プリズム | ナノ
Cランク任務-3


 ドカッ
 バキッ
 ドゴッ
 バタッ
 山賊達は倒れ、山賊に囲まれていたミナト、ソウタ、名前の三人は各々武器を手にして息を切らして山賊達を見下ろしていた。Cランク任務、内容は貨物荷車の護衛。途中山賊に襲われた自来也班は荷車を護衛しながら長い坂道を上っていた。依頼人は旅芸人で、最近山賊に襲われることが多くなり次の町まで護衛してほしいという内容だった。
 任務開始から二時間経過して山賊に襲われた。自来也は荷車を守り、三人は散らばっている山賊を倒す。しかし荷車の数が多く、三人は仕方なく荷車を守りながらの戦いを強いられていた。が、途中山賊の頭と見られる男とその男に従う山賊達は先に襲ってきた山賊よりも素早く、手間をとらせ、狭い道に山賊が溢れ、雑草が生い茂る傾斜で応戦しながらその下にある川まで誘導されてしまったのだ。
 背中を合わせて戦った三人は荷車の方を見上げ、仕方なく急な傾斜面を登らなければならない事に溜息を吐く。
「忍者ではないけど動きが全く読めない」
「ある意味戦い慣れはしてるみたいだね。でも忍術を見切ることはない、俺達でもいける」
 ソウタ、ミナトが会話をしている中、名前は山賊の腰についていた刀を手に取る。きっと武器商人から買ったか、或いは盗んだものだろう。名前は刀を使ったことはないが、鞘から刀身を抜くと、銀色に輝く鋭さに目を奪われた。忍者刀よりも重いが、どこかで役に立つかもしれない。そう考えて山賊の腰に付いているベルトを自らにつけ、刀もつける。
「名前ちゃんそれじゃあやってることが山賊と一緒だよ」
 踏み寄って来たミナトが名前の腰につけたベルトを引っ張る。
「え…でも、なにかに使えるかもって。それに忍者だって敵の忍具を使うの、珍しい事じゃないでしょ?」
「俺は『山賊』ってことが言いたいの!」
「……」
 ミナトの言うことは一理あるが、こんな良い刀を地べたへ放り投げるのは勿体ない。それにミナトはああいうが悪いとはイチミリも思っていないのである。名前は不満を表情に出してミナトを見上げた。ソウタはそんな二人の間に口を割る。
「…別にいいんじゃないの?今は余裕があるからそんなこと言えるけど、余裕なくなったらアンタも今のようには言えなくなるよ」
「けど…、山賊が持ってた刀だよ?それに忍者刀とは違うんだ、重さがある。名前ちゃんは力がないんだからきっと扱えないと思う」
「山賊が嫌い?」
「そういうわけじゃないけど…」
 ミナトと名前の間に険悪な空気が流れる。
 ミナトは平然と敵の武器を自分の物にする名前が信じられなかった。確かに敵の忍具を奪って使うことはあるが、忍具は放たれてからは誰の所有物でもなくなる。しかしこの刀は最後まで山賊の手に握られていた、所有物なのだ。
「ま、確かに重いけど…その分何かに使えるかもしれないし?刀身抜かないでもさ、なにかに」
「……そう、だけど」
 ぱしん、と乾いた音が響く。名前がミナトの手を掃った音だった。
「使えないなーって思ったら捨てるから、ね!」
「……うん、わかったよ」
 ミナトは笑って頷いた。それを見ているソウタはその二人を見て面白いものを見たような顔をして名前の後ろについていった。
 傾斜を登り、自来也達と合流した三人は次の町までの中間地点である町で休息をとることになった。自来也達は忍だが、依頼人はただの旅芸人であり、中には旅慣れていない者もいる。そのために早々と次の町まで向かいたいところだが、体力を回復するためには必要なことなのだ。
 大きな団体客の為に町で大きな宿屋を探すのに手間取った。数多い荷車を置いてもらう代わりに芸を一つお見せする、と名乗り出た座長が今は芸の準備に忙しそうにしている。
「旅芸人の芸ってわたし見たことない!」
「巫女舞や動物芸、傀儡芸とか見せてくれるらしいよ!俺も見たことないから楽しみだな!」
「残念だが名前とミナト、お前らは宿の外に出て見張りだ」
「えー!」
