神様の決め事 | ナノ


パレードが終わる頃に、路地裏から顔を覗かせた。
 テントに戻ってきて、一時間半ほど前と同じ席に座ると、先程とは別の係員の人がやってきた。「お茶をいれました」氷が入った麦茶を受け取り、静かにフィニッシュに向かうパレードの賑わいを眺めた。

 そして、わたしに気付いた隊士が近付いてきたので、わたしは声をかけようと顔を向けた瞬間だった。爆発音とともに、視界には黒煙が空を昇っていく。炎が踊る。隊士はいない。ざわつくギャラリーと、パレードの列は止まった。地面に落ちた麦茶の入ったコップは割れ、次々の爆発が起きる。

「爆破テロだ!」

 その言葉にハッとして腰に差してある刀の鍔に親指をかけた。奉行所、真選組が、慌てるな、騒ぐな、押さないでください、と必死に民衆に叫び続けるが、パニックに陥った民衆は聞く耳を持たず、今も恐怖の表情は消えなかった。
 テントの屋根に、何かが落ちてきた。人の足の形をしている。普通の人間や侍が、屋根の上に落ちてくるとは思えないし、爆発の衝撃で落ちたとしても、こんなに綺麗に着地できるはずがない、普通の人は。
 刀を鞘から抜き、屋根に向かって刀を突いた。しかしタイミングよくかわされ、1メートルほどのところでまた、なにかが着地した。腰を抜かしている係員さんに、避難をしてくれとお願いし、一旦外に出て、パイプに手をついて屋根の上に飛んだ。

「…お?」

 軽装で顔に包帯を巻いている男がわたしの方に振り向いた。両手には一回り大きな手裏剣が握られており、すぐに忍だと理解する。

「真選組副長補佐、名字名前だな」
「テロを起こしてるってことは…、攘夷浪士か何か?」
「攘夷浪士ではないが、まあそんなもんだ。…一発であんたを当てた俺は今日ついてるみたいだ。大人しくしててくれよ…?」

 男は手裏剣を構える。この男、強そうだ。病み上がりだからどこまで動けるかわからない。わたしを狙っているようだった。
 屋根から降りて、民衆の中に割り込み身を隠す。忍にこんなカモフラージュが通用するとは思っていないので、路地裏に入り、寝ている総悟に手助けしてもらおうと万事屋に向かおうと角を曲がった瞬間に背筋が凍るほどの殺気を感じた。

「おいおい逃げんなよ」

 頭上から聞こえてきた先程の男の声。顔を上げ、男を見る。表情は見えないが、声調からしてとても楽しんでいることだけはわかる。

「ちょっとは楽しもうぜ!」

 屋根を蹴り、両手に持っていた手裏剣を投げてきた。交差する手裏剣の速さは降りてくる男よりも早いのは当然のことだった。重さも大きさも、男の力もあるからなのか、瞬きを二度三度するだけで落下してくる手裏剣。反応が少し遅れたが、辛うじて片方の手裏剣を刀で弾きながら転がり避けると、男からは楽しそうで引き攣った笑い声が発せられる。

「やっぱり今日はついてる。久々に骨のある奴と戦えそうだ…。……いや待てよ?ここでボロボロにしちゃって連れていくのも悪かねーな。あの人は生かして連れてくればなにしてもいいって言ってたしな…。」
「最悪。わたし今日の星座占い12位だったんだよね…」
「俺は1位だ!やっぱり俺はついてる!」

 地面に突き刺さった手裏剣を引き抜き、男はこちらへ向かって飛んだ。右の刀を鞘に戻し、スライディングをして地面に転がっているもう片方の手裏剣を掴み男に投げる。それをまた弾じかれた手裏剣は宙に飛んだ。
 ――かかった!
 手裏剣を掴んで投げるまでに弦を絡ませておいた。あとはもう思いのままに操ることができる。弦を引き、宙に浮いた手裏剣は回転を起こして男の頭めがけて落下していく。弦の存在に気付いた男は落下していく手裏剣と同時に手裏剣を投げた。弦が切れるのがわかり、鞘に収めていた刀を抜く。手裏剣が頭上を声、どこかの木に刺さる音がした。
 土煙がおさまり、男が姿を見せる。

「なかなか攻撃があたんねーんだもんよ、こんな面白いゲームは久々だ。」
「わたしは久々に忍と戦ってるから感覚が掴めないよ。普段は攘夷浪士を相手にしてるから」
「なるほど、確かにお前の戦い方は忍の戦い方じゃねえ。侍の戦い方だな。」

 突き刺さった手裏剣を抜く男はクスクスと肩を揺らして笑ったあと、静かに行動を停止し、殺気の満ちた目でこちらを睨む。

「忍の戦い方を忘れたお前が、俺の速さについてこれるはずがない。元々戦闘向きでないお前が俺なんかを殺せるはずがないさ。んたって俺はプロの殺人者なんだ。それに今日は、ついてるからな」

 やばい。
 こいつは本物の殺人者だ。
 人の殺し方を知っている殺人者だ。闇の、殺人者だ。

「あんまり抵抗しないほうがいいぜ。抵抗すればするほど、死に近づく。」

 手裏剣は投げられなかった。だが、名の通り、剣として扱われた。
 刀を交差させ壁を作り、押してくる手裏剣を防ぐ。男のもう片方の手にはクナイが握られていた。「さあ、あの人が待ってる!」クナイを持つてが振られた。両手が塞がっていてガードすることができない。終わった、と思った次の瞬間、クナイが地面に金属音を響かせながら叩きつけられた。

「物騒なもんしまえよ、包帯あんちゃん」

 揺れるのは天然パーマの銀髪。木刀を肩に担いだのは銀色の侍だ。