神様の決め事 | ナノ


「今回の爆破テロは攘夷志士の犯行ですが、首謀者は攘夷志士ではないようです。王子の命を狙うというよりも、幕府に挑発でテロを起こしたみたいで…って局長聞いてます?」
「ん?ああ聞いてるぞ!バナナは焼くと甘くなっておいしくなる話だろ!?」
「ちげえよあんたちゃんと仕事しろよ!」
「近藤さん、俺ぁとりあえず名字の様子を見てくる。幸い怪我は浅い。大事には至ってないらしいからな。」
「頼んだぞトシ!」



 そうして医務室へやってきた副長は銀ちゃんの姿を見て、今にも唾を吐くような顔をした。今回のパレードへの爆破テロは攘夷浪士も関係あるらしい。首謀者は先程の三名といったところだろう。首の傷は浅く、なんの支障も起きない程度だった。
 煙草に火を付け、紫煙をまき散らした副長は、銀ちゃんと帰るか帰らないかで喧嘩をしている最中だ。三人の会話からして確信したのは、父さんが首謀者でなくとも、あの二人をまとめている、頭だ。一人忍がいたということは、父さんの部下だった人か、父さんが認めた忍としての能力を持っているということ。今のわたしじゃ当然敵いっこないだろう。カケル、時雨。この二人は、時雨が山中猛として捕まった時からわたしの尾行を開始していた。いや、もっと前からなのかもしれない。父さんはわたしの安否が気になっていた?娘として?それとも道具として?

「あの現場にいたのは俺と名前だ。名前にもしものことがあったとしたら俺がいなくて誰が側にいてやるんだ!」
「下心見え見えなんだよテメーは!こっちはこっちで処理するから心配いらねえよ、だから帰れ!地獄の果てまで帰れ!」
「処理ってなに?夜の性欲処理!?」
「殺すぞコラアアアア!!」

 あの二人が真選組に攻撃をしかけるとは思えない。好戦的ではあったが、大人数の真選組には手を出すことはおそらくない。あるとすれば、明日にあるパレードの最中にまた爆破テロが起きるか、それとも、わたしに攻撃をしかけてくるかの二択。探ることもできないだろう、狙われている身であまり大きな動きはできない。それに、あの忍には敵わない。父さんにも、敵わない。
 現在午後7時半。局長はとっつぁんと会うために真選組を出る。一番隊と五番隊は見回りをしている。

「名字、傷が痛むか?」

 副長が側の椅子に座り首に巻いている包帯を見る。首を横に振れば、ふっと微笑んだ副長が机の上にあった灰皿で煙草の火を消し、持ってきたカツ丼とマヨネーズを目の前に出す。

「もしかすると明日のパレードは中止になる。延期になるだろう。」
「副長、目の前で気持ち悪いクッキングをしないでください。吐き気がします。あと、銀ちゃんは万事屋に帰ったら?神楽ちゃん待ってるんじゃない?」
「…おめえはいいのかよ、またあんなことあるかもしんねーぞ」
「敵の陣地に堂々と乗り込むバカいると思う?」
「親父さん忍だったんだろ、考えられることなんじゃねえの」
「……副長もいるし、そろそろ総悟だって帰ってくる。なるべく一人にならないようにすれば大丈夫。父さんのことはわたしがよく知ってる」

 そう言うと銀ちゃんは髪の毛を乱暴に掻いて、かえりゃいいんだろ、と折れて立ち上がった。その姿に副長が笑うと、銀ちゃんはこめかみに筋を増やしていく。

「銀ちゃん…、あの、ありがとう」
「…あの薬、またくれよ。治りがはえーんだ」

 医務室から出ていく銀ちゃんの背中はやっぱり大きく見えた。正直なところ、言ったことに絶対的な確信はなかった。副長がわたしのことを見て、くちゃくちゃとマヨネーズの音を立てながらカツ丼を食べているので、髪の毛をむしってやった。
 銀ちゃんが帰って三十分、制服の上着をハンガーにかけて、いつもの格好になる。シャツを捲り、食堂へと足を運んだ。緊張感が一気に抜けたからなのか、お腹の空腹に気付き、隣でマヨネーズカツ丼を進める副長を無視してハンバーグ定食を頼んだ。
 「ご飯多めでね、おばちゃん」箸を取り、副長が待つ椅子へと足を運ぶと、食堂の出入り口からいつものやる気のないようなあるような総悟の声が聞こえた。

「おーい名前お客さんでさァ」
「え?お客さん?銀ちゃん?」
「いや?」

 銀ちゃんじゃない?

「わかった、今行く」

 副長にハンバーグ定食を受け取って待っててもらうことを約束して、出入り口まで走る。「今日はよくも俺を置き去りにしやがったな」「総悟熟睡してて声かけても起きなかったんだもん!」なぜ(一応)上司である副長には勝てるのに(一応)後輩の総悟に負けてしまうんだろう。ドエスは掴みにくい。
 「あいつあいつ。」総悟の指の先には、黒いマントを着た、よく見た人物が立っていた。

「今日のお礼をしたいってわざわざ真選組にまで足運んだらしいから一応あっとけよ。俺がテメーの晩飯を……、…名前?どうした?」
「…昼間はお世話になりました。どうもありがとうございます。お礼と言っちゃなんですが、ぜひこれを」

 近づいてくる黒いマントの男。
 やられた。もっと警戒しておくべきだった。わたしの判断ミスだ。わたしの力不足だ。
 刀は部屋に置いてある。クナイも弦もない。なにもない。逃げるしか術はない。

「どうぞ、真選組の方」

 黒いマントの男が出してきたのは煙玉だった。辺りに広がる白い煙が立ち込める。総悟がわたしの手を掴んでくれたが、黒いマントの男、父さんに首を掴まれ、口元に白い布が当てられそのまま視界は黒くなっていった。