「そんな先生っ!」
「わしとソウタは中で見張りするぞぉ〜」
「先生鼻の下伸ばしすぎ!やらしーこと考えてるんでしょー!うがー!」
 自来也の背中に飛び乗った名前は力いっぱい抱きついて力を強める。しかし名前の弱い力に自来也は何ともない顔をして、ミナトと名前に宿の外の見張りの任務を授けた。
「…あのタイミングで山賊とは…、こりゃちったあ面倒な任務になりそうだのぉ」
 その言葉に三人は口を閉じる。が、自来也のガハガハと大口を開いて笑う姿に溜息を吐いた。ここ最近自来也は生徒である三人をそっちのけに女の尻ばかりを追っているのだ。これもう担当上忍変えてください。と静かに言う名前に耳もくれない自来也に、下忍の男二人はまた更に溜息を吐いた。


 宿の屋根に一定の距離で隣に座っているミナトと名前。名前は敵の気配を気にするのが精一杯のようだが、隣のミナトの敵の気配と名前の様子を同時に伺っていた。そわそわとしている名前に隙がないというわけではない、今回は山賊を使う忍か、はたまた金持ちの類か…。肩肘を膝に乗せて手のひらで口を覆ったミナトは鼻ですう、と息を吐いた。
「…敵の気配はないね」
「………」
「…ミナトくん!」
「!…えっなに?」
「ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「ああ、うん、平気だよ」
「もー」
「先生も言ってたけど、山賊がやられた事はすぐには気付かれないだろうからまだ敵は来ないだろうね。来たとしても少人数だよ」
「どうして?」
「山賊を倒した忍の力を見たいからさ。少人数で敵の力量を計って出直して態勢を整えた方が仕事しやすいからね」
「ああもうそんなことしなくていいのに!」
「あはは…それは俺も思うなあ」
 膝から肘を下ろして両手を脇に置き上体を後ろに反らす。
「いつか平和な日が来たら…、きっとそれは幸せなんだろうな」
 ミナトがオレンジ色の空を見上げながらぼそりと呟いた。名前はミナトの方へ顔を向け、その横顔をじっと見つめる。
「…うん、わたしも…、戦のない日を見てみたい」
 大切な人を失わずにすむ日を夢に見て。ミナトと名前の思いは口にせずとも、二人はひしひしと感じていた。本当に幸せを望む者のみが感じることのできるものだったのだ。
「俺…将来火影になりたいんだ」
「…!火影に…?」
「戦のない時代にはできないかもしれない。いや、到底不可能だけど、大切な人を、里を、仲間を、守りたいんだ。誰も悲しまずに済むような時代にしたい。願いでしかないけど、不可能だけど…叶えたいんだ」
「…ミナトくんならなれるよ、絶対!」
「そうかな」
「うん!絶対なれる!わたし応援してるよ!それにミナトくんが火影になれるように全力でサポートする!…わたしのサポートなんていらないくらいミナトくん強いけど…」
 大切な人、名前には両親という大切な人がいた。しかし両親は任務で殉職し帰らぬ人となった。大切な人がいなくなる悲しさ、寂しさ、切なさを知っている名前にとって、ミナトが口にした台詞は立派で、輝いていた。頭をかく名前に、ミナトは嬉しさが込み上がってきて、そして優しい笑顔になった。
「そんなことないよ、ありがとう。名前ちゃんにそう言われたら、本当になれる気がしてきた。頼りにしてるよ」
「う…うん!」
「…名前ちゃんの夢は?」
「わ、わたしの?」
「差し支えなかったら、だけど」
「…すっごく単純だけど」
 名前の脳裏に三代目火影を始め、自分の世話を焼いてくれた人たちの顔が浮かんでくる。上層部からの冷たい視線から何度も守ってくれたその人達は名前の親代わりといっても過言ではないだろう。小さい頃からなに不自由ないように生活をさせてくれたのだ。
「強くなって…、この里を守りたい」
 名前は拳を握った。その動きを見たミナトは名前に声をかける。「一緒に強くなろう」と。名前は笑顔で頷いた。
 先程までオレンジを帯びていた空は段々と黒に変っていく準備を始めていた。