。でもお妙さんは絶対大丈夫だよな〜」
「違う違う。その右上の記事」
「へェ〜総悟がまたやったか〜。責任はお前が取ってくれよな〜」
「違う違う、俺の補佐官の役目だからそれ」
「部下の責任を取るのが上司の務めでござるぞ土方殿!総悟の責任は俺の責任、俺の責任は俺の責任だって言ってたでござんしょう!」
「お前に土方殿って言われたくないんだけどぉ!つかなんだその口調は!アアアア」

 副長が頭を抱え畳みに額を押し付けているのは上司である土方十四郎で、左隣にいるのは冷や汗を垂れ流しにしている局長の近藤勲である。
 「これで23件目」と新聞に書かれている内容をただストレートに捉えるならば、総悟は23回、店を壊す行為を行っているということだ。確かにチンピラ警察と呼ばれるのは仕方のないことだろう。

「これ以上真選組の評判を落とすわけには…」
「え?評判落としたくないだけ?それならいい案あるけど…」
「え?」

 一斉に二人はわたしの方を凝視する。
 だって簡単なことじゃないか。お金さえあればなんだって通用する時代なんだから。



「犯罪というのは心のスキから生まれるものでございます!!これは罪を犯す側、そしてその被害に遭う両方に言える事ではないでしょうか?あの時なんで健一君は駄菓子屋からお菓子を万引きしてしまったのだろうか!?何が彼を凶行に走らせたか!?一つは、」

 なら総悟の犯罪はどうなるんだ局長!局長の演説に興味を示しているギャラリーは少なく、面白半分に見ているのが大半を占めているだろう。その中には確実に攘夷志士がいることは間違いないと言える。面白半分に見ているのは局長が演説している内容、駄菓子屋をテーマにしていることから始まっていた。これじゃ馬鹿丸出しだ。だからガキどもに馬鹿選組と言われるのに気付かないのか…局長。それに自分も何言ってるかわかんなくなってるよコレ…。
「戸締り用心テロ用心!ハイ!!」局長のマイクがギャラリーに向けられるが、復唱する声はボソボソとしていてとても聞こえない。
 しかし、わたし達真選組、今日は一味違うのだ。

「あれれ〜みんな元気がないぞォ。ホラ、もっと大きな声で」

「浮かれちゃうこんな時期こそ戸締り用心、火の用じん臓売らんかィクソったりゃああ!」
「じん臓売らんかィクソったりゃああ!!」
「こんにちは〜真選組一日局長を務めさせて頂くことになりました寺門通で〜す!みんな〜正月だからって浮かれてちゃダメだぞーさんのウンコメッさデカイ!」
「メッさデカイ!」
「今日はお通が全力で江戸の平和を護って見せるからみんな手伝ってねこのウンコメッさくさい!それじゃ一曲聞いてください!『ポリ公なんざクソくらえ!』」

「…トシ、名前、やっぱ呼んでよかったなポリタン」
「…んなわけねーだろッキーV炎の友情」
「……さっきねこのウンコ踏んじゃったルタルソース」
「このニオイの原因はテメーかーちゃんのウンコも結構臭かった!!」

 勝手にライブを始めてしまった寺門通に、真選組は信用を回復しようとわたしの提案で「一日局長」になっていただくことになった。人気の歌手なのでマスコミも、お通ちゃんのファンの人達も確実に集まってくる。ここを逆に利用して市民の信用を回復すればいい。わたしもなかなかの提案をしたと思う。
「お前まじ臭いんだけど」「安心して副長。さっきあなたの背中にウンコなすりつけておいただけから」「オイイイイイ!ニオイの発信源俺だったのかよ!」




「いいかァァー!今回の特別警戒の目的は正月でたるみきった江戸市民にテロの警戒を呼び掛けると共に」
「局長!あなたは大晦日に全裸で踊っていたのはどこのどいつですか!昨日ギャルゲーで夜更かしして寝坊したのはどこの局長ですか!!」
「諸君もしっての通り、最近急落してきた我等真選組の信用を回復することにある!!」

 最近、婦女誘拐事件もあり、そしてテロ事件も少なからず発生している。正月をいいことに、攘夷志士らは市民を人質にとって立てこもりをするケースが多発しているのだ。
 すっかり真選組の制服を着こなしているお通ちゃんのファンが真選組内にもいるらしく、握手やサインを求めていた。それに局長は「バカヤロォォォ!」と隊士たちを殴り飛ばすのだが、その制服の背にはきっちりとお通ちゃんのサインがある。

