いつでもきみを想っている | ナノ


01:晴れた日に 02:手 03:風の吹く場所 04:白い花 05:綺麗なもの 06:笑顔 07:手を繋いで 08:うた 09:おひるごはん 10:海 11:同じ空の下 12:安らぐ場所 13:心音 14:手紙 15:風に吹かれて 16:夕焼け 17:昼間の森 18:親友 19:昼寝 20:おやすみ



























晴れた日に(沖田)

「洗濯日和で助かったなー」

 休日の部活の前には必ず洗濯物を干すという習慣が身についてしまった。一年前まではのんびりやっていたけれど今は部活があるのでそうはいかない。急いで干して、部活の用意を済ませたら、朝食を食べて、鍵を持って、家に出る。かれこれコレを何回続けているのだろうか。

「おはよー名前ちゃん」
「あれ?おはよー……」

 道路には制服姿の総司がいる。
「なんでいるの?」
「お迎えにあがりました」
 まだ家を出る時間ではないのだけれど、玄関を指差して手に持っていた洗濯物を置いて階段を下りて沖田を迎い入れる。

「一緒に行こうと思って」

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手(沖田・藤堂・斎藤)

「沖田の手っておっきいよなぁ……おサルみたい 指長いし」
「竹刀握ってると自然とこうなるよ」
「柔らかくないし」
「肉刺だらけでごめんね」
「細いし」
「名前ちゃんのは……ぷっ…やわいよね?」
「………フンッ」
「んがっ!」

「あーあ、また喧嘩始まったよ……どうする?一君」
「放っておけ 時期治まる」

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風の吹く場所(藤堂)

「汗掻いて涼しい風に煽られる〜この隙間風が堪らない〜」
 体育館の隙間風、平助と寝そべって隙間風を浴びる。
「この時の為に部活をしていると言っても過言ではない」
「おいおいそんなこと言ってると土方先生に怒られるぜ?………っておいいいいい!胸元、開けるなよ!」
「あぁ?何だよ今更だろ…」

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白い花(土方)

「……情けないと思うよ。わたしが女であるばかりに、誰かはわたしを護って、誰かはわたしに逃げるようにいった。情けなくて、どうしようもない。わたしが女で、弱いから、なのかなぁ…… どうしたら、目の前の人を護れるくらいに、敵と立ち向かうくらいに強くなれるのかなぁ」
「強さに飢える獣は、我を失う。お前もいつかそうなるのかもしれねぇな」
「それでもいいんです……わたしは、わたしを護ってくれる人が、大事だから……、千鶴を護れるくらいに強くなりたい……」

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綺麗なもの(沖田)

「それなんだ?」
「これはこんぺいとう 甘いんだ 名前ちゃんの口に合うかはわからないけど食べてみる?」
「菓子?」
「そう」
「……ん」
「………は?」
「ん」
「え?なんだよ え?」
「……もう」
「えっ?んっ……!」

「………あんなの見せつけられちゃあなぁ」
「名前のために大福買ってきたのにあんなの見せつけられちゃあなぁ やってられないぜ」
「飲みに行くか」
「そうすっか」

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笑顔(沖田)

 名前ちゃんの笑顔って可愛いよね。

「………沖田、ちょっと今何企んでる?」
「え?僕が何か企んでる顔に見えるの?大丈夫?眼科いったら?」
「…………土方先生、相手変えてください!身の危険を感じます」
「ちょっと勝手な事言わないでくれる?えいっ」
「ッ!てめー沖田死ね!」
「ぐあっ!」
「あはは!どうだ参ったか沖田!かれこれ半年も一緒にいればお前が考えてる事なんてすぐに解るんだよ!」

 まさか僕の突きを避けて鳩尾に一発決めるとは、さすが名前ちゃん……。うまく襟に竹刀の先を滑り込ませてそのまま突いて転ばせようと思ったのに……。

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手を繋いで(山崎)

