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 いいか?この銃はこうして持つんだ。そして目の前の敵を殺すためにこれはある。この銃はこの世の悪の一部である人間を殺すために作ったヒーローのみ使うことを許された正義の武器だ。お前が殺す奴は全員敵だ。目の前で死んだ奴も悪である敵として見なせ。いいか、お前は、正義なんだ。お前の環境で死ぬものがいるならば、それは、悪だ。
 そうだ、上手になったな。もっと舌を丸めて、ゆっくり筋を舐め取って歯を立てないように、奥まで突っ込め。絶対に吐くな。苦しくなったら一度引き上げてもう一度飲み込むように息をしながら付け根を掴んでから奥へ入れろ。余裕があればキンタマも触れ。揉まずに、ただ指や手を添えるだけでいい。そう、そうだ。いい子だ。

 ボスに教わった殺人術もセックスのやり方も、わたしに本当に必要なことだったのだろうか。ベッドの皺を見つめ、自然と流れていく涙はシーツに染みを作った。
 紫原がホムンクルスの一員だということがわたしの心の空洞を作る要因となった。いくらわたしの中で否定をしたって紫原がホムンクルスという事実が変わるわけでもない。
 わたしはこんなに悲しくなるために生きてきたのだろうか。紫原に殺されていたはずのわたしは生きているのが不思議でたまらなくなった。わたしなど、こんなしょうもない人間なのだ。一つや二つ、一生消えない傷を作ったって構わないだろう。むしろ、受けるべきなのだと思った。中学生の頃から彼は、きっとわたしを殺そうとしていたに違いない。わたしを殺すために普段の垂れさがる眼を光らせ、わたしを見ていたに違いなかった。
 友人だと思っていた。今でも思っている。だが、紫原がわたしを見る対象は殺しでしかない。

「名前ちん」

 幻聴か、幻覚かとも思ったが、ぼんやりと映る紫の髪の色を持つ彼が立っていることを確認できたころには、紫原はわたしの腕を持って、強引にベッドから起きあがらせ大きな体でわたしを抱きしめた。

「ごめん」

 猫のことだろうか。わたしは喋る気すら起きらなかった。紫原を抱き返す気など当然、ない。
 ごめん、ともう一度唇を噛みながら呟く紫原を横目で見て頭を預けた。

「もう浅羽のとこに帰るのやめようよ。オレきちんとボスに言う。名前ちんを悪いように言わないし、悪いようにしないよう頭下げても頼む。だからもうあんな奴のところにいない方がいい。浅羽の実力はうちのボスもよくわかってるから今の今まで手を出さないできた。だけどボス、怒ってるんだ。だから、もう、ニルヴァーナを抜けて、ホムンクルスで一緒にいよう、よ。オレ、一生名前ちんの事守るから」

 とても美しい、紫原の本当の心の声であった。わたしのボス、浅羽次郎はロクな男じゃない。わたしの母を殺した、この世で一番憎いヤツ。わたしがいつかこの手で、正義を掲げて殺そうとまで思った最低の男。
 けれどニルヴァーナを裏切ることはない。赤司がいるニルヴァーナを裏切る事は、絶対にない。わたしは、彼を裏切らない。裏切ることは叶わない。彼の側で手を引いて上げなければ、彼は死んでしまう。彼は、彼は、彼は、彼は、わたし無しでは、生きていられない。けれども彼は平気でわたしを突き飛ばすだろう。けれど、掴んでくれと手を上げる。そんな人を放っておけるほど、わたしは残酷な人間じゃない。
 人を殺す、人を救う正義なのだ、わたしは。
 