「いや〜すっかり士気があがっちまって」
「士気があがってんじゃねーよ!舞い上がってるんだよ」
「お通ちゃん、これ今日のスケジュールです」
「あ、ハイ」
「まァ、アンタは何もしないで笑って立ってりゃいいから気楽に」

「…あのォ」
「?」
「私やるからには半端な仕事は嫌なの。どんな仕事でも全力でとりくめって父ちゃんに言われてるんだ。」

(これはまた気の強いお嬢さんだこと。まあ嫌いじゃない性格だし…。)
 お通ちゃんはわたし達から目を逸らし、向こうで局長に殴る蹴るの暴行をしている隊士たちに目を向けた。お通ちゃんは隊士たちに、暴力で解決するのはサイテーだ、暴力禁止、そして帯刀も禁止した。これにはわたしも副長も総悟も反応する。

「オイオイ、小娘がすっかり親玉気取りか?そいつらはそんじゃそこらの奴に指揮れる連中じゃねーんだよ。それに武器なしで取締まりなんてできるわけねーだろ。刀は武士の魂…」
「すいませんでした局長ォォォ!!」
「転職でもするか」

 もしかしてお通ちゃんが真選組に革命を起こしてくれる張本人なのかもしれないと思ったが、あえて口にはせず、一日局長であるお通ちゃんの命令に従って腰の刀を二本地面に放り投げようとすると、副長は思い切りわたしの頭を叩いた。てめーも頭を武装しやがれと言う副長に、刀身を抜いてそっちに投げると、副長は顔を真っ青にして避ける。

「チッ」
「おい今チッて!!何今のねえ舌打ち!?」

「まずあなた達につきまとう物騒なイメージを取り払わなきゃ。そのためにはまず規則から改善していくのがいいと思うの。」そう言ってお通ちゃんが取り出したのは局中法度。士道に背くまじきこと これを犯した者 切腹。

「カッコいいけど、やっぱりコレじゃ恐いよ。今日からこれでいきましょうが焼き」

 そうしてお通ちゃんが新たに取り出してきたのは新・局中法度。「語尾になにかカワイイ言葉をつける(お通語)こと これを犯した者 切腹」

「いや、あの、一番物騒な部分丸々残ってるんですけど」
「それは侍らしさを表現するには削れないからくだのコブ」
「らくだのコブって可愛いのねえ可愛いのかなポリタン」
「そーそーそういうカンジ」
「こいつらちょっとおかしいんだけど!!」

 そしてお通ちゃんは真選組のムサいイメージを拭おうとイメージキャラクター的なマスコットが必要だと提案し、お通ちゃんなりに考えたマスコットキャラが今ここにきているらしい。お通ちゃんが「こっちこっち」と声をかけると、そのマスコットキャラはこちらへ歩いてきた。

「…え?」
「真選組マスコットキャラ、誠ちゃん」

 お通ちゃんが連れてきたマスコットキャラはどうみても万事屋の三人である。真選組の皆がマスコットキャラ「誠ちゃん」に納得しないまま、パトロールの時間が迫ってきてしまったために誠ちゃんを諦めてお通ちゃんを筆頭として町内パトロールが始まった。

「なんだかんだ、わたしの提案成功じゃん」
「成功もなにも失敗から始まり失敗で終わろうとしてるじゃねえか」
「市民の支持は受けてるよ。市民っていってもオタクの」
「バカヤロー!そこが一番問題なんだよ!」

 「テロよ〜じん!」カンカン、と拍子木を鳴らしているお通ちゃんは頑張るアイドル、というのでいいとは思うのだが、確かに副長からすれば刀も取られ、勝手に新しい局中法度も作ってしまったんだから、副長の立場としても、局長である近藤勇の立場として考えてみれば、そうよく思えないのは当然かもしれない。

「まあでもさ、とりあえずアイドルだから大切に扱うことと、攘夷志士には気配っておかないといけないよね。」
「そらみたことか、めんどくせえことになったじゃねえか」
「イメージ落としたくないって言ってたから提案したんじゃんカス方」
「てめええええ」
「ぎゃああああ!!まこっちゃんがァァァァ!」