「……山崎君、一体どうしたんだ?」
「…名前君か…。いや、なんでもない」
「……山崎君、腕に怪我をしているよ?」

 いや、わかっている。腕に触れる名前君を見下ろして、ふいに現れる女の顔に胸が躍った。心臓が胸を打つ。その肩を押して拒もうとも、その肩に触れることができない。
「一緒に先生に見せに行こう」名前君が顔を上げた。目が合い、彼女は微笑む。「なんだ、怖いのか?」馬鹿にしたような笑みを浮かべた名前君に手を繋がれたまま、薄暗い小屋を出た。

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うた(土方)

「土方先生ってさぁー」
「馬鹿にしに来たんなら帰れ」
「まだ何も言ってないじゃんか!」
「お前の考える事は大体わかんだよ……一年間クラス担任したのは誰だと思ってる」
「土方先生でぇ〜す。それでは、要件を申し上げます。先生!今隠したモノはなんですか!」
「………帰れよ」

 知っているのだ、土方先生が今何をしていたのかを。一年間誰のクラスにいたと思っている。先生の字が可愛いことも、少々ロマンチックな部分があるところも全て理解している。そう……そのメモ帳には土方先生の
俳句が綴られているのだ……!

「帰りません!見せてくれるまで!写メを撮るまで絶対帰りません!」
「あー…わかった。お前の策略も思惑もすべてわかった。尚更見せてやるか」
「いいじゃないですかぁ〜減るもんじゃないですぅ〜」
「減る減らないの問題じゃねぇよ……。ったく、くだらねーことしやがって」

 グッと土方先生の腕にしがみ付いた。驚いた先生は目をこれでもかというくらいに開けてわたしを見上げている。しかし、ハッとした先生はわたしの額にデコピンをして腕を振りほどく。その時、隙が生まれた。
「ゲットォオオ!!」「しまっ……!」「沖田ァァアア!ゲットしたよおおお!」「名前ちゃん走って走って!追いつかれちゃうよ!」「てめえらああああ!」

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おひるごはん(沖田)

 お昼ご飯くらいは一人で食べたいんだよね、半年前の沖田の言葉だ。それから毎日わたしと沖田は一緒に屋上でお昼ご飯を食べている。沖田は大学生の姉がお弁当を作ってくれている、といって中身を見せてきた。こういう時、男の子なんだなあと感じる。少し可愛らしく仕上がっているお弁当を、ほんの少しだけ恥ずかしいと思っているのだろう。わたしなんてほとんど冷食だ。
 前までは部活の皆と食べることはあったけれど、それはもうほとんどない。学食で食べていたけれど、それもない。その代わり、沖田と居る時間は増えた。

「ねぇ名前ちゃん、今度僕にお弁当作って来てよ」
「はぁーーなんで」
「彼女の特権だと思わない?彼氏にお弁当作るって……ね?」
「思わないなー」
「おもわ、ないんだ……」
「……ちょっとそんなあからさまに落ち込まなくてもいいじゃん……」

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海(原田)

 部活の合宿、助っ人として原田先生と永倉先生も同席。バスの中はドンチャン騒ぎ、盛り上がる伝言ゲーム、カラオケ、ビンゴ、爆弾ゲーム、罰ゲーム……。原田先生と永倉先生はとても仲の良いと評判で、バスレクも二人が考えてきたものだった。しかも女子には優遇。爆弾ゲームも通常は5秒までしか持ってはいけないのに、女子は10秒まで可能。ビンゴゲームはビンゴになりやすいような台紙を作って来てくれていた。というか隣に千鶴ちゃんがいるからというのが大きいが。
 合宿先についてまず、マネージャーの千鶴ちゃんは原田先生と土方先生と一緒砂浜の具合を確かめにいった。体操服に着替えたわたしはタオルを持って玄関で皆が来るのを待っていた。なかなか男子共は集合場所に集まらない。
「名前、まだ男子の方は来ないのか?」
 顔を上げれば原田先生がいる。頷けば、ハァと溜息を吐いて、親指で海を指差した先生は「こいよ」と背を向けた。その後ろ姿を追う。

