いってきます、とドアを出て行ったのはいつだっただろうか。わたしが迎えに行くようにと命じられ、共にいるようになったのも、いつだっただろうか。千昭の用事は、とても長引いた。同じように私の仕事も長引いたけれど、そんなことより私はとても心配だった。不安は日を追うごとに膨らんで、気がつけば夏が訪れていた。この時代の夏は、とても暑い。首にかかる髪の毛がうっとおしくて、私が髪を短くした頃には、千昭は何か焦っているようにも見えた。私はやはりとても心配だった。

「千昭、」
「ん?なんだよおなまえ」
「何を焦ってるの?」

直球。正直に聞くと、千昭は一瞬目を揺らめかせて、別に何も焦ってねえよ、といつも通りの声を出す。うそ、わかってないとでもおもってるの?もう、夏がきたこと、半袖の制服が物語っているのに、帰れない、いや帰らないあなたのこと。

「真琴、」
「真琴が、どうした?」
「あいつ、俺たちと一緒だと思う。」
「一緒?」
「タイムリープ、してる気がする」
「だから?」
「、え?」
「だから、なに?」

千昭が驚いて目をぱちぱち、とさせた。私は何も変わらず、まっすぐに見ている。真琴というのは、千昭がいつも一緒にいる、元気な女の子だった。将来のことから目を離して、この受験期でも未だふらふら遊んでいる、女の子。別に嫌いだからそう言っているのではない、千昭が私も一緒に仲良くさせようとちらちら気にしているのは知っているけれど、私はすべて無視をしていた。この男は優しすぎる、そして馬鹿なのだ。タイムリープを何度もするうちに、仕事をこなすうちに、この男、千昭だって気付いたはずだ。もう二度とこえる事のない時間に戻って仲良しこよしをすることほど、つらくてかなしいことはない。だからあの子たちに固執する千昭も、千昭にかまうあの子たちも、私は好きになれなかった。一緒にいたくない、と思った。そして同時に、千昭のことが心配で心配でたまらなかった。千昭もおそらく、そんな私の目に、気づいていた。気づいていてもなお、目をそらしていた。離れ難くなるのは目に見えているのに、こいつは本当に馬鹿で、世話がやけて、なにより、かなしい男だった。

「タイムリープできたら、何か問題になる?」
「でも、あいつ、使い方間違ってんだ。正しく使わないと、あれじゃ、あいつ、だめになって」
「千昭。」

そして、何より私が一番悲しかった。このあと、千昭がどうするか、何をしてしまうか、それが未来にとって、タイムリープを自由に使える私たちにとって、どれほどやってはならないことか、私は予感していた。背筋がひやひやしていた。やめて、千昭。わたしはまだ、あなたと時を超えていきたい。そんな言葉はきっと届かないし、言えない。かなしい、。

「なあ、おなまえ」
「なに」
「罰って、痛いのかな」

千昭は遠くを見つめていた。未来でも過去でもないところを、今を見つめていた。ばか、お前が今いるここは、今なんかじゃないのよ、ここは、過去だよばか、。
しんじゃえよ、と小さくこぼしたら、はは、死ぬのはマジ勘弁、と彼は笑った。その、カラッと笑う顔が好きだった。わたしの仕事も終わるのね、と言うと、世話かけたなとまた、笑った。いいなおそう、わたしは真琴という女の子がやっぱり嫌いだ。千昭を、時代から、わたしから奪って行ったあの子の事が、それを知らずに甘い目で真琴を見つめる千昭のことが、気に食わない。けれど、彼が誰を見てどこを目指し何を想っていようと、千昭を連れ戻すという仕事に我先にと立候補してしまった事は事実で、この馬鹿でかなしい男が何も考えてないみたいに笑うのを長い間眺められて、わたしは幸せだったよ。


(すりつぶした昨日を道にばらまいて)
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