「紫原、好きだよ」
「!」
「だから今日は、一緒にいようね」

 紫原の手を引いてベッドへ座った。首に手を回して膝を立ててかさついた唇を舐め、薄く空いた口に舌を入れて歯を無理矢理抉じ開けて熱くなる舌に絡め、押される舌に腕も下ろし、覆いかぶさる紫原の体を抱いた。
 言葉の偽りがなんだ。ただそれだけのことじゃないか。セックスの時くらい、偽っても、いいじゃないか。口を開けると紫原の舌が伸びて、歯をなぞって伸ばした舌の先に触れてわたしが絡ませれば下手な紫原の舌使いは一気に上手く絡んで共に唾液を垂らした。
 大きい手のひらが服の上から乳房を揉んだ。服の上からじゃ紫原を感じない、わたしの乳首が立っている事を、知る事ができない。自分からボタンを外しシャツを脱ぎ、下着を上げて紫原の手首を持って胸へあてた。
 ほら、乳首摘んでよ。いじって。舐めて。噛んで。好きにして。男にしては長い髪を揺らして、左の乳首を摘み、右の乳首を噛んだ。紫原の頭に腕を回して奥歯を噛みながら声を漏らし、頭に額を当てた。

「ねえもっと強く噛んでみていいよ。血が出るまで、いいよ。痛くしていいよ、痛くして」
「名前ちんは痛いのが好きなのー?」
「嫌いだけど、気持ちいいから好き。だってどうせもうわたしの体はボロボロだから、いくらボロボロにしたってボロボロっていう事実は変わらないし、綺麗になることだってないでしょ?だから、いいの。いっぱいボロボロにしていいの」
「…名前ちん、名前ちんは、きれいだよ」

 欲しくない言葉さえセックスをしている時は綺麗に聞こえるから好きだ。

「……ありがとう、アツシ」

 頬に手を当てる。紫原は顔を上げ、目を閉じ、優しく唇を当てた。下着を下ろした。すでに濡れている汁を中指に絡めて一度離した膣の中へ指を入れる。ゆっくりと出し入れされる。動きと比例して声が漏れた。
 紫原のは赤司のよりも大きい。大きなペニスは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。ボスのも大きい。ボスや紫原とくらべて赤司のは小さい。小さいけど、好き。

「ペニス舐めていい?」
「うん……」
「じゃあ寝て」
「うん」

 次はわたしと紫原の位置を変えて、仰向けになった紫原のペニスを咥えた。赤司とセックスをしている時はちんちんと言わなければならない。赤司に背く事もまた快感の一つだった。
 睾丸に触れる。睾丸の筋には指を這わせ、ペニスの筋には舌を這わす。紫原の苦しそうな声と一緒にカウパーが流れる。わたしは口内から亀頭を外し口を閉じた。口の端から唾液が流れる。カウパーと混ざる唾液が流れた。悲しみも一緒に唾液とカウパーと一緒に流れてしまって構わない。

「アツシ」
「……」

 紫原の手が前髪を掻きわける。

「アツシ」




「あ、紫原だ。どうしたの?」
「うん、あのさーオレここでバイトしたいんだけど」
「ほんとっ!?あの、もう年がら年中人手不足で…!ちょっとまってて店長に話してくる!紫原もおいで!」

 人を殺すことなど大したことではない。むしろ、オレからすれば当たり前な行為になっている。目の前の彼女を殺せとボスから命令され、約2年が経った。しかし殺せないでいるのは、彼女が思った以上に実力者であることと、彼女のバッグには赤司征十郎というまた別の実力者がいること。
 殺す機会は何度もあった。だが出来なかったのは、




「紫原、強盗殺人とかしたことあるの?」
「えーないけど。ないけど、空き巣は何度かね」
「わたし鍵閉め忘れてた?」
「ううん、ばっちし閉まってた」
「…結構得意分野だったりするんだ」
「まあねー。あーあ、名前ちんオレと一緒に来てくれるならオレ死ななくて済んだかもしんねーんだけど。これ結構怨むレベルだよ。オレの死の重み、感じてる?背負ってくれるわけ?どっちみち、名前ちんが、赤ちん裏切るわけないって…わかってたけど。結構悲しいもんだねー。じゃ、オレそろそろ行くね」
「…紫原」


「バイバイ、オレ、名前ちんのこと、好きだよ」
 本当は、はじめから、好きだった。