神様の決め事 | ナノ


 名字名前。最近一部の攘夷志士の中で有名になっている真選組の女隊士の一人で、鬼の副長と恐れられる土方十四郎の副官であり、実力は申し分無し。攘夷志士も一目置いているので、最近は真選組の制服を着た女を見かけては後をついていけばケチョンケチョンにされ、ボロボロになった挙句に捕まるといった事態が起こっていた。
 名前はつい最近まで手術後と言い訳をし外を出歩かなかったが、その宣言から二週間後には彼女はもう完全に復活を遂げていて、その表情は以前よりも軽く、明るくなっていた。そしてその勢いで仕事も、といいたいところだが、彼女のサボり癖は以前よりも酷さを増すばかりだった。

 今日もまた名字名前は一人でみたらし団子を食べながら歩いていると、背後に二人ほどの視線と気配を感じ、残りのみたらし団子を無理矢理口に詰め込み、その一本の串を背後に居る人物に向かって放つ。背後にいる二人はもちろん攘夷浪士で、その串に気付くのに遅れた攘夷志士は慌てて身を低くし、その態勢を取ったことで目の前に居た真選組の女隊士を見失った事に気付いた時にはもう遅かった。

「なあにしてんのかなあ」
「!」

 名前は刀をおさめたままの鞘で攘夷志士一名の肩をリズム良く軽く叩いた。肩を叩かれている攘夷志士が動けるはずもなく、一瞬で自分らの背後に移動していた女隊士に恐れを抱いていた。もう一人の攘夷志士は比較的に動けてはいたが、刀の柄を掴む前に手の甲を蹴られていた。二人はもう完全に名前に怯え、動けなくなっていた。自分が目の前の女隊士に勝算が見つからないからだ。
 そうして上着に忍ばせておいた手錠を見せつけると、攘夷志士二名は顔を真っ青にし、抵抗しようとするが、目の前の名前の口元の上がった顔を見て更に顔を青くした。

「まーた手柄一人占め、次は何買ってもらおうかな」

 すると、名前の背後で何かが動き、こちらに向かっていることに気付いた。手錠をかけかけた手を止め後ろを振り返ると、今捕まえようとしている二人よりかは腕の立ちそうな攘夷志士がこちらに向かっているではないか。手錠をかける手を一旦止め、糸で捕まえた攘夷志士を拘束し、こちらに向かってくる攘夷志士と対峙し身構えた。

 名前の刀は左右の形状と重さが違う。まず名前は右利きで、重い一撃を食らわすことができる。そして左は重さが軽くできており、刀身の短さも右よりも数センチ短くできている。刀で戦うスタイルはまず左で威嚇し、切り込みを入れた後に右で一撃を決める、といったスタイルだ。左で傷さえ作れば相手に一瞬の隙ができる。その一瞬の隙を見逃さないことできるのは忍であった名前だからできると言える。
 そしてもう一つの武器は忍具だ。手裏剣、クナイ、飛びクナイはもちろん、弦のように強靭な力を持つ糸を使用する。この糸は弦のように太くはないが、絹で出来ているわけでないので糸よりも太く、そして光の加減で正体がばれてしまうデメリットを持つが、メリットは軽く、一瞬にして相手に攻撃を繰り出す事のできる小道具だ。これも、忍であり、以前この忍具を頻繁に使っていた名前だからこそだ。

 目の前の男にはもちろん刀で応答した。まず左に持つ刀を攘夷志士に刃先を向け投げると、その刀を弾こうと自分の持っていた刀で名前の刀を弾こうとした。逆にそれを逆手にとって、弾いた時にでる体の隙を突こうと考えたのだ。しかし攘夷志士は弾くことよりも防ぐ事を優先した。名前はそのまま左の刀が塞がれ地に落ちたのを見送り、右の刀を両手に持ち、攘夷志士の腹部目掛けて一閃した。




「また名前ちゃんに手柄取られちゃいましたねふくちょおおおおいって!!いってえ!ちょ、ま、いてええ!」
「土方さァん、ザキを虐めるのはそんな髪引っ張るのじゃ足りないでさァ。口と鼻に大量のマヨネーズを流し込んで…」
「まあこれも実力の内ってことで、わたしの副長昇格ってのも夢じゃないなあ。」

 そんな副長昇格なんて名前自身望んではいないことは隊内誰でもわかっている。沖田が山崎の鼻にマヨネーズを流し込んでいるさ中、名前はゴマ煎餅を頬張っていて、土方は山崎を虐め飽きたのか煙草を持って部屋を出た。


名前はつい先日、警察庁長官である松平片栗虎が副長補佐から局長補佐へ移行しないかと提案されたが、名前は「局長を補佐できるのは副長である土方十四郎だけであり、わたしは局長を助ける副長の補佐を精一杯する」と言って誘いに断った。こればかりには局長だけでなく副長も感動し、局長は泣くはめにもなった。
 父の仇であった攘夷志士と自分はもう何の関連性もなくなったことから一時期真選組を辞めようとしたが、なんせ真選組の汗臭さに慣れてしまったものだから他に行く理由もないだろうと真選組に残った。父との事も、真選組にはお世話になりっぱなしだからだ。

「おいテメェ名字!!報告書はきちんと書けって何回言わせるつもりだ!切腹だ!」
「え?おかしいなあ、今回はちゃんと期限内に出したしきちんと書いたつもりなんですけどぉ…」
「箇条書きをやめろっつってんだよやっぱり切腹だコラァ!!」
「へーんだ、鬼さんこちら〜手のなるほうへ〜」
「名字テメェエエ!」
「おっと、ひょいひょーい!」

 部屋を出て屋根に飛び乗る。土方は刀を片手に屋根の上にいる名字に罵声を浴びせたが、そこから動こうとしないだろうと悟ったのか部屋に戻って行った。名前は鼻歌を歌いながら屋根に寝転がって星空を見上げていると、いつの間にか丸くなって目を瞑っていて、そしてそのまま睡眠に入った。しかし忍であったというのは前のことだから、寝る時はもう細心の注意さえ払わなくなった。それでか、名前はゴロゴロと屋根を転がって行って地面に全身を強打し、入院となったのは言うまでもない。