神様の決め事 | ナノ


 やっぱり雨よりも晴れていたほうが断然いい。いつもの公園に神楽ちゃんがいなかったから、きっと万事屋にいるんだろうと思ってスナックお登勢に顔を覗かせた。「あら、名前じゃないか」「こんにちは!」煙草を吸っているお登勢さんの向かいに座り、お冷くださいと頼む。コップに水を注がれている中、スナックお登勢の引き戸が動く。音からしててっきり銀ちゃんかと思っていたから、背を向けたまま挨拶をするが、返事はない。

「まだ開店時間じゃないんだけど何の用だい?」

 お冷が目の前に出された。それじゃあ銀ちゃんじゃないってことか。
 少し恥ずかしい思いをしながら後ろを向く。そこには両目を包帯で隠し、黒いマントで全身を覆っている人が立っていた。男か女かもわからない。返事がない。喋れないのだろうか。
 沈黙が流れ、黒いマントの人は引き戸を閉めた。黒いマントの人がいなくなっても、お登勢さんとわたしの間では沈黙が流れたままだった。「アンタその格好だからチクられるんじゃないのかい」「まさかあ」お登勢が冗談を言ってくれて、やっと沈黙から解放された。この沈黙はわたしのせいでも、お登勢さんのせいでもない。黒いマントの人の雰囲気から生まれたものだった。

「銀ちゃん元気にしてる?」
「直接訊きにいきゃいいだろう」
「まあそうなんだけど…後で行くつもりなんだけどね」
「この前外で聞こえてきたんだけど、名前からもらった塗り薬が効いたぜ、とか言ってたよ。」
「あ、本当?」
「もうピンピンしてんだろうね。」

 目を覚ました次の日、山崎にわたしが調合した塗り薬を銀ちゃんに持っていってほしいと頼んだのだ。父親に仕込まれた薬、毒の調合は父親よりも腕が良いと胸を張れる。お前は俺よりも調合がうまい、と言われたほどだ。
 コロン、と氷と氷がぶつかる音がした。そして携帯が揺れる。「うわっ」「どうしたんだい?」わたしが出るまで携帯を鳴らすつもりらしい。「電話かかってるじゃないか」副長だ。なぜわたしがサボっていることがバレた。もしかして、本当にあの黒いマント…

「よォ、なんとなく読みは当たってたみたいだなァ名字」
「ふおおおお!副長ううう!いやあの、ちょっと喉が渇きましてね…!一休み〜みたいな?」
「みたいな?じゃねえだろ!総悟みたいに休みやがって…!行くぞ!」
「ぐえっ!えっ襟つかまっ…お登勢さんばだべっごぢぞうざばっ」
「ほどほどにしときなよ、名前」




「……ぎ、銀さ〜ん。お客さんです〜」
「あ〜まじでか。通せ。………あ、どうも〜…」

 なんだコイツは。両目を包帯で隠した、短髪の、黒いマントを全身に覆った人間が新八に案内されるがままにソファーに座る。煎餅で申し訳ありませんねえ〜。と、声をかけてみたが、返事はなし。喋れないか?と思っていたら、黒いマントはポケットから一枚の写真を取り出してきた。

「ここは金を払えばなんでもしてくれる、と聞いたんだが。本当かな?」
「……まあ、」

 この黒いマントは男、それも声からして、若くはない。口元の皺が深くなり、嬉しそうに笑った。「内容に応じた額を出せば、なんでもしてくれると」「ただし人殺しは勘弁してくださいね。僕はもう捕まるのはごめんなんで。」「安心しろ、人探しだ。」「ほお、あんたの奥さんかなんかか?それとも娘さんか孫さんかなんか?」この男から感じる気は、なんとなくじゃなく、確実なものだった。
――こいつはやべえ
 おれらの手を借りなくともいいだろう。見てわかる。

「こいつを、四日以内に見つけてほしい。四日後、私はまたここにくる。それまでには必ず頼むぞ、万事屋。」

 こいつ?

「………!」

 名前、




「んあっ…背中いたっ…」
「痛めたか?」
「背中打った覚えも怪我した覚えもないんだけどなあ…湿布でも貼りゃ治るかな…あ〜いたいた。土方が死んでくれたら治るのにな〜」
「お前は俺を殺してそんなに楽しいか?嬉しいか?」
「わたしがその気になれば闇に紛れて土方殺せるんだけどな〜〜あ〜お団子が食べたいな〜」
「チッ!一本だけだぞ」
「話しがわかるいい男だつちかた!さあ甘味処へ行こう!」