 誠ちゃんのから突き抜けていた人物が消えている。局長はそれに気付いていないのか、まこっちゃんの中にもう一人のまこっちゃんがいることに怯えていた。多分眼鏡だろう。

「わたし皆の刀取りに戻ってくる。原田車回して〜」
「おう。それから山崎の様子調べに行ってくれ。」
「りょーかい。原田早くしろチーかま食ってんじゃねえよ!!」



「じゃあこれみんなの刀お願いね。わたしザキの様子見てくるから」
「あれ?どこにいるか知ってるんですか?」
「探す探す。じゃあ確かに預けたからね〜」

 車のドアを閉め自分の刀を腰に差し、久しぶりに着ている上着が暑苦しいと思ったが年明けの気温だからどうにも脱ぐことができない。とりあえず温かいココアでも買って、しばらくしたらザキを探すことにした。副長らに見られていない分こういう時サボらないでいつサボるというのだ。

「きゃあ離してっ」
「うるさい!静かにしろ!」
「…?」

 視界に入ったのは遠くの方で顔を白い包帯で隠している男数人と、縄で縛られている女性たちだ。そういえばザキは誘拐事件に関わってるとか言ってたっけ。
 これは攘夷志士らでなくとも、ひとつの事件としてわたしは関わろう。買ったばかりのココアをポケットにしまい、その集団に近付く。綺麗な列で歩いていないから一人殴って服装を盗んで男たちに紛れこもうと後ろをそろりそろりとゆっくりと気配を消して近付き、一番まぬけそうな男を気絶させ近くの茂みに隠れた。腰の刀は弦で背中に巻きつけ、服を着て最後に包帯で顔を隠した。そして集団の中へと紛れ込む。忍だったわたしにとってこんなこと朝飯前である。

「ん?どこいってた?」
「ちょっと小便をな」

 声を変えることだって訓練を受けているので、完璧だ。

「よし、成功だ。しかし間抜けな真選組共だな。簡単だったぜ」
「(うっへえ…)」

 口を抑えられ、体を縄で縛られているのは一日局長のお通ちゃんだった。わたしがいない間になにがあったのかはまだわからないが、とりあえずめんどくささが増したことには変わらない。
 お通ちゃんを誘拐した時点でこいつらは攘夷志士ということが判明した。ならばわたしが関与していてよかったとは思うが、攘夷志士の人数に対してわたし一人なので些か自信はないが。

 この攘夷志士集団はこの少女たちを人質に取り、真選組に逮捕された攘夷浪士の解放と真選組の解散が目的であるらしい。徐々に目的地である「異菩寺」に近付いたところで、少女の一人が咳をした。その声がまるでどう聞こえてもザキにしか聞こえなく、後ろを振り向いてみると、やはり咳き込んだのは女装をしたザキだった。わたしはわざとザキの隣へやってきて、ギロリとザキの目を見た。

「おい、静かにしろ」
「あ…す、すみません…」
「わたしが合図したら、お通ちゃん連れて逃げてね」
「!…え…」

 ザキが再度わたしの顔を見てきたので、わたしはウインクをして前の男達の中へ入って行く。
 真選組が胃菩寺に来ない事は絶対にないだろうから、時間稼ぎくらいはしておける。情報収集ができないまま、胃菩寺にへと着いてしまった。槍なんて使ったこと一度か二度あったかないかだし、刀は背中にあるために取りだすまでに時間がかかってしまう。あるのは太ももに一本だけのクナイのみ。

「よし、もういいだろう」

 申し訳なさそうなお通ちゃんは顔を下げて、テレビ局は攘夷志士を映している。慌てているであろう真選組はすぐにこちらに向かってくるだろうとリーダーは判断した。

「あの…」
「なんだ。」

 すると、真選組の車が飛び出してきて、攘夷志士たちは込める力を込めるのを感じた。

「みんなァ!」
「クク、来たか真選組!解散の手続きは済ませてきたんだろうな」
「え?何て言ったの今。すいまっせー!もっかい大きい声でお願いします!」
「みんなァ!」
「クク、来たか真選組!解散の手続きは…って二回も言わせるな!なんか恥ずかしーだろうが!!」

 時間を稼ぎたい感丸出し、そしてカンペを用意しはじめた。文字を書く時間と読む時間が追加されたが、ここはうまく場の流れを感じないとうまくはいかない。リーダーが「腹が減ったからカレーを用意しろ」というカンペを出し、なぜか副長が三回まわって「ワン!」と叫ぶ。かなりキメてる感じで恥ずかしい。

