「はァァ?今なんて言ったの銀さん聞こえなかった」 「だから駆け落ちしようって言ったの。」 「……え?なん、え?」 「か・け・お・ち・し・よ・う!」 真選組の制服でこんなこと言うのが不思議なのだろう。銀ちゃんはいちご牛乳を注いだコップを落とし口をあんぐりと開けている。先日、大事な書類を総悟に焼かれてしまい、真選組隊士全員を巻き込んだ大騒動が起きた。わたしは総悟のせいだと抗議するも、副長はわたしの嘆きなんぞ関係ねえというように、もう一回書け、と瞳孔の開いた目で見下ろしてきた。てめっ、あの書類を、始末書を、何時間かけて書いたかお前わかってんのか。何枚あったかわかってんのか、あんたの処理できなかったもんもわたしがやって、わたしが、ぐあああああ!!、という風な感じだ。「どんな感じ?!」 「そんなしょーもねー理由で駆け落ちなんてできるわけねェだろうが。つか駆け落ちの意味しってる?」 「銀ちゃんだってもし家賃払ったのに『燃やしちまったからもう一回払え』なんて言われたら駆け落ちしたくもなるでしょ!?」 「ふざけんじゃねーお前らの騒動に銀さんを巻きこまないでください!!」 「いいじゃん!いつも刺激のない毎日過ごしてんだからこういう刺激のあることしても!思い出になるよ!」 「ふっざけんじゃねーって言ってんだろうがァァァこんな悪い思い出作りたくねー」 「じゃあ好きって言ったら駆け落ちしてくれんの!?」 「しねーよ!?」 くそ、銀ちゃんはダメだったか。しかし移動手段を持ち合わせていてわたしの知り合い、なんてどう探っても銀ちゃんしかいない。どうすれば一緒に逃げてくれるのだろうか。「どうせ真選組に戻ることになるんだから逃げ回らなくたっていいんじゃねーの」「副長と総悟をぎゃふんを言わせたい。」そうかいそうかいと返事した銀ちゃんは立ち上がり、もしかしてと目を輝かせたが冷蔵庫にいちご牛乳を取りにいっただけだった。 「子ども、って思ってるでしょ。」 「思ってるって、お前はどう見ても子どもでしょーが。」 「子どもじゃないもん!」 「そういうのを子どもっていうんですぅ。ムキになるところがもうすでに子どもなんですぅ。」 いちご牛乳を飲み干した銀ちゃんは向かいのソファに寝転がった。わたしのお願いは聞いてはくれないようだ。目を瞑りながら机の上にあるジャンプを手探りで探っている。わたしは確かに子どもだけど。子どもだけど。 わたしは立ち上がり、ふらふらとしている銀ちゃんの手を握った。「…あ?」そのまま銀ちゃんの上に跨る。 「…………あ?」 「そうやってわたしを子ども扱いしてると…」 「……………あ?」 「銀ちゃーん私お腹空いたからたまごかけごはんを…」 「銀さーん、また家賃滞納して…」 「こうなっちゃうぞおお!」 ズゴォン、という音を立てながら銀ちゃんは白目を向いた。わたしの拳の下には銀ちゃんの萎れた息子さんがある。 「銀さァァァァん!!」 「銀ちゃんの大事な息子がァァァ!!」 「ふん!どーよわたしの鉄拳。子ども子どもってバカにするからいけないんだゾ。あれ新八に神楽ちゃんじゃーん、よっす!」 「よっす!じゃねェよ!銀さんになにしたんスかあんた!」 「ちょっと銀ちゃんのマグナムを粛清してやっただ……ゲェェェなんで副長がいんのォォォォ!!」 「あ、さっきすれ違って名前さんを探してたんで…もしかしたらって…」 ぽろりと煙草を落とした副長と見つめ合い、副長は俯いた。やばい、怒られる、つうか殺される切腹されると青筋を立て言い訳を考えていると、「万事屋ぁぁぁぁ!」と叫びながら刀を抜いた副長はわたしと銀ちゃんの繋がれている手を斬りにかかった。「ギャアアア!!」銀ちゃんと声をハモらせ向かいのソファに飛びつく。 「てめえら切腹だァァ!」「おいマヨラー!なに勘違いしてっ」「ひぃぃぃごめんなさいごめんなさい許してください書類書くから切腹だけは勘弁してくださいいいい!」「ゆるさねェェ!!」 「…たまごかけご飯作ろうか。」 「ウン」 |