色彩 | ナノ



「なあ知ってるか?昨日買われた17の男の子、主様を怒らせて両手を切断されたらしいんだ」
 薄暗い牢屋の中に響いた弱々しく震える男の声に少女は顔を上げた。その男の側にいた女は「ああ、あの子」と思い出し、「それはさぞかし、いえ、その子がいけないわ」と脱力し寝そべった。
 昨日買われた17の男の子はブドウ酒10本程度で帰る値段であった。ここに来る前も奴隷をしていたらしく、わけありでまた売られ、それも安い値段で売り買いされたのである。
 17の男の子は言葉が喋れなかった。そして言葉を理解できなかった。だから安く売られたのだ。主人は大人しい男の子であるから使えるだろうと買ったのだが、あまりにも使えなすぎて怒りのあまり両手を切断してしまったらしい。切断した後は牢屋に放り込まれ、同じ牢屋にいた老婆が自分の服を剥いで両手の止血に使ったから命は取り留めているが、長くはないだろう。

 その男の子は昨日の昼間にやってきた。少女がブドウ酒を調理場へ運んでいる時に、奴隷の列の中にいた、あの短髪の男の子のことだとわかった。主が何を言っても、何も反応を示さなかったから、少女にでもわかったのだ。柵から出て確認しようにも、できるはずがなかった。
 少女の入っている牢屋はどの奴隷よりも健康状態が良く、働ける者たちばかりだ。しかし、最近は病で死んでしまう者もいる。
 主が無駄に奴隷を買いすぎるから、こうなってしまった。今や、地下の奥の牢屋には奴隷であふれかえっている。そんなに奴隷を買って、ゴミが出るだけだと使用人が呟いていたこともあった。


「(あっ………)」

 使用人に連れられ、広い場所で17の男の子が投げだされる。痩せた体は簡単に転がってしまう。弱々しく、震える腕で自身を起きあがらせようとするが、それは主の登場にて叶わないものとなった。服に染みた血は黒くなり、そしてまた新しく鮮血に染められる。

「いいや、何人か使えなくなったの持ってこい。そういや昨日2か3のガキいたよな? え? ああ、3人も?それと9の男と18の…女だっけか?21の男?そいつら持ってこい。コイツに食わせられるだけ食わして」

 主は人に人を食べさせる趣味があった。2、3歳の男の子は一週間前に買われたばかり。怯えて声が出ない、とても小さな男の子だった。やっとの思いで生き延び外に出たと思ったら、今度は牢屋に放り込まれ、数日で体調を崩し、今や虫の息。
 最初に名出しされた男の子が17の男の子の目の前に寝そべり、弱い弱い、小さな呼吸を繰り返している。
 次に21の男がやってきた。21の男にはペニスが無かった。先日、主に切られたのだ。
 17の男の子はその男の子、男を見下ろしている。主は先程果物を切った際に使ったナイフを持っていて、そのナイフで2、3の男の子のペニスを切った。切られた本人は微かに体を反動させたあと、震える腕を伸ばす。が、ダン、と音を立て地面に力なく落っこちた。
 主の手の中にあるペニスは17の男の子の口の中に無理矢理放り込まれる。

 17の男の子は蹲ってペニスを吐いた。
 21の男の親指が切られる。また無理矢理口の中に放り込もうとするが、17の男の子は口を固く閉じそれを拒んだ。主は思い切り鞭で叩き、小さなギロチンで左脚を切断する。
 17の男の子の最後の叫びだった。ギャア、ギャアと喚いた後、もう片方の脚を切断された。

「くそっ 死ねばいい」

 17の男の子は鞭で叩かれ、それ以降動かなくなってしまった。
 言葉の無い、17の少年の最後であった。彼は最後まで人であったのだ。2、3歳の小さな男の子のペニスが転がり、21の男は切られた親指部分を抑え声を殺して体を震わせている。
 17の少年は両手を切られ、両脚を切られた。その処理をするのはいつも奴隷なのだ。

