プリズム | ナノ
先生とチームメイト


「このお決まりのパターンね…!もう慣れたけど…!」
 無事に試験が終わり、全員が下忍となった。不安だと言うものも、嬉しいと言うものも半々と言ったところだが。もちろんわたしは嬉しいの類に入る。影で努力してきたことが認められるのはやはり嬉しい。そして下忍昇格となれば各自スリーマンセルの小隊を組んで任務に励むことになる。つまり、今日はそのスリーマンセルのメンバーの発表の日だった。昨日同様全速力でアカデミーへ走り、階段を上っている暇などないので屋根へ屋根へと飛び乗ってクラスの窓を開けた。
「今日はまた一段とハデな登場だね」
 顔を引き攣らせ驚いているのはミナトくんだった。教科書か何かを呼んでいるらしい。
「発表は!?」
「ま、まだだけど…」
「わたし遅刻!?」
「んー…ギリギリセーフ、ってとこかな?」
「コラ苗字ー!!ちゃんと正門から登校してこい!!」
「けどセーフ!」
「確かにセーフはセーフだけどな!…ああもういい、席に座れ!」
 陽気な挨拶に先生の溜息。せんせー幸せ逃げるよ!という生徒の言葉にさらに溜息を吐いた。ナツホがおはよ!と元気に挨拶をしてくれて、今日もまた一日が始まる。「おはよ!」ナツホの隣に座ると、一息ついた先生がボードを机にコンコンと打ちつけて、口を開いた。
「昨日話した通り、今日はスリーマンセルのメンバーを発表する。メンバーは能力、力が平等になるようにこちらで決めたから、文句は一切なしだぞ。午後は小隊についてくれる上忍の先生にご挨拶だ。それでは第一班から発表する。第一班、」
 第一班、二班、三班、ときて、四班目にナツホの名前が挙がった。男子二人、女子一人という構成だからナツホと一緒にはならないことはわかっていたが少々寂しくなった。
「離れちゃったね」
「でも、まあ、これで縁が切れたわけでもないじゃない?任務で忙しくなるけど、会えるもの」
「…うん」
「第九班、苗字名前」
「おあっ」
「第十班、」
「えー!?誰と!?」
「ちゃんと聞いてなさいよね」
「だって喋ってたじゃーん!」
「俺とだよ」
 後ろの席にいたミナトくんがこちらを見下ろす。
「ミナトくんとかぁ」
「それとあそこにいるソウタくん」
 いつもゲームばかりをやっている陰険くんと呼ばれているソウタくんだった。影山一族の一人らしい。しかし特別な術を見せたり、うちは一族や日向一族が見せるような活躍はあまりなかった。ただとても影が薄いということは認めよう。
「全十二班。これから色々と苦しいことも嬉しいことも、たくさんあるだろう。大切な人を無くすこともある。だが、それに屈しない立派な忍になってほしい。自分の道を自分で見つけ、試行錯誤をしながら失敗してもいい。それでも最後には正々堂々、胸を張って生き、そして死ねる忍になってほしいと先生は思う。俺はこれでお前達の担任の先生ではなくなるが、いつでもお前達を見守っていく。先生という立場もやめる気はない。これからこの里の未来を明るく照らしてくれる存在である、そうあってほしい、そう願っている。卒業、おめでとう。先生はいつでもお前達の味方だ」


 昼食はチーズとハムを挟んだサンドウィッチを作って、いつもの自販機で買ったお茶を机に広げて教室にわたしの班がぽつん、と取り残されていた。わたしの隣でお弁当を広げているミナトくんは時折離れて座っているソウタくんをチラチラと気にしながら唐揚げを頬張っていた。
「先生遅くない?」
「それ名前ちゃんが言う?」
「殴るよほんと」
「ねえソウタくん、ゲームしてないでこっちで一緒にご飯食べよう?!」
 ミナトくんが教室の端に座り机の下でゲームをしながら目だけをこちらに向けた。
「…もう食べたし」
「じゃあこっちきてゲームしなよ、ね!」
「……うっさいから無理」
 えっ。と少しショックを受けたように固まったミナトくんはしゅんと首を下に向けて唐揚げを食べ始めた。
「こりゃ攻略難しそうだなー」
「…それにしても本当に先生、遅いね」
 すぐに立ち直ったミナトくんは時計と教室のドアを気にしながらどんどんお弁当の中身を減らしていく。
 あー、でも、遅刻しても先生に怒られることないからちょっと安心したかも。最後のサンドウィッチを喉に通したところだった。ドアが空き、「おぉーっと!遅刻かのォ!?」とゴロゴロ転がって教室に入ってきたのは白髪の大男で、この静かな教室にその声が響き渡った。
「………」
「………」
「…うるさ」
 こうして先生の第一印象はうるさい大男、となった。


「それじゃあ右から自己紹介してもらおうかの、はいそこの女の子から」
「いや右ってソウタくんなんですけど…。まあいいや、えーっと、わたしは苗字名前っていいます。はいソウタくんドーゾ」
「みじか!いや他にも好きな好みのタイプだとか好きな男の子だとか、先生の好きなところとか、そういうのは」
「先生セクハラです。それに会って数分なのに先生の好きなところなんて一切見つけられません!」
「…てかセンセーから自己紹介したら。手本にでも」
「おぉそうだのぉ、これは失敬。わしは泣く子も黙る自来也様よ!好きなタイプはボンキュッボン、得意な忍術は透遁の術で趣味は覗きと小説を書く事…ま、これくらいか」
「最低…まともなの最後だけだよ?」
「聞かなきゃよかった」
「ほれ、名前も言った言った」
「…好みのタイプはうるさくない人、でもうるさくなさすぎても嫌。得意な忍術は特になし。趣味は昼寝で特技は遅刻」
「あはは、それ特技って言わないよ」
 膝を抱えながらミナトは笑う。
「俺は波風ミナトっていいます。好きなタイプは…好きになった人で、得意な忍術もこれといってありません。趣味は散歩です」
「…影山ソウタ。好きなタイプは特になし。忍術も無し。趣味はゲーム」
 これはまた色の強いのが集まってきたのぉ、と自来也先生は眉を八の字にして肩を揺らして息を吐く。
 確かに、いろんな性格あつまりすぎかもしれない。
「それでは、明日朝の十時に第三演習場でお前達の実力を拝見させていただく。各自忍具等を揃えていくように」
 そう言って印を結んだ先生はボンっと煙をたてて消えていった。わたし達三人は先生の性格と言動に呆気を取られてしばらくこのままでいた。