プリズム | ナノ
決心A


 自来也の言葉にミナトは大きく目を見開いた。まさか自来也が名前の話、しかも「血継限界」の話をすると思わなかったのだ。
 自来也はミナトにこう言った。
「先日の草隠れの忍がなぜ名前を襲ったのか、ミナト、お前はわかるか」
 当然ミナトは皆目見当がつかなかった。名前を助ける時は邪念などなく、ただ『名前を助けなければならない』という一心で彼女を助けようとしたからである。
 そして自来也から「名前は血継限界を持っている」という台詞に、ミナトは驚いた。まさか、名前が血継限界を持っている素振りや、それらしき言葉などきいた事もなかったから、自来也の一言に一筋汗を流した。あの時、なぜ名前が攫われたのか、それほどの血継限界なのだろうか、ミナトは頭の中で名前に関する情報がぐるぐると渦巻き、どうしようもなくなって、「はい」と返した。
「わしが心配してるのはのぉ、ミナト。名前は自分の血継限界のことをあまり知らないことだ。わしはお前だからこそ、名前本人も知らないことを伝えるんだぞ。わかってくれるな?」
「…でも、でも俺が知ったって」
「名前の性格を考えた結果だ。ミナト、お前は名前を支えてやれ」
「…っえ、ど、どういうことですか先生…!」

 自来也は続けた。

 名前は数少ない『苗字一族』の生き残りであった。戦争が激しくなり、元々傭兵であった苗字一族は木の葉に身を置きながらも他里の忍として、金で買われて戦ってきたのである。いつしかその現状が続いたまま、苗字一族は2つに別れてしまった。傭兵として生きる苗字一族、そして木の葉の里の忍として生きる苗字一族として。だが、木の葉に残った苗字一族は血は濃いものの戦いを好まない温厚な性格の者が多かった。そのためか、他里へ渡った苗字一族よりも先に、徐々に数が減っていった。そしていつしか、他里へ渡った苗字一族も激しい戦闘の最中命を削っていき、いつしか、忍の間で『苗字一族』の血は希少価値となり、そして木の葉のみに存在する、ということになった。
 苗字一族の血継限界は木の葉の里では珍しい部類のものである。いや、当然他里でもそうなのだから、苗字一族は金で買われてきた。
 苗字一族の血継限界、それは自身の能力を向上させるものである。「集中」することで五感を鋭くさせ、次いでチャクラコントロールなどの精密さも上がり、身体能力も3倍ほど上がる。忍術や幻術、体術の技量も比較的に上がるが、その3点は他のものに比べれば向上しないこととなる。そして視力も上がる。極めつけは相手の行動を予測する能力だ。動きを把握、予測することで次の手を打つ事でき、それを予知していると相手に思わせるのである。
 この能力で苗字一族は傭兵として生きてきたのだ。木の葉が苗字一族の力を大事にする理由も、自分の里へ力を貸してくれたから大切にする理由も納得がいく。
 しかし、この能力には欠点があった。一族は常に微量ながら集中をしており、自然的に能力を発動している。これに関しては何ら問題もいらない。しかし、問題は集中しすぎることである。一族の死因はその集中しすぎによる神経の壊滅、つまり、能力の使いすぎだった。集中は永遠と続くものではない。集中しすぎることで、神経が壊滅し、死んでいったのだ。
 自来也が心配しているのはこのことだった。魅力的な能力であるだろう。チャクラを使わず、集中するだけで身体能力、五感、その他諸々の能力が向上するのだから。しかし、リスクも高かった。
 きっと名前は無理をしすぎるだろう。そして、能力を使いすぎるだろう。自来也はそう思い、そしてミナトへ、一族の名前さえ知らない血継限界の話をしたのである。

「ミナト、試験は生温くはない。きっとお前と名前ならば問題ないだろう。だが、ソウタだ。名前は優しい子だ、ソウタの失敗を庇ったり、ソウタが襲われたりでもしたら自分を犠牲にしてでも助けに行こうとする。勝たなければならない、守らなくてはならない、そう思うのは結構だ。しかし、あの小さな体で能力を使い続ければ…」
「…名前ちゃんは、壊れてしまうんですね」
 ミナトの目に迷いはなかった。思わず自来也は笑みを浮かべ、黄色に輝く髪に手を置き、そういうことだ、と撫でまわした。三代目も心配していたが、これなら大丈夫だろうと自来也は頷いた。
「ミナト、名前、そしてソウタも、よろしく頼んだぞ」
「はい…、もちろんです」
 力強い返事に自来也は更に笑みを浮かべた。
 中忍試験まで残り一ヶ月である。