「名前、これ、燃やしといて」

 一番近い所に座ってその光景を見ていた少女、名前は震える脚と腕に力を入れ、震える頭で頷いた。





「なんで名前ってすぐに怪我が治るんだろう」

 名前と歳の近い少女が呟いた。少女の背中には鞭で叩かれた痕が残っているので、鞭の痕が残らない名前を羨ましく思ったのだろう。

「うん、どうしてかな」

 名前も疑問で仕方がなかった。鞭で打たれた痕は数日で消えてしまう。ひどく何回も打ち付けられたらなかなか治らないが、限度が軽かったり、中間であったりすると数日のあっという間に消える。しかし、痕が消えるから主も面白がって何度も何度も鞭を打つから名前にとっては嫌なものだった。


 名前は労働、性奴隷として生きていた。
 9歳になって初めて性というものを知った。
 10歳になって初めて人を殺した。
 11歳になって初めて人を食べた。虫を食べた。
 12歳になって初めて牢屋の外、太陽の下に足を付けた。
 名前は9歳からの記憶しかなかった。名前からすれば、生まれてすぐに性を知り、1年経って人を殺し、更に1年経って人を食べ、虫を食べた。ゆえに無知であった。それが当たり前だと思った。しかし、3年経ってからそれがおかしいと気付いた。それでも食べていかねばならなかった。それが生きるためだった。

「おい、主人がお呼びだ」

 名前が指名され、牢屋の外に出て階段を上って行く。一昨日の晩から何も食べていないからか力が思うように出ない。階段を上がるにも壁に手をついて上がるしかない。はあはあと息を切らし、上がりきったと思ったところで主が待ち構えていた。
 名前は目を大きく開く。
 主の表情に使用人も肩を上げ、おずおずと退いていく。
 一歩下がれば階段へ転がり落ちるだろう。しかし、主は構わず名前の体に鞭を4度打った。名前は唇を噛んで耐え、鞭打ちが終わるとその場にしゃがみ込んで眩暈と痛みに耐え、口を押さえたが胃液を吐いた。

「お前昨日の奴隷完全に焼き切れてなかったよ。おかげで朝から胸糞悪いもん見ちまった。どうしてくれんだ。ホントに使えない奴隷だな、もう一回焼いてこい、裸で」

 主は奴隷が焼き切れてなくても自分には関係ないことだと興味すらわかなかったが、名前に命令がしたかったために無理に焼却炉へ行き葉と一緒に焼かれたであろう奴隷の死体を見つけ出してなんとか命令の材料を探したのである。
「はい」と返事をした名前は汚れたボロボロの布切れを脱ぎ、焼却炉へ続く廊下を歩く。使用人が名前を見て顔を歪ませている。

「名前、綺麗に焼いたら、お風呂入れてやるからな」

 名前の目に生気はない。

 焼却炉についた名前は確認もしないままに火打ち石で葉に火を付けて、それを立ち竦み呆然と見つめていた。

 セックスだ。
 名前は数分遅れて気付いた。


 綺麗に火が消えたところで葉を掻き分けて綺麗に人間が焼けているか、名前は途中涙を流しながら人間が灰になっているかを確認した。手が汚れても、それを拭おうとはしなかった。

 逃げる名前に、追いかける主。逃げても逃げても、主は名前を追いかけ、ついに名前は使用人に掴まって主に差し出されてしまって、追いかけっこは終わり。鞭で叩かれる名前は身を庇うように蹲り、鞭打ちに耐え、鞭打ちが終わったと思ったら主は「セックスをしたことがない」「お前を練習台にする」と言いだした。
 名前が9歳、主が15の時のことの話だ。
 名前はもちろん、セックスというものを知らなかった。しかし服を脱がされたことに恥ずかしいと思ったので、セックスというのはそういうものであることが幼いながらに理解し、体を腕で隠した。
 主は気に食わなそうに言う。
「なんだよ、セックスやなの?ふうん。あっそ。わかった。おいそこのお前。新しくきた3歳くらいの奴隷持ってこいよ」

