時間はあたたかい昼下がり。気持ちのいい日差しを体いっぱいでうけながら、ねむくなりそうだねえと言えば隣の彼も本当だ、とにこにこ笑った。多分誰よりも朝早く起きて、誰よりも夜を長く過ごすお母さんみたいな彼だから疲れも溜まっているに違いない。それでも彼はうとうとしている私と違って、全く眠そうなそぶりも見せないの。この人はいったいどこで疲れを発散させているのかなと思う。

「サンジくん、毎日おつかれさまだね!」
「ありがとうおなまえちゃん」
「ここはきもちのいいところでしょ?」
「いやァ、本当だ。こんな場所知らなかったなあ」

 にこにこ笑うサンジくんの笑顔が、日差しにゆらゆら揺れて眩しい。整った横顔を眺めていたら、サンジくんはすぐ視線に気付いて私の目を捉えた。おなまえちゃんアホ面だぜ!どれほど面白い顔をしていたのだろう、彼は大きな口を開いてあははと笑う。いつもおしとやかに、丁寧におしゃべりをするサンジくんだけど本当は口が大きい。前にその事を言ったら気にしたそぶりもせずに「どんな料理もこぼさず食べるためなのさ」とおもしろおかしくジョークをくれた。その顔は大人の顔だったけど、言ってることはまるでやんちゃだったから、その時も2人揃って吹き出したんだった。

「こんな場所どうやって知ったんだい?」
「ふふ、内緒」
「なんだよ内緒かよ〜」

 いじわるをしたのに、サンジくんは嬉しそう。サンジくんは手を伸ばしてごろんと寝がえりをうった。大きな彼にとってはこの場所は狭く、案の定柱に手をぶつけてしまって「痛ぇ」と小さなうめき声をあげている。それがやっぱりおかしくて、あははと笑ったらサンジくんが小さく頬をつねってきた。いたくもかゆくもないんだ、こんなもの。彼は根っからの紳士だから。

「人が痛いって言ってるのに笑うのはこの口か〜?」
「あはは、痛いよ痛いって!」
「痛いって思ってるヤツの顔じゃねえけどな」
「ほっぺたとれちゃう!」

 きゃっきゃと私は頬をつねるその手を掴み、どうにか離そうと引っ張った。すぐに離してくれるんだから、ほっぺたはちっとも痛くない。ほっぺたはね。サンジくんはううん、と一回伸びをして、はああと胸にためた空気を吐き出した。ゆっくり膨らんではしぼんでいく胸の動きがなんだか面白くって、私も真似して深呼吸をする。遠くでルフィがウソップを呼ぶ声が聞こえた。そんなに大きくない船なのに、この場所は彼らから見えないのだと考えるだけで、胸が高鳴って仕方ない。まるで秘密基地みたいだ。太陽の日差しをいっぱいに浴びる事のできる、そんなおっぴろげな秘密基地。横に並んで一緒に深呼吸を繰り返したら、身体の仲の空気が全て抜けて行ってしまうような感覚がした。サンジくん、サンジくん。目を閉じて気持ちよさそうな彼の横顔へと顔をひねる。なんだ?とその返事は鮮明で、私がぼうっと彼の顔を見つめてしまうのは、眠気のせいなのか、まぶしいせいなのか、そうではないのか、なんだろう、よくわからないな。

「深呼吸したら、気分よくなる?」
「うーん、そうだな、少し落ち着くな」
「体の空気が抜けてしまいそうって思うの、私だけかな?」
「あはは、なんだいそりゃ。」
「なんだか、寂しいかんじがするの」
「体から空気がなくなるのが寂しなんて、おなまえちゃんもしかして空気人間か?」
「なあにそれ!ちがうよ〜!」
「でもふわふわしてるから、あながち嘘でもないかも」
「ええ?ふわふわしてるのはチョッパーだよ」

 あれはふわふわじゃなくて、もこもこだ!
 サンジくんが両手を伸ばしてそんなこと言うのが、なんだかおかしくって、私は真剣だったのにふふ、と笑いをこぼしてしまった。わたあめチョッパーはもこもこだ!こぼれそうな笑いを両手で口の中に抑え込んでそうやって言ったら、なんだか楽しくなってきて思わず両足をばたばた動かした。行儀悪いぞ!そう言いながらサンジくんもごろりと寝がえりを打って私の方に近づく。サンジくんだって一緒じゃない、ごろごろごろごろ、子供みたい。ナミちゃんに見られたらどうするの、と言いそうになって、言葉にしたらもっと体から空気が抜けそうで口を閉じた。

「体から空気が抜けるの、私いやだな」
「それが本当なら、おなまえちゃんはなんて欲張りな子なんだろう!」
「抜ける空気すら、もったいないのかも!」
「ナミさんみたいだな!」

 あはは、と両手両足を広げて気持ち良さそうに、豪快にサンジくんは笑った。子どもみたいだし、そう言えばまだ私たちは子どもなんだったと思った。ロビンちゃんも、ナミちゃんもここにはいない。サンジくんはスーツをぴしっときめて、背筋をピンと伸ばさなくてもいい。ナミちゃんやロビンちゃんの小さな変化に気を配って、拾い上げるように言葉を紡がなくてもいい。ごろんと寝がえりを打ったらサンジくんも一緒になってごろごろ転がってくれて、ふざけてサンジくんのキックを真似したって、彼は、笑って許してくれる。いい筋だぜって褒めてくれる。ところがナミちゃんが同じ事をしたらどうだろう。彼は紳士にも止めるのだろう。あなたがそのようなことをしなくてもよろしいのです、と大人なサンジくんは諭すのだろう。伸ばした両足にたくさん刻まれた小さな傷をサンジくんはかっこいいぜと前に笑ってくれたなあ。そんな事を思い出していた。

「ねえサンジくん、オールブルーの話きかせてよ!」

 起き上がってそう言えば、サンジくんは目をきらきらさせて、足をばたばたさせて、お話を始めてくれる。その大きな口をいっぱいに開いて笑ってくれる。ナミちゃんの前だったら、ロビンちゃんの前だったら?深呼吸をしてもいないのに、空気が一つ、抜けたみたいな感じがした。



僕は空気で出来ている
(20140316)
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