「わぁ…海すごい……。けどくさい」
「プールも独特なにおいがするが海は殊更にひどいよな。俺もあまり好きじゃねぇなあこのニオイ」
「でも海、すっごく冷たいよ 先生も入ったら」
「お前見てるのでお腹いっぱいだって」
「実際入るのと入らないのとじゃ違うってば。ねー先生もはいれよー」
「ったく……仕方ねぇな」

 サンダルを脱いでジャージの裾を上げた先生はわたしの隣に立った。
「ね?冷たくて気持ちいでしょ?」
「ああ、そうだな」

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綺麗なもの(沖田)

 唯一変わらないものは空だ。時代が変わっても、人や建物や食べ物や服装や地形や空気や温度が変わっても、ずっと同じでいるのは空だ。何があっても、どんなことがあっても、空は空でいてくれる。
 わたしの性格が変わったとしても、口調が変わっても、体型が変わっても、剣道の腕が上達しても、そこにある空だけが空で、繋がっている。
 昔と今を繋いでくれている。
 きっとこの空が無ければ、彼と共にいることができなかったのだろうから。

「名前ちゃん、行くよ。何してるの バードウォッチング?」
「ちがうっつの」

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安らぐ場所(沖田)

 最近映画鑑賞が趣味ですなんてキミにはまったく似合わないけれど、それもそれで可愛い一面だから口に手を置いてこれ以上のツッコミはしないように心がけた。それに今彼女が見ている映画は子どもの頃のアニメ、何年も放送されているアニメの映画だ。第一作目。涙無しには見られないだなんて言って物語の中盤でもう涙ぐみ「思い出し泣きしちゃうそう」と声を震わせている。
 俺は少しずつ距離を狭めていって、ピッタリと名前ちゃんの隣にくっついた。
「ううっ……!ミュウツー…!」ポロポロポロポロ。名前ちゃんが目を押さえて僕の肩に顔を押し付けた。役得。役得なので、彼女を抱きしめる。

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心音(沖田)

 千鶴の父上殿にお聞きした話だが、学を十分に修めていないわたしは心の臓が動いているから人は生きていられるというのを知らずにそれまで生きてきていた。それを聴いた時は驚いて、左胸に手を置いて、心臓の動きを確かめようとしたのだが乳房があってそれは叶わなかった。同時に、心の臓が突かれると死んでしまうことも、わかってしまった。少し怖くなって、遠くにいる千鶴を見つめ、目を伏せた。

 普段は心の臓が動いている感覚も振動もないのに、沖田に抱き留められている時や抱き締められている時、沖田と抱きしめ合っている時は、それを感じる。
 ドクドクと、わたしの心臓が、鳴っている。

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手紙(斎藤・藤堂)

「一君と名前さぁ、最近何やってんの?」
「手紙。ねっ」
「あぁ」
「授業中ヒマだから斎藤に構ってもらってます」
「授業真面目に受けろよなー……って俺もだけど。にしても一君がなァー……」
「斎藤はマメに手紙してくれるもんね 古文の時はしてくれないけどさ」
「へえー……」
「明日のMステ楽しみだね」
「……そうだな」
「じゃあわたし購買言ってくるから遅れたら先生に言っといてねー!」
「おー………。一君、Mステとかみるタイプだっけ?」
「…………」
「一君ってさー……その、なんていうか、……努力家だよな」

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風に吹かれて(沖田)

 男装をしているのだ。わたしは顔が良いわけでもないし、男に見えるわけでもない、だから髪を切って少しでも男に見えるようにどうにかしようと思っていたのにそれを沖田が止めた。気に食わない輩を見つめるように、小太刀を持つわたしを睨んだ。無性に泣きたくなった。今まで女として生きた気ではいるけれど、こうして刀を持って鍛錬に励んできたのは千鶴を護るためだった。わたしの独りよがりだとしても、わたしは、力なの無い千鶴を護りたかった。
 女鬼であり、腕は人一倍にある。それに傷の治りだって早いから、剣術を体に染み込ませる事になんの躊躇も戸惑いもなかった。むしろ、千鶴の身を護れるならそれでよかった。
 けれども、わたしは、男の力には勝てないし、沖田や斎藤、藤堂、永倉、土方に剣術では叶わなかった。今まで何をしてきたのだろうか。わたしはここで何をしているのだろう。千鶴を護れないのに、生きている意味などない。わたしは千鶴がいてくれるから生きていけるのに。千鶴が手を伸ばしてくれたからわたしはここまで生きてこれたのに。