 名前は驚いた。なぜ、3歳の少女の奴隷を持ってくるのだろうか?
 使用人が暴れる3歳の奴隷を主に渡し、主は髪を掴んで地面に頭を思い切りぶつけ少女は静かになったが、ピクリと身体を動かした。主は口角を上げ名前を見る。

「見てろよお。今からこいつの首から下お前の体の上に落ちるからなあ。そんじゃまあ。ホラ」

 腰に付けていた剣が少女の首を突き刺し、引き抜かれ、そして腕を上げた主は勢いよく少女の首を二つに分けた。血がいたるところに飛び散り、名前の顔も汚した。

「どう?どうだ?ウハア良い顔してるぜ名前。ほい。頭」

 頭が名前の腹に転がる。

「3歳の奴隷はちょっと、使えなさすぎだよなあ。我がままだしなあ。いいよなあ。これくらい、いいよなあ。腐るほど奴隷いるしなあ」

 体を放り投げる。

「なあ。するかよ。セックス」
「おい」
「もう一人持ってこい」
「おい。その奴隷、食えよ」


「食えよ」



 屋敷に入り、主のいる寝室へ赴いた名前は自分が重大な過ちを犯している事に気付いていない。使用人がまず先に気付き、名前を後ろに押して汚れを布で拭う。そして扉を叩いて主の名を呼んだ。「おう、終わったのかー?」
 主がそう言いながら扉を開いた。名前は押された時、すぐに正座をして主を待っていた。汚れを気にしてその場から離れるように言ったつもりで押したが、思いのほかあまり遠くへは飛んでいなかったために、主と名前の距離は短い。使用人は終わった、と思った。

「ようしエライエライ。風呂は沸かしてるから一緒に行こうな〜」

 セックスが出来るだけで、主の機嫌はとてもよかった。使用人はホッとして頭を下げた。
 手を引かれる名前は黙って後ろについていく。
 使用人はこの光景を度々目にしていた。汚れを取るという理由で風呂に入るのも、ただのセックスをする口実に過ぎない。それほど主は名前とのセックスが好きであったし、どの奴隷のセックスの数を数えても名前が断トツ多かった。

 まず初めに口を濯がせ、体を洗う。貧相な乳房に泡を付け、念入りに何度も何度も渦を巻くように泡をなじませる。濡れるまでに時間がかかるから、それを待っていられない主は泡の付いた指をワギナに挿入し、上下に出し入れをした後、自身のペニスを出した。

「あるじ、さま」

 名前が主の名を呼び、主は嬉しそうに貧相な体を抱いて無理矢理にペニスを挿入する。
 名前は痛い、痛いと高い声を出して言うが、主はその声がまったくと言っていいほど聞こえておらず、ピストン運動をそのまま続ける。次第に気持ちよくなってきた名前が小さく喘ぐと主はキスをして、舌で口内を荒らし乳首を摘んだ。

 中に出してはいけませんぞぉ。と主の使用人は何度もその都度言う。子どもができてしまっては、大変ですぞぉ。主の知恵は使用人の知恵。しかしセックス行為の知恵だけは、主だけの知恵だった。

「あっ、あっ あるじさまっ、いたっ……ああっ」
「名前、ねえ気持ちいい? 気持ちいい?どんな感じ?おれのペニス、どう? どう?」
「き、きもちい、いいです……主様のペニス、大きいです……」

 名前はまだ初潮が訪れておらず、主は何度も何度も中へ精子を出している。不幸中の幸いだった。

「もっと、もっと言えよ……主様の事、大好きですペニス大好きですって」

 必死になってその身を抱いて、主の言われた通りの台詞を口にする。

 叩かれることは、本当に、名前を悲しませるのだ。
 目の前で死んでいく奴隷達をみるのを、ただ見守るしかない自分が情けない、名前が毎 日悲しいことばかりで、ついには「悲しい」という感情を忘れてしまった。

「あッ……!」
「俺の名前、俺だけの奴隷の名前、かわいい、かわいい……!」

 白く濁った精液が床へ落ちる。
 主は名前の肩を抱き最後の一滴まで体を振って出しきった。




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