消えないで | ナノ


 顔を上げて熱さを紛らわす。「影山くん」と呼ばれる。はあ、と息を吐く。目を瞑ると、名字の姿が鮮明に移った。「影山くん」と名字は言う。俺は名字の名前を口に漏らした。はあ、と息が出た。熱い。自然と握る力も強くなって、ゆっくりと、そして次第に扱く速さが上がっていき、透明な液体から少し白濁の液体が交えた。「名前」俺は名前の頭に手を乗せた。「名前」もっと、「名前」もっとだ。
 名字はバレー部が終わるまで図書室で日向を待つ。ずっと待つ。時間になったら校門に出て、日向の事を待つ。日向が来たら、その自転車の後ろに乗って一気に坂道を下る。そしてたまに日向の隣にいて、バレー部の俺らと一緒に帰る。たまに肉まんを食べながら。でもその間名字は一言もしゃべらない。先輩はいつも名字に話しかけるが、名字はうんともすんとも言わずに緊張した顔で頷く。頷くか、首を傾げるかだ。そんな名字を邪魔者扱いするのが月島だ。でも名字は気にする様子はない。だから俺も気にしない。
 息が漏れて、名前の名前がかすれた。「あっうっ 名前っ」立てている膝に腕を乗せた。その腕に額を乗せた。目を瞑った。

 好きだ


 ゆっくりと目を開ける。布団に飛び散った白濁の液を見つめ、やべえなと思いながらゆっくりとベッドの上にあるティッシュに手を伸ばした。
 これ、名前だったら、飲んでくれんだろうな。
 手を止めた。腕を元の場所に戻して粘り気のある液を指で掬い、それを見つめる。

 名字は肉まんを買ってくれてありがとうございます、と一度だけ言った事があった。先輩らは嬉しそうに頬を染めて、んなもん気にすんなよと頭をぐしゃぐしゃと撫でていた。日向は嬉しそうに笑っていて、月島も意外そうに名字のことを見ていた。名字は顔を俯かせたまま、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を控えめに触っていた。「大丈夫かよ」と尋ねると、名字はコクリと頷いた。



 ああ、終わりにしよう。
 ティッシュに手を伸ばして精液を拭き、ベッドに飛び散った精液を丁寧に取っていく。名前が扱いて出た精液だと思うと、なぜだか布団が汚れてもそこまで気にならないのはなぜだろうか?好きだからだろうか?
「影山くん おいしいよ」「影山くん たくさんでたね」「影山くん すき」
 俺は手を止めた。

 パンツ、履こう。