神様の決め事 | ナノ


「ありがとう銀ちゃん。」
「つうかなにコレ、え、もしかして名前こんな趣味」
「違う違う!総悟ドSだから、ドSから連想させるものが、これだったので、これを…ですね。」
「ああ、なるほどな。銀さんビックリしちゃったよォ〜」

 総悟はポケットから400円、神楽ちゃんは新八から400円を奪い射的をし始めた。本当に仲がいいんだなあと二人の光景を見つめていると、明太子の存在に気付いた銀ちゃんは、いいな〜いいな〜と明太子に向かって発す。明太子の箱を銀ちゃんの前に差し出し、「どーぞ」と渡すと、「かー!」とワザとらしく腕で目の辺りに持ってきて泣く真似をする。新八はなにやってんスか銀さん、とこちらも涙目で銀ちゃんと同じ格好をする。きっと久々の高級食材に涙が出てしまうほど感動しているんだろう。

「総悟ー金魚すくいしたいんだけ…ど。」

 ずきずきずきずき。右腕の痛みが激しくなってきた。気持ち悪くもなってきた。これってもうしかして骨、骨折でもしてるんじゃないだろうか。ひびが入ってる可能性もある。気持ちも沈んできた。せっかくのお祭りなのに、こんなことって、本当に、わたしは運が悪すぎだ。

「チッ、チャイナ娘。覚えとけよ…次は絶対に勝つ」
「ペッ、それはこっちの台詞アル。怖くなって漏らしながら勝負挑んでくんじゃねーぞ」
「おーい名前、銀ちゃんが一緒に回ってやってもいいんだぞー」
「旦那、さり気に何誘ってるんでィ。おい名前行くぞ」
「ちょっ…あんたがわたしを…まあいいけど…。」

 今度は左腕をしっかりと掴まれ、銀ちゃん達から遠ざかっていく。手を振ると、神楽ちゃん、新八、銀ちゃんの順に手を振り返してくれた。やっと金魚すくいだ、と目の前に近づいてくる金魚すくいが、遠のいていった。「えっ」振り返ると人のよさそうなおじさんが子ども相手に笑ってコツを教えている。「ちょっと総悟」ピタリと止まった総悟は口を噤んでいた。

「腕」
「……腕がなに?」
「病院、行ったか訊いてるんですがねィ。」
「わかんねーよ。行ったけど消毒しただけ。多分ひびか骨折してる。でも、行ってると約束の時間すぎちゃうからいかなかっただけだよ。また明日行くよ。それより金魚すくいしたいんだけど。」

 じっとりとした目で見つめられ、腕を離された。実を言うと、結構やばいところまできている。気持ち悪いし、腕は痛い。今すぐにでも病院に行ってレントゲンを撮って安静にしていたいのが本音だった。けどそれよりも大事なお祭りなのだ、最後まで楽しみたい。でもこの痛さに耐えながらお祭りを100%楽しむ自信は、正直ない。

「震えてるように見えるのは俺だけですかねィ。射的の時も震えていたようで」
「大丈夫だってば!」

 声を張り上げてしまった。わたしはハッとして口を閉じ、総悟を見上げると、仕方のないように総悟は口を閉じる。「ご、ごめん。」「じゃ、行きまさァ」「…うん、いこいこ!」「病院に」「…え」今度は腕ではなく髪を引っ張られた。「いだだだだ」「うるせーゴリラ女」髪を引っ張られる手を必死に退けると、次は優しく右手を握られた。コロコロと変わるなコイツと思いながらも手を握り返す。

「心配かけさせるんじゃねーや。」



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 やっぱりひびが入っていた。昨日のヤブ医者にはボディーブローをお見舞いしてやったので、清々しているが。絶対安静と言われた右利きのわたしは黙って副長に頼まれた書類を持って局長の部屋に向かっていた。副長の字は綺麗だった。文章もうまい。わたしと副長の差はこれか。わたしが書いた書類は必ず副長に確認させられてしまい、結構な数を訂正させられている。

「きょーくちょー」
「ん!なんだ名前か!入れ入れ!」
「失礼します。」

 一応正座をして襖を開ける。するとそこにはギャルゲーをしている局長の姿があった。「これ、副長に頼まれた書類です。…局長。わたしが言うのも難ですが、仕事してください。」この人勤務中になにしてんだ…。
 「あ、そうだ名前。」「はい。」「とっつぁんがお前に頼みたいことがあるって言ってたんだが…その腕じゃできそうにないなあ。」「あ、とっつぁんにはわたしが言っておくので局長は何もなさらずに。」「そうか?」「はい、それでは失礼しました。」立ち上がってとっつぁんに電話をかけたが、とっつぁんは外出中らしかった。受話器を置いて、気晴らしに出掛けようと外に出ると、着流しを着た総悟とバッタリ会ってしまった。絶対安静、と医者の言葉が耳に入ってくるようだ。

「……絶対安静。」
「さ、散歩だよ散歩!あ、総悟そろそろ巡回の時間じゃない!?じゃあわたしはこれで!さーらばー!」
「あっ、オイ」

 走って屯所を抜け、宛てもなく江戸の町を歩く。右腕の痛みは消えたがいつまた痛みだすかわからない。やっぱり屯所にいた方がよかったかな、と息を吐いて本屋にでも寄ろうと目の前の本屋に足を運ぶと、後ろから肩を叩かれる。

「最近よく会うじゃねーか。運命じゃね?」

 あ、銀ちゃんだ。

「腕、なんか昨日より悪化してね?」
「銀ちゃん達と別れたあと転んじゃってさー、骨にひびはいっちゃたんだ」
「笑いごとじゃねーよ!?っとにあぶなっかしいなお前は」
「でも大丈夫、全治二週間だから!まあその間はホントに何もできないんだけど…久々にのんびりできそうだし。みんなには悪いけどさ。」
「いやお前はよくやってるよ、ホント。」
「ねえ、万事屋行ってもいい?」
「あ?なんも出せねーけど。」
「んなのいつものことじゃん。」

 なんだよー、いつものことってよー。とぶつぶつと隣で文句を言う銀ちゃん。少し本屋を見てすぐに視線を戻した。ふ、と視線を感じた。振り返るが、わたしを見ている人もいない、視線も感じない。誰だろうか。再び前を見ると、一瞬、笠を被った、二度会った隻眼に似た男を見た気がした。しかし気がしただけで、そんな男はどこにもいない。

「おい名前ちゃん、聞いてますかー」
「!あっなに!ごめん、聞いてなかった!」
「おま……」