「名前ちゃん?」
「……何だ、沖田か」
「何だって、それはちょっとひどいんじゃないの。 どうしたの?どこか痛いところでもあるの?」
「ない。別に、ただちょっと、眩暈がしただけだ」
「ふうん。昨日夜の巡察だったみたいだね。睡眠はきちんと取らないとね」
「あんたの睡眠時間を少し分けてもらいたいところだよ。……まったく、わたしは別に隊士でないのに……。あ、千鶴!」

 雑巾を持っている千鶴に手を振った。千鶴もわたしの姿に気付いて手を振って、わたしの隣にいる沖田を見て一礼をする。千鶴の方へ駆け寄ろうとしたが、沖田に手首を掴まれてこれ以上近付くことができなかった。

「なんだよ」
「最近山崎君と仲が良いみたいじゃない」
「……?当たり前だろ、わたしは表向きでは松本先生の付き人なんだ。他の隊士達より話す機会が多いに決まってるじゃないか」
「山崎『君』?」
「な、なに、沖田、一体何が気に食わないの?」
「…………別に」

 沖田は時に、よくわからない言動をとる時がある。気に食わないのなら、掴んでいる手首を離せばいいのに。
「もう、離してくれるかな」この後千鶴と一緒に落ち葉でも掃こうと思っていたのだ。
「……名前ちゃんってさ、すっごく天然だよね」
「はあ?意味がわからない……沖田こそ睡眠取らないと、あっでもいつも寝てるけど」
「そんなに寝てないと思うけどな。……まぁ、いいや 後で石田散薬、部屋に届けに来てよ」
「山崎君に頼めばいいと思うけど」
「………ふんっ」
「は!?ちょ、沖田、なに、一体なんだよー!」

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夕焼け(沖田)

 秋の夕焼けが一番好きだ。部活が終わる頃に丁度、橙色が名前ちゃんを映えさせる。疲れた表情の名前ちゃんに先程寄ったコンビニで買った飴を差し出せば、礼も言わずに受け取って、飴を口に入れた時点でありがとうと言う。昔も、今も、そこは変わらない。
 秋になればすぐに陽が落ちてしまうから、と言って名前ちゃんと一緒にいる時間を少しでも長くして、何もないままに家まで送る。

「コレ甘いね」

 舌で飴玉を転がして、目線を夕焼け空に向ける名前ちゃんの肩を掴んだ。本当?よかった、じゃあ僕も。正面に回り両肩を持って、驚く彼女の顎を掴み親指で少し押せば、簡単に口は開いてしまう。唇を合わせて、舌を入れる。

「こんなに甘いなんて知らなかったな」

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昼間の森(山崎)

 女ですばしっこくて小回りも利くし器用であるから、と監察の仕事をしてみないかと土方に提案されたので要は試しであると山崎君と一緒に森を駆けまわっていた。
本来なら土方の前では「土方さん」と呼んでいるが、先程山崎君の前で思わず「土方」と言ってしまって口論となり、今は休戦状態だが睨み合いが続いている。彼は土方の事を尊敬しているし当然の反応なのだろうけれど、「あなたがそんなに裏表がある人だとは」などと言われたらわたしも怒るに決まっている。
「止まって」山崎君わたしの進行を阻むように腕を上げた。
「浪士か?」
「周囲を警戒しているな……。名前君、一足先に屯所へ戻って報告をしてくれないか」
「…いえしかし、向こうにも、あそこにも浪士達がいる」
「なら逃げ道は俺が確保する。きみの足なら一刻、いや半刻もしないで屯所に着くはずだ」
「山崎君はどうする?」
「……きみより、この状況を打破できるのは俺だと思うが」
「………こういうのは夜間に行ってほしいものだね」
「讃する」

