風に吹かれて(沖田)
男装をしているのだ。わたしは顔が良いわけでもないし、男に見えるわけでもない、だから髪を切って少しでも男に見えるようにどうにかしようと思っていたのにそれを沖田が止めた。気に食わない輩を見つめるように、小太刀を持つわたしを睨んだ。無性に泣きたくなった。今まで女として生きた気ではいるけれど、こうして刀を持って鍛錬に励んできたのは千鶴を護るためだった。わたしの独りよがりだとしても、わたしは、力なの無い千鶴を護りたかった。
女鬼であり、腕は人一倍にある。それに傷の治りだって早いから、剣術を体に染み込ませる事になんの躊躇も戸惑いもなかった。むしろ、千鶴の身を護れるならそれでよかった。
けれども、わたしは、男の力には勝てないし、沖田や斎藤、藤堂、永倉、土方に剣術では叶わなかった。今まで何をしてきたのだろうか。わたしはここで何をしているのだろう。千鶴を護れないのに、生きている意味などない。わたしは千鶴がいてくれるから生きていけるのに。千鶴が手を伸ばしてくれたからわたしはここまで生きてこれたのに。
「名前ちゃん?」
「……何だ、沖田か」
「何だって、それはちょっとひどいんじゃないの。 どうしたの?どこか痛いところでもあるの?」
「ない。別に、ただちょっと、眩暈がしただけだ」
「ふうん。昨日夜の巡察だったみたいだね。睡眠はきちんと取らないとね」
「あんたの睡眠時間を少し分けてもらいたいところだよ。……まったく、わたしは別に隊士でないのに……。あ、千鶴!」
雑巾を持っている千鶴に手を振った。千鶴もわたしの姿に気付いて手を振って、わたしの隣にいる沖田を見て一礼をする。千鶴の方へ駆け寄ろうとしたが、沖田に手首を掴まれてこれ以上近付くことができなかった。
「なんだよ」
「最近山崎君と仲が良いみたいじゃない」
「……?当たり前だろ、わたしは表向きでは松本先生の付き人なんだ。他の隊士達より話す機会が多いに決まってるじゃないか」
「山崎『君』?」
「な、なに、沖田、一体何が気に食わないの?」
「…………別に」
沖田は時に、よくわからない言動をとる時がある。気に食わないのなら、掴んでいる手首を離せばいいのに。
「もう、離してくれるかな」この後千鶴と一緒に落ち葉でも掃こうと思っていたのだ。
「……名前ちゃんってさ、すっごく天然だよね」
「はあ?意味がわからない……沖田こそ睡眠取らないと、あっでもいつも寝てるけど」
「そんなに寝てないと思うけどな。……まぁ、いいや 後で石田散薬、部屋に届けに来てよ」
「山崎君に頼めばいいと思うけど」
「………ふんっ」
「は!?ちょ、沖田、なに、一体なんだよー!」
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