「ロボットダンスをやれ」
「バレリーナを呼べ」
「ちょっと君なに勝手にカンペ出しちゃってんの?」
「バレリーナを呼んで踊ってもらえば場の雰囲気も少しは和らぐかなって」
「なんで和らげようとしてんのキミ、緊迫した雰囲気でいいんだよ!?」
「放尿しろ」
「バナナを持ってこいンベーダーが潜入調査」
「リセッシュ買ってきてめーらなにやっとんじゃスカポンタン」

 わたしがこのカンペを見せると、副長と総悟、そして数人がちらほらと気付き始めた。リーダーは最後に「ものまねをやれ」というカンペを出し、副長が総悟の真似をし、総悟が「エビの真似!」と反りかえり、副長と総悟が仲間割れをし始めた。

「クリリンのことかーーー!!」
「お前はしなくていいんだよ!!」

 こりゃもう動きだすしかないか、と槍を両手で持つと、リーダーはまた新しい命令を書きだす。

「局長を斬れ」

 真選組内がざわざわと騒ぎ出すと、お通ちゃんは顔を真っ青にし声を上げた。

「やめて、お願いもう」
「できなくば、局長の代わりにこの女が死ぬだけ。人一人護れぬようで江戸の平和は護れぬよ。今まで我々攘夷浪士を散々苦しめてきたじゃないか、江戸を護るために。こんな所でおしまいかね」

 両手に掴んでいた槍を離して、口元の包帯を緩めた。局長は上着を脱ぎ、隊士達に「来い」と腕を組んで構える。局長の言葉の数々に隊士たちは動揺していた目を段々と力強くなって局長、ただ一人を見つめた。

「護るべきものも護れんふがいない男にだけは絶対になりたくないんだとね!」

「剣を抜けェェお前ら!たとえ俺の屍を越えてでも護らなきゃなられーモンがお前達にはあるはずだ!さあかかって来やがれ!」


「カレー届けに参りました〜」
「ああそこおいといて」
「このへんですかね」
「ちょっ、うるさい!今イチバンいいところだろーが!」
「あ スイマッセーン」

 銀ちゃんだ。いいタイミングできてくれた、さすがだ。同時刻、隊士達が局長に刃を向けて突進をする。「アーーー!!」という声は太い男の声で、局長、隊士からではない。攘夷志士からだ。振り返ると銀ちゃん達がうまく少女たちを助けていてくれている。ポケットに入れていたココアを一気に飲んで缶を隣の男にぶつける。

「よっしゃー、ザキ!」
「…あー、カツラは頭がかゆくなっていけねーや。お通ちゃん、後でサインくださいね!」
「コイツ…!ずっと女達の中にまぎれ込んで…!まさか…」
「おっとぉ、逃げられないよおじさん方。皆がバズーカ用意できるまでここで大人しくしててね」
「貴様!」

 包帯を取り槍を構えて笑うと、回りの攘夷志士達がわたしに刃を突き刺してきた。飛んでかわし、重なった槍の上へ乗り右の男の顔面へ蹴りをおみまいし、リーダーへと刃先を向けた時、局長から名前を呼ばれた。「ありがとなあ名前!」
 バズーカを向けて不敵に笑う隊士達。攘夷志士の肩を借りて下へと飛び降りるとバズーカが発射された。爆風で思ったよりも落下するスピードが上がり、受け身を取るのが遅くなり、「やばい」と青筋を立てた瞬間、体は地面へと当たることはなく、誰かの腕で体を支えられていた。

「よお、またお転婆しちゃってくれちゃって」
「ぎ、ぎんちゃんっ…!」
「王子とお姫様みたいな図じゃね」
「白馬とお姫様じゃね」
「うるせー!」





「なにこの記事……総悟ォ!」
「なんでィ」
「またなんかやらかしたでしょ…!!この間お通ちゃんのおかげで評判が上々になってきたところだったのに…またこのありさまだよ!」
「ならテメェも人の事いえねー質だろ。知ってるぜ、近所のガキどものお菓子を奪い取ってサボって食べて寝ていたことをなァ!!近所の評判を悪くしてんのは名前、テメェでさァ!」
「総悟ォォォ!!」
「おい名字そこになおれ!!」