 重い袴ではなく軽装だった為、すぐに新撰組の屯所に着いた。事を土方に話し、すぐに隊士達を手配する。この間山崎君は何をしているのだろう、と門前で、柱に凭れながら彼を待っていた。


―――……

「怪我をして帰ってくるとは……」
「……面目ない」

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親友(千鶴・藤堂・沖田)

「千鶴と名前ってさぁーどういう関係なんだよ」
「え?名前ちゃんと?………とも、だち」
「ち、千鶴なんで今一瞬考えたのっ……!?わたしももちろん友だちだって思ってる!」
「へぇ……それはどうなんだろうね?千鶴ちゃんは優しいから名前ちゃんに合わせてくれてるのかもよ?」
「黙れ沖田何故お前ここにいる下がれ寝てろ遊んで来いよ」
「名前ちゃんとは、その、友だちっていうか、それ以上の関係かなって。ね?」
「ち……千鶴大好きっ!」

「……なーんで俺達にはあんな懐かないんだろうなー……」
「刺々しいよね、彼女。千鶴ちゃんにはぜんざいみたいに甘くなるのに」
「山南さんは怖いらしいぜ」
「へー」
「格別に総司には……ちょっと、厳しいよな」
「まったくだよ 土方さんが一人増えたみたいで」
「あー、千鶴と手繋いだ」
「喧しいなあの光景」
「羨ましいんだな」
「羨ましい?あれが?まさか。僕があんな幼稚なことを羨ましいと思ってると思うわけ?僕はもう子どもじゃないんだし、あれくらい見せつけられても羨ましいとか僕も手を繋ぎたいとかああいう笑顔を間近でみたいだとかそんなこと思ってないから」
「(………わっかりやすいなー…)」

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昼寝(沖田)

 縁側で沖田が寝ている。すーすーと寝息を立てて。いつもならわたしの足音と気配で目を覚ますのに、どうやら寝入っているようだ。額を小突いても、起きる気配は無し。昨日は確か非番だったはずだが、今日は仕事の合間にでも寝ているのだろうか。浅葱色の羽織りを腹に掛けて、やっぱり気持ちよさそうに寝ていた。
「……わたしも、眠たくなったな…」
 今日は非番であるから、寝ても、構わないだろう。しかしこういった場所で寝るのは少々躊躇いがある。邪魔にならないだろうか。まず体の大きい沖田が寝ている時点で邪魔になっているのだとは思うのだが……。それに、沖田の側で寝るというのも気が引ける、ような気がする。別に、意識するわけではないけれど。もしわたしが寝ている間に沖田が起きて……寝顔を見られたら、いや、だし。いや……だと、思うし。
「………ねむい」
 横になる。
「少しだけ……少しだけ」

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おやすみ(沖田)

「……あれ」
 見慣れた服装、見慣れた袴、見慣れた髪、見慣れた顔、どうも顔を上げてみると、よく視線で追ってしまう彼女の姿があった。日向ぼっこをしていた僕はそのまま寝てしまい……なぜ名前ちゃんがここに?しかも寝ている。小さな物音や足音、気配で起きる名前ちゃんがこうして安心したように眠るのは滅多にない事だ。額を小突くが起きる気配もない。近くに千鶴ちゃんや土方さんがいるのかと辺りを見回してもそういった姿・気配もない。
羽織りを掛けてやり、その寝顔を見つめる。
「………案外可愛らしい顔してるんだ…」手で口を隠す。そういうことを口にする気は毛頭なかった。
 近藤さんならきっと、部屋まで連れていく等をして、布団で寝せるんだろうけれど、生憎僕にはそういった優しさは持ち合わせていない。

「ううん……おきた……」
「(…………え…?)」

 あ、いや、寝てる。

「驚かせないでよね、もう………まったく、本当に、僕、どうしちゃったんだろうね」

 名前ちゃんの体を自分の方に寄せて、頭を持って自分の膝に乗せる。
 頭、痛